第13話 星女のラブコール

「――ッ誰だ、キミは……!」


 スウさんから鋭い誰何すいかの声が飛ぶ。


「き、騎士様、そんなに強く言わなくても……。こんなところにいるとはいえ、まだ子どもだろう?」


「素人は黙っててくれないかな……ッ。アルくんもボクも揃って気づけなかった、ただの子ども? そんなの、いったいこの世界のどこにいるっていうんだ……!」


 ――それは僕も同意見。効果が薄くても探知用の魔術は使ってたし、さすがにこんな近距離で見逃すはずない。


 なのに気づかなかったってことは、この子が見た目通りの女の子じゃないってこと。


 僕は女の子の姿をじっと観察する。


 彼女はどうも不思議な服を着ていた。なんというか、教会のシスターさんが着る服を豪華にした感じというか……。


 白を基調に深い紺色の差し色、随所に華やかな金糸が使われてる。襟や袖口、裾も金で縁取られてて、頭には不思議な縦に長い帽子が。


 その下からは頭の両側でふんわり結んだ純白の髪が流れていて、ちょっと生意気そうな吊り目で僕たちを――いや、僕だけを? 眺めてる。


 歳は多分、カレンさんと同じかちょっと下くらいかな。ずいぶん手の込んだ格好と、よく手入れされた整った容姿で、ただの子どもにはとても見えないけど。


 なんと聞いたものかな……。敵地のど真ん中だし、やっぱり手早く単刀直入?


 ちらとスウさんを見ると、体に力を漲らせてはいるけど、僕が動くのを待ってくれてるみたい。


 それなら、と。僕はさっき呼び出した黄金の光を手元でくゆらせながら、おもむろに口を開く。


「君はいったい誰なの? 僕たち、とある人物に無理やりここへ連れてこられたんだけど、君とも関係がある? ――――君は、僕たちの敵なのかな」


 口にした瞬間、この場にピリッと緊張が走る。


 正直に答えてもらえるなんて思わないけど、なにか言わないと始まらないし。村人のみんなを連れて逃げようにも、あの子が未知数すぎて。


 ……さあ、返答はどうかな?




「――あのお。さっき、メルも質問したんだけど。おにーさんが先に答えてよね」




「……。まあ、たしかに」


 あの子……本人曰くメルちゃんは、怒るってほどじゃないけど、ぷくっとほっぺを膨らして不満を表明してる。


 言ってることもこの場じゃなければもっともだし。スウさんが怖い顔で剣抜こうとしてるから制止して、と。


 よし。ちゃんと会話できそうだから、もうちょっと続けてみようか。


「ごめんね、メルちゃん……でいいかな。僕たち急にここに連れてこられたものだから、ちょっと警戒してて」


「わ。メルのことそんな呼び方するなんて、おにーさん命知らずだねえ。いっしょに騎士たちがいたらボコボコに……はできないか。おにーさん、星験使えるんだもんね」


「……それ、さっきのメルちゃんの質問の。えっと……星験せいげんっていうのはこれのこと?」


 僕は例の金光をゆらゆらと動かしてみせる。


 すると、反応は覿面てきめんだった。


「えーすごい! そうそうそれそれ! メルのと色違うし、そんな簡単にも動かせないけど! え、もしかしておにーさんって、うちの偉い人だったりするっ?」


「メルちゃんの……? 君もこの星験を使えるの?」


「使えるよー。ほら」


 ほんとだ……。


 メルちゃんが手のひらを上に向けると、どこからともなく銀色の光が現れる。


 魔力でも気でもないそれは、たしかに姫が使う力――メルちゃん曰くの星験だった。


「ね。メルたちいっしょじゃん。おにーさんめっちゃカッコいいし、お揃いでうれしー」


 悪戯っぽく笑ってみせるメルちゃん。


 なんだか不思議な子だね。見た目よりちょっと幼い言動も、あの未知の力を使えることも。


 それと。いま彼女、すごく気になることを言ってた。「うちの偉い人」って――。


「メルちゃん。いま君が言ったってなんのこと? たぶん僕、メルちゃんが所属してる組織とは別の人間なんだけど、一応聞いてみていいかな」


「えー? そんなこと聞いてくるってことは、おにーさんたしかにうちの人じゃなさそー。でもまあ、いいよ? 教えたげる」


 隣でずっと牙を剥いてるスウさんが、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。そして――。


「メルはね。この世界で唯一正しい教えを広める――――至星教の、星女なんだ」


「! 至星教……それに、聖女?」


「星の女で星女だからね。間違えないよーに」


 メルちゃんの言葉に聞き覚えは――ある。


 至星教っていうのはその名の通り宗教で、たしかアトラス王国にも教会があったりするはず。国によっては、それこそジキール共和国だと国教なんじゃなかったっけ?


 そんな宗教の星女……って言うのがなにかは分からないけど。


「きっと、メルちゃんは特別な立場の子なんだね?」


「まーね! メルこれでも、信徒百万人に教えを授ける偉いひとなんだよね。どう? ひれ伏しちゃったほうがいいんじゃない?」


 いひひ、と。茶目っ気たっぷりに笑うメルちゃんの言葉だけど……あながち嘘とは思えないな。


 この子の格好と立ち振る舞いは、明らかに他者の上位に立つことに慣れてる。


 それに星験――この不可思議な力を使える人を、これまで姫と僕以外では見たことない。


 至星教、星験、星女、それに姫の【星天】。名称に似た部分があるのも偶然じゃない?


 ……うん。だいぶ、メルちゃんから情報を聞き出すことができたね。


 それじゃあ、後は肝心の。


「じゃあさ。もうちょっと、聞いてみてもいいかな」


「えーいいよ。なに?」


 無邪気な問いに、僕は返した。


「――ここは、どこなんだろ? 僕たち元いた場所に帰りたいんだ。外への出口、教えてくれないかな?」


「……んー」


 頬っぺたに人差し指を当てて考えこむメルちゃん。


 なんか、意外といけそうじゃない? ちゃんと話が通じるし、戦闘が始まる気配もないし。


 僕たちの一行にあった緊張も、すこし緩んでくる。


 このまま逃げ出せるんじゃ、と。そんな期待が僕たちの間の広がり始めた――――その時だった。


 メルちゃんが、まるで「名案を思いついた」って感じで目を見開いて。


「えー、じゃあさあ……!」


 そして、僕に向かって笑顔で言った。




「――おにーさんだけ置いてってくれたら! あとのは帰してあげるよ!」




 直後、一拍すら置かずに。


「――――――はぁ゛? 我が君への不敬かい? 不敬だね? よしじゃあもう即…………ッ斬る……――!!」


 ちょっとスウさん。極まりすぎ……!



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