第21話 救済と、蹂躙の前触れ

スカーレット視点です。

―――




 スカーレットは目を瞑り、気持ち悪さを必死に堪える。


 グネグネと揺らぐ光の中、どことも知れない場所へと飛ばされている最中。その心情は、前回アルベルトと飛ばされた時とは大違いだ。


 脳裏をよぎるのは、さきほど広場で向けられた視線。数えきれない人の眼差しからは、強い非難、あるいは拒絶が。


 ……どうしても、故郷にいた頃のことを思い出してしまう。


「みんなまた、ボクを虐めるんだ。それに、な、なにより……アルくんに……っ!」


 ――きっと、失望されてしまった。


 彼のためになりたかったのに。彼の古傷を抉ってしまったお詫びをしたかっただけなのに。


 なのにあんな……初めて見た。アルくんがあんなに感情を露わにした目……――。


「ぅう、ごめんなさい……。絶対に、王女サマを連れ帰らなきゃ……。じゃなきゃアルくんに――許してもらえない……ッ」


 半分ベソをかきながら、早く転移が終わることを祈る。もはや極限まで余裕を無くした彼女は、騎士としての立場や、王族に危害を加えた罪など頭から抜け落ちている。


 ……だって、やっと見つけた理解者なのだ。


 ひどく醜いこの世界。人と違うから、力が強いからと、親や親戚、同じ村のみんなだって言葉を交わしてくれない。


 家を追われ、ドブをかけられ、石を投げられ……あげくに対魔物の罠なんかにかけられたり。


 そんな世界でできることなんて、家から持ち出した英雄譚を擦り切れるほど読んで、空想の中だけでもみんなに慕われる英雄になるくらい。


 運良く騎士団の目に留まって王都に来ることができなければ、いつまでも一人孤独だった。


 そんな優しくない世界で。騎士として頭角を現しても、誰も真に自分のことを理解してくれなかった世界で。


 ただ一人、スカーレットと同じ痛みを知るのは――。


「同類相哀れむって言われたら、否定はできないけど……っ」


 それでも。……本人に自覚はなくても――――一目惚れだったのだ。


 スカーレットにはすぐに分かった。彼の中に空虚さが渦巻いていること。きっと自分と同じような目に遭ってきたんじゃないかと、そう思った。


 だから、声をかけて徐々に親しくなりながら、師団長という地位を利用して彼のことを調べた。


 すぐに分かったのは、彼が史上最年少で宮廷魔術師に抜擢された麒麟児であること。そしてその経歴を買われ、王女キルリエラの魔術指南を行っていること。


 やっぱり、と。彼もその才能で周囲から疎まれてきた人間なんだと、どこか仄暗い喜びを抱いたものだ。


 それからは以前より積極的に、彼と仲を深めるべく言葉を重ねた。


 その穏やかさ、思慮深さ、そして歳下とは思えないほど達観し、どこか包容力がある様に、スカーレットは夢中になっていった。


 誰かと自然体で会話できたことなんて、これまで一度もなかったから……。


 だけど。そんな彼との心地よい関係も、無理やりにでも先へ進ませざるを得なくなった。


 そう。――キルリエラに端を発するクーデターである。


 あの一件以来、アルベルトは国の重要な役職に就くことになった。そして、キルリエラもどこか吹っ切れたのか、これまで以上にアルベルトと距離を詰める。


 このままでは置いていかれると、そう焦った末の指名依頼だ。


 依頼では色んなことがあったけど、結果として仲を深められた。彼の穏やかで、どこか胸た下腹がキュンとする声に従う心地良さたるや……と。


 そう、思っていたのに。


「――王女サマはきっと、もっとボクの先を行って……っ。このままじゃアルくんを盗られちゃう……! でも、でも、王女サマを取り返さないと、アルくんに嫌われちゃう――!!」


 スカーレットの心は千々に乱れる。


 いまだ情緒が十分に育っていないスカーレットは、その分厚い心の殻を剥けばその実繊細な少女同然。アルベルトに向ける思いも盲信の類だ。


 ただ、そんなスカーレットだからこそ分かる。キルリエラがアルベルトを特別に思っているのは勿論だが――その逆もまた然り。


 それでもスカーレットは、なによりも優先すべきことだけは間違えない。




 もう、二番目だっていいから――――せめて、彼のそばにだけは……。




 そんな必死の祈りは…………開いたまぶたの先で、転移の光が消えていくのと同時、焦燥感に塗りつぶされる。


「早く、王女サマを……っ!」


 そして、光が収まった先にあったのは。


 いつぞや見たのと似た施設と。


 ――鋭い剣先による、荒い出迎えだった。


「貴重な星験使いの調達、ご苦労だったなァ。まさか王女の方を連れてくるとは驚きだったぞ。あとはもう、余計な情報を漏らす前に消えてくれ……」


「ッ!」


 【転移】使いの大男の剣が迫る。


 スカーレットは瞬時に気を活性化し、腰の剣を抜いてなんとか受け止める。


 そして……感情が爆発した。


「お前の、せいでぇ……ッ!!」


「俺もこんな小賢しい真似はしたくなかったが。……まァ、頭の軽い自分を恨むことだな」


「黙れぇ!」


 達人同士、二度目の邂逅直後から激しく火花を散らす。


 だが、達人同士であるからこそ……スカーレットの最悪に近いコンディションが勝敗に直結する。


 以前とは違い最初から短距離【転移】を使う未知の戦術もまた、スカーレットにとっては不利な要素。


 そんないくつもの悪条件が重なった結果、スカーレットは思うように戦うことができず……決着は、すぐについた。


「――終わりだ、アトラスの将。お前個人には恨みもないが、まァ……死んでくれ」


「ぅう……! 返せ、王女サマを! 返せぇ! アルくんの、ぅううう……ッ」


「じゃァな」


 膝をつくスカーレットに向けられた白刃。


 明らかに乗り気でない大男だが、その顔に甘さは一切ない。スカーレットの胸中など知らぬとばかりに剣を振り上げる。


 スカーレットは思う。


 ――なんにも良いことなんてない人生で、救いはアルくんだけだった。


 もっと一緒にいたかったし、彼の役に立ちたかった。あの心地よい時間を、もっと一緒に過ごしたかったのに。


 ボクは最後まで、最愛のアルくんにまで嫌悪を向けられたまま……死んじゃうの?


 そんな、そんなの……。




「――たすけて、ぇ……アル、くん……」




 涙とともに溢れた言葉は。


 無情にも斬って捨てられる、そのはずが――




「――――聞こえたよ。スウさんの声」




「……なぜッ、、お前が!?」


 突如現れる金光をまとった人影。


 まさに文字通りの救世主が、スカーレットの首を落とす寸前の剣を、その持ち主ごと殴り飛ばす。


 気で強化されている剣は大きくひしゃげ、大男と一緒に近くの壁へと叩きつけられた。


 舞い上がった破片や土埃が飛んでくるが、吹き上がった星験に蒸発させられる。


 そして。


 アルベルトは瓦礫の下に絶対零度の視線を向け、静かな怒りを口からこぼす。




「覚悟、できてる――――?」




―――

スカーレットにとっては、アルベルトが助けに来てくれた事実だけでもう救いに。


あとは敵ボコってキルリエラ救出するだけですが、キルリエラもキルリエラでただ大人しく待っているだけのピ◯チ姫じゃないので、何やら企んでいる様子……。




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2026年1月21日 00:04 毎日 00:04

万能孤高ヤンデレ姫たちは年下宮廷魔術師の父性に溺れる! 〜姫に懐かれすぎて王からクビ宣告。王命で結婚を退職理由にしたら姫の目から光が消えた〜 クー(宮出礼助) @qoo_penpen

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