第14話 可愛くないキャットファイト

 ああ、スウさん気まで使って。


 引き抜いた長剣が一瞬でまとった緑の波動は、周囲の抗魔鋼のせいで不安定にゆらめく。それでも強化を発動できてるのは、きっとその出力によるゴリ押しだ。


 というか、ちょっと待って。


「ボクの主様にたかる害虫は……駆除だ。丘薙――」


「っダメだよスウさん! 止まって!」


「――……っ! はいっ、アルくんの言う通りにするよ……!」


「あ……。止まってくれるんだ」


 僕に全ての判断を丸投げされてるようだけども。


 騎士団の責任者が僕の言うがままでいいのかな? 僕には都合いいけど。


「よし……メルちゃん。スウさんがごめんね」


「ホントだよ。メルに逆らうとか、がいたら即殺されたっておかしくないんだからね? おにーさんの連れだから特別に許してあげるけどー」


「それは、ありがとう? でもなるほどね、普段は護衛みたいなのがいるんだ」


「もちろん。メルってちょー重要人物なんだから」


 ああ……スウさんめちゃくちゃイライラしてる。気は散らしたけど剣は構えたままだし、殺気立ってるし、舌打ちしてるし。


「この女……さっきからボクの主様に色目使って。卑しくて浅ましくて、おまけに高慢なエロガキ――絶対に許せない」


 なんという言葉を。


 とりあえず今は、メルちゃんの方を。


「それで、メルちゃん。さっき君は僕が残ればって言ったけど……それはちょっと難しいんだ」


「え? メルが言ってるのに? ……なんで?」


「それはもちろん、僕が帰りたいっていうのもあるけど。……それだけが理由なら、別に残っちゃっても良かったんだよね」


 メルちゃんの話を聞くに、星験を使える僕が酷い目に遭うこともなさそうだし。スウさんや他のみんなを帰せるならそれでも良かったんだ。


 ただ、唯一の問題は――。


「僕が王国に帰れないと、メルちゃんにとっても良くないことが起きると思う。それこそ、王国内の至星教撲滅とか始まってもおかしくない」


 ぼかして言ったけども。……要は、姫が暴走するって話。最近どうも過激化してるから。


「そもそも、アルくんを残していくなんてボクが絶対に許さない……ッ。ここでボク一人死ぬまで暴れてでもっ――いや、それじゃダメだ。あの王女サマからアルくんを解放するには、ボクが生きて帰らなくちゃ……! あぁ、ボクの主様が魅力的すぎて辛い――」


「……誰だか知らないけど。おまえ一人残ったってメルちっとも嬉しくないから。おにーさんいないのに生きて帰すわけないし」


「……へえ? 戦いのいろはも知らない小娘が、よくそんな大口を叩いたものだね……。実戦で磨かれたこの刃、その身に受けてみるかい?」


「やってみたらー? 別にメル、護衛なんていなくたって強いんだからね」


 スウさんもメルちゃんも、互いに睨み合って一触即発に。


「おにーさんは手を出さないでね。そしたらメル、手が滑って後ろのまでやっちゃうかも?」


「……――」


 人質ってわけだね。メルちゃんの実力が未知数な今、確かにそれは僕らに有効な手だ。


「ま、魔術師様……」


「心配しないでください。宮廷魔術師として、守るべき王国民が最優先ですから。みなさんは安心して僕のそばに」


「あ、ああ……っ」


 こうなったら仕方ない。


 スウさんは騎士団の師団長だけあって、世界でも有数の実力者だ。いかにメルちゃんが未知数の実力者でも、簡単にやられることなんてないって断言できる。


 それに、本当にまずくなったら僕も援護する。体を張ってでも、スウさんとみんなを同時に守ればいい。


 だから。


「スウさん。お願い、できますか?」


「――!! っまかせて、アルくん……! ボクが一番アルくんの役に立てるってところ、見せてあげるからっ!」


「その思い上がり、メルが叩き潰してあげよーかな。そしたら――おにーさんは、メルのだからね?」


 二人はそう言って、どちらも僕を見る。


 スウさんはその赤い瞳に、主人へ向けられたドロドロとした思慕を。メルちゃんの瞳からは、小悪魔的な自信と無邪気な欲を。


 そして互いに向き直ると、いかにもこれから正々堂々の決闘が始まるといった雰囲気が流れて。


 ――直後。


 スウさんの体、そしてその剣が一瞬で高密度な気に覆われたと思うと。


「き、騎士様が消えた!?」


 さっきまでスウさんがいたところには、翡翠の残光が。


 そしてメルちゃんに目を向けると――その身に迫る、巨大な気刃。


 メルちゃんはちょっと驚いた様子で目を開いたけど、すぐさま不敵に笑った。


「ふーん? まあまあやるみたいだけど、こんなのなんてこと――」


 ……僕は見ていた。


 全身に気を充溢させたスウさんが、一帯を塗りつぶす閃光とともに斬撃を飛ばした直後。


 体のうちへ気を潜り込ませて、強化はそのまま暗殺者のように存在感だけ消すのを。


 そしていま、廊下の壁を蹴り付けて宙を跳びながら、斬撃を追い越してメルちゃんの後ろに回り込む。


 ぬらりと鈍く光る剣閃が、メルちゃんの首へと向かって――。




「――見敵、必殺。アルくんを奪おうとする泥棒猫は……あの厄介な一人で十分――」




 殺意が高すぎる。




―――

ちょっと短くてすみません! できれば正月にもう一話更新する予定です。

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