第15話 天啓
メルちゃん、背後に迫ったスウさんの剣に気づいてなさそう。スウさんの奇襲は成功かな。
……でもスウさん、まさかほんとに殺す気はないよね? 絶対面倒なことになるから気絶くらいで済ませたほうがいいって、ちゃんと分かってるよね?
「――殺……ッ!」
剣をくるっと回して腹で叩こうとしてるのが見えたけど、その勢いだとたぶん死んじゃうよ。
僕は咄嗟にスウさんを制止する声をかけようとして、その直後。
目を疑う光景が――。
「きゃあっ――!? なになに? 後ろっ?」
メルちゃんがそう声を上げた、ということは。
……スウさんの剣は、その意識を失わせることができなかったということ。今の発言から、スウさんの存在に気づいてたとは思えないのに。
じゃあ、メルちゃんの首を打とうとした剣はどうなったのかというと。
「――ボクの剣が、進まない……ッ?」
メルちゃんの首裏に例の銀光――星験が集まってる。それはまるで自ら意思を持つように蠢いて……なんと、スウさんの剣を物理的に押し留めてる。
「こ、の……ッ」
「わっ? ……っ」
ぐぐっと剣を押し込もうとするスウさんと、それに驚いた直後、ちょっと恥ずかしそうに顔を顰めるメルちゃん。
「……おまえ、なんで後ろにいるの? 騙し討ちなんて野蛮……っ」
「人を攫って閉じ込めるやつの方がよっぽど野蛮だろう……! っく、これ……キミの意思とは関係なくっ?」
確かに、スウさんの言う通りみたい。もはや剣の腹とか関係なく超速で斬撃を繰り出し始めたスウさんだけど、刃がまったく通ってない。
よく見ると、常人じゃ反応できないはずのスウさんの剣に合わせて、白銀のオーラが細かく動いて迎撃してる。
この挙動には……心当たりがあると言えば、ある。星験を使って自身のあらゆる怪我や病気を回復させる、
「――スウさん! 星験は、術者の意思から独立した迎撃を可能にするみたいです! おそらく星験が持つ特徴は――――この世界の魔術的制約すら一部無視した、理想の実現!」
「理想の? よく分からないけど……っ、厄介な……!」
薄々そうかもとは思ってたんだ。
完全回帰は、治癒魔術に必要な人体に対する医学的知識もいらず、ただ無条件に体を癒す。金剛強化だって、なぜか本来考慮しないといけない身体部位ごとの強化倍率操作を無視して、適当な発動で全部上手くいく。
星験を使えるようになったのが本当に最近だし、日中は姫の政務補佐があるから、ほとんど検証できてなかったんだけど。
要はこれ、魔術みたいに作用の仕組みや物理的制約を考えなくても――なんかいい感じに求める結果を実現してくれる。
その一番わかりやすい形が、メルちゃんがやってる自動迎撃――。
「くっ……こいつ、明らかにボクの剣を追えてないのに!」
「メルはね、星に愛されてるの。だからこんなの、いくらやっても届くわけないし!」
「くっ……これ以上、アルくんに情けないとこ見せるわけには。――なら、これでどうだい……!」
――あれは?
メルちゃんから距離を取ったスウさんが、裂帛の気合いとともに剣を掲げた直後。
剣にどんどん気が集まってきて、その輝きが増していく。
「この気は、さっきまでとは違う。ボクの肉体の組成に関わる気を引っ張り出してるんだ。だからこそ、密度も純度もこれまでとは桁違い――」
肉体の組成……?
……もしかして。聞いたことがある。
生まれながらに気を操る……というか、肉体自体に気が染み付いていて、いっさい意識せずともその恩恵を高度に引き出せる人間が稀にいるって。
ただでさえ気を操る適性持ちは少ないのに、その中でもほんのごく一部、その才能を持つ者はこう呼ばれる。
人を超えた人――――超人、と。
「――知ってるかい? 高純度の気は、収斂を繰り返すと次第に色を失っていくんだ」
スウさんの言葉通り、剣を覆うオーラは緑が次第に薄れていって。
代わりに、その存在感はいや増すばかり。
それは透き通っていて純粋で……どこか根源に近い、星験にも似たエネルギー。
「……なにそれ、メルの真似でもしてるつもり? ムカつく……ムカつくムカつくムカつくっ! おにーさん貰おうとしたら邪魔するし、なんか楯突いてくるし!」
対するメルちゃんも、さっきまでとは違う。
自動迎撃するだけじゃなくて、今度は能動的に攻撃しようとしてる? 大量に湧き出す銀の光が、渦を巻いて円型に。
……あれは、まさか魔術陣?
「おまえこそ知ってる? 星験を攻撃に転化したときの、その威力! おまえなんか塵も残らないから!」
「それがキミの大技か。いいよ、やろう。ボクの方がより強くアルくんに仕えたがっているって証明してあげる――」
「メルは仕えられる方だし! それに、メルが欲しいって言って手に入らないものなんか、この世にあるわけない! 世界でいちばん星に近いのはメルなんだから――!」
二人が互いに力を高め合い、今にも衝突しようとしている――――この場において。
しかし、後ろで怯える村人たちのことも一時的に忘れて、僕だけはこの新しい気づきに思わず興奮していた。
そう、いまメルちゃんが繰り出そうとしてる技、その星験の動き。魔術陣に似た紋様を描く星験だけど、たぶんあれも、メルちゃんが意識してることじゃない。
魔術の行使ってどうしても集中した魔力操作がいるから、術者の会話や雰囲気からもなんとなく分かるんだよね、魔術を発動しようとしてること。
なのに、いまのメルちゃんからはそういう集中が一切感じられない。それでも、星験はひとりでに陣を描いてる。
きっとあれも、星験を攻撃に使う上で効率的な所作を、星験が自動でなぞってるんだ。まるで世界に刻まれた法則を再生するように、ともすればそれはたしかに超常的な神の存在を感じる……。
だけどいま僕が思ったのは。
いるかどうかも分からない神のことでも。目の前で衝突しようとしてる極大の力でも。
その、どちらでもなく。
脳裏によぎる、銀色の星を散りばめたようなその髪を……。
「これで姫の固有魔術問題にも、解決の糸口が――」
そう、呟いた直後。
極限まで輝きを増した二星が、とうとう互いに牙を剥く。
「見えない斬撃の檻で、その傲慢を悔いるといいよ……。――
「おまえこそ、星の子への無礼を詫びて……! ――
スウさんが向ける冷え切った視線の先で。不可視の斬撃がいくつも交わり、格子状の面として飛翔するのを感じ取った。
面の端が接する抗魔鋼の壁には、斬撃が進むとともに――深い傷が刻まれていく。
そして、対するメルちゃんはというと。
あれは……極太の光線? でもただの光線じゃなくて、なにかもっと不吉な気配を感じる。
直感だけど、あれに当たったら大事な何かが壊されてしまうような、そんななにか……。
だけど。
その滅びの光と、スウさんの放った不可視の斬撃が、やがて真正面からぶつかり合って。
そして――――拮抗した。
「――メルの光を止めたの!? 普通の攻撃じゃ干渉すらできないはずなのにっ!」
「こっちだって、見えもしない、すべてを切り裂く斬撃を……ッ!」
互いに必殺の技だったろうから、止められたことに互いが驚きを隠せてない。
それでも、すぐに追加の気や星験を注ぎ込んで、互いの切り札を食い破ろうとするのはさすが。二人はもはや牙を剥いて、拮抗を崩そうと出力を上げていく。
ガリガリとなにかを削るような音が響き、周囲に危険な光や斬撃の残滓が飛び散る。
そして。
僕は魔力のベールで村人たちを覆って、スウさんたちの衝突の余波から守りながら。
星験を、呼び起こす。
「偽・【星天】――。メルちゃんがスウさんの相手で手いっぱいだっていうなら。今ここで、新しい使い方を」
金色に輝く力を無理に操作しようとはせずに。大まかに陣の概観だけ描いてやれば後は……ぉお、ほんとに自動で!
僕は目の前に展開された黄金の魔術陣の、その緻密な構造に思わず目をみはる。
「ま、魔術師様……!? なんだこれ、この……巨大な円が、いくつもッ!?」
廊下に展開できる最大サイズ――僕を二人並べたくらいの直径の魔術陣が、微妙に異なるサイズ・構造で五枚重なって並ぶ。
「――は……え? なにそれ、そんなのメル知らな……っ、おにーさんっ?」
気づいたメルちゃんが呆然と僕を見る。
そんなメルちゃんに対し、僕は新たな試みの成功に満足した気持ちで。
優しく笑みを浮かべ、言った。
「――降参……する?」
――そうして、僕らは。
結果、誰一人怪我人を出さず、全員揃って至星教施設を脱出することに成功して。
外がジキール共和国の領土内だったことに驚きつつも、姫の令で国境に展開されていた王国軍と連携を取り、無事に王国へ帰還することとなる。
ジキールに激怒し、直接乗り込む寸前だった姫との再会で一悶着あったのは、また別のお話――。
―――
明けましておめでとうございます! 今年も去年に引き続き拙作をお楽しみいただけると嬉しいです!
ちなみに、今話でメルちゃんがやったのはアレです、ガンマ線バースト。そんなの止める時点でスウさんも常人の領域とっくに超えてるという……。
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