第20話 三度、姿を消す
僕の胸中を巨大な後悔が占める。
回避不可のタイミングといっても、それは僕の独力でに限る話だった。どうして姫が動いちゃう可能性を考えられなかったんだ。
姫の位置から術式発動に気づいた成長は感心だけど、こんなサプライズは……。
「で、殿下が! クレイ師団長がなにかを!?」
「いやしかし、いつの間にやら殿下が瞬間移動したと思ったら、またいなくなっているし……なにがなにやら……」
「見ていたら分かるだろう! ――殿下はあの魔術師を庇って、なんらかの魔術を受けたのだ! その結果、姿を消して……ッ」
すこし遅れて騒ぎ始める聴衆。ざわめきは次第に大きくなって、すぐに広場を揺らすほどに。
この空気はよくない……。みんなの非難が明確にスウさんへ向きだした。
まさかスウさんが姫を狙ったはずないけど、いまの【転移】術式を知ってる者は限られる。
いま一番避けるべきは、スウさんの弾劾、場合によっては投獄によって姫の行き先の手がかりを聞き損ねること。だから、寄ってくる貴族や護衛の騎士たちに先んじて僕が――と。
視線を向けた先でスウさんは、手元の地図に視線を落として速く浅い呼吸を繰り返していた。
「スウさん……ッ」
そして。
声を掛けた、その瞬間だった。
「――ち、ちがう! ボクじゃないッ! ボク、王女サマをどうにかしようなんてそんな……!」
「! っそれは、分かって――」
「ちがうちがうちがう、ちがう……ッ! ごめんなさいっ! やめて、そんな目で見ないで! 捨てないでぇ! もう暗いとこには戻りたくないのッ。ぅ、ぅぅうううう……!!」
「スウさん……?」
どうしたのスウさん……。
頭を抱えて髪を振り乱すその様子は尋常じゃない。無意識なのか気までまとって、これじゃ余計に……!
「見ろアレを! まだ攻撃を続ける気か!?」
「乱心したな、クレイ師団長! やはり殿下をやったのも……ッ」
そうだよね、貴賓席からはそう見えちゃうよね。
「マグワイアさん! 向かってくる騎士の足止めはお願いします! ついでに影も……っ」
「あ、ああ。だが……なにがなんやら……!」
マグワイアさんもスウさんの近くにいたけど地図の術式発動や姫の突進には間に合わなかった。
気という速度面でアドバンテージがある力でもそうなんだから、今回の攻撃は敵が見事と言うほかない。
だからせめて、リカバリーをと。
スウさんに迫る手はマグワイアさんに任せて、僕は急いでスウさんを宥めようとした。
――しかし、その時。
どこか遠くで微かな魔力の動きを感じたかと思うと……直後、目の前に魔術陣が。
「これはっ。また、【転移】……!」
どこかで術者が見てる?
媒介はさっきと同じでスウさんの地図で、対象は……っく、僕が含まれてない!
けど、今度こそ間に合う。姫を連れてかれてからすぐに練り上げてた星験で、発動前に魔術陣を解体すれば――
「ぁぁああああぁあ! ――――ぁ……」
白い魔術陣越しに、はっとした様子のスウさんと目が合う。
「――……せ、責任を……っ。ボクが――!」
気で覆われた腕を突き出して。魔術陣を貫いて広げた手は、僕から魔術陣を守ろうと?
たぶん気はある程度星験にも干渉できる。スウさんの行動には、僕に陣を解体させまいという明確な意思があった。
助けられる気がない人を助けるのは難しい……。
「ごめんなざい……っダメな、ボクで。でもせめて、王女サマはボクが……――」
魔術陣が一際強く光って、今度はスウさんがその姿を消す。
僕が伸ばした手は、結局スウさんの手を掴むことなく空を切った。
壇上に残るのは、もはや僕とマグワイアさんだけに。
「おいおい、次から次へと……! マズイだろこれは! っあ、おい、そこのお前さんそっちは……って、お嬢ちゃんはいいんだっけか?」
マグワイアさんを素通りして僕の目の前に現れたのは、小柄な体型の影――カレンさんだ。
僕が何も掴めなかった手を下げ、目を瞑って魔力を練っている。カレンさんが、顔を険しくして口を開く。
「アルベルト氏が、ついていながら……ッ。ご主人は間違いなく無事に連れ帰らねばならぬ……!」
「……分かってます」
「分かっているならば……! ……っお主の力が、ご主人奪還には必要なのだ! 落ち込んでいる暇など――」
「――コール代行官補佐! 容疑者であるクレイ師団長がいなくなったいま、最後に最も近くいた貴方へ事情を――!」
カレンさんの言葉を遮って、一大事に駆けつけてきた別の師団の騎士たち。
マグワイアさんに止めてもらうのも限界みたいだ。
けど。
「――おいアルベルトぉ! さすがにもう無理だぞ! クレイ師団長も消えたし、もう通していいか!?」
「――アルベルト氏! はやく、ご主人をっ!」
二人の呼びかけに僕は…………目を開け、眼前に手をかざす。
分かってる。僕も姫とスウさんの奪還を第一に考えてる。
それに。
僕だって今回のことには……腹を立ててるんだ。僕の大事な人たちを、立て続けにこそこそと狙って……!
だからもう。――――直接、殴りに行かせてもらう。
僕は練り上げた魔力と、さっき二度も見た【転移】の魔術陣を想起して。
魔力を放出した。
「【炎】、【風】、【土】」
三つの魔力を重ねて、作り上げた魔術陣に流し込む。発動する魔術は――
「――――転移・反復」
「えっ」
この前に見たときは、一瞬すぎて複雑な魔術陣の解析が間に合わなかった。でも、今日はもう追加で二回も見たんだ。
【転移】の術式は高度すぎて、まだ行き先の指定まではできないけど。
それでも――――さっき見た魔術陣の転移先を変えずに、四大属性魔力で再現するくらいはできるから。
「みんなの前でやっちゃうと、僕も姫の誘拐犯扱いされそうだけど」
そんな話は姫たちを連れ帰ったあとに考えたらいい。だから、いまはまず。
「行ってくる――!」
魔術陣が一度激しく光ると同時、覚えのある浮遊感が体を襲って――――
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