第11話 黄金の力

 僕の視界全てが……眩い光で潰される。


 妙な浮遊感とともに、腕の中で小揺るぎもしないスウさんをしっかり抱え、直前の出来事を想起する。


 ――あの人、確かに【転移】って口にしてたよね。


 つまりこれ、どこか別の場所に飛ばされてる最中? というか転移魔術なんて初めて見たよ、珍しい……。


 なんて、そんなことを考えてるうちに。体にかかる妙な加速度が減少していく。視界を埋め尽くす光も次第に揺らいで――。


「――スウさん、もう着くみたい。何が待ち構えてるか分からないですから、警戒は途切れさせないように」


「あふん……」


 あふん? なにを……って。あ、もう……――――




 ――――視界が切り替わるのは、唐突だった。




 気づけば、あの眩しい光はすっかりなくなって。むしろ薄暗く部屋の中。


 目に映るのは、冷たい鋼色の壁、床、天井。そして、この狭い部屋の外へつながるだろう扉に狭いスリットが開いていて、外からの光が差し込んでる。


 …………これは。牢屋、かな。


 転移先で敵が待ち構えていることも想定してたけど。


「考え得るパターンの中でも優しいほうかな……」


 高空とか火口とか深海とか、環境的に厳しい場所に飛ばすこともできたかもだし。それを思えば、さしあたって命の危険はなさそうな分、幸運だったね。


 ただ……姫の部下として、こんな下手を打ってしまったこと自体は非常によろしくない。僕はもしかしたら気を抜きすぎてたのかも。


 ……はぁ。任務の失敗は姫の体制が揺らぐこと、つまり姫の身に危険が迫ることに繋がるって、いま一度ちゃんと認識しないと――。


 僕はしっかり自分を戒めると、スウさんに回してた腕をそっと外して、固い金属の床で何度か足踏み。ふわふわする感覚を矯正しつつ、スウさんに問いかける。


「無事ですか、スウさん? さっきの戦闘と転移で、怪我とか不調とかないですか?」


 ……。


 なんか、ぽーっとした顔で僕のこと見つめてる。怪我してるって感じじゃないけど、聞いてる? スウさん。


「えっと、大丈夫ですか? どこか悪いなら言ってください。これでも最近、他人にかけられる簡単な治癒魔術を習得したんです」


 あの全快仕様じゃない、使いやすいやつを。だから、ちょっとした怪我や体調不良ならお任せをと、そんなつもりで言ったんだけど。


「――――……っ! いや、だ、だいじょうぶ! ほら、この通りどこも怪我なんかないよ! アルくんが、その、身を挺して庇ってくれたから……っ!」


「わっ。そうですか? ――なら、よかった」


 本心からそう笑いかけると、驚いたように目を見開くスウさん。


 でもびっくりした。急にスウさん大きい声出すんだから。


「ふーっ、ふーっ。……ウッ。――……な、なんてやさしいんだ。昨日はひどいこと言っちゃったのに……普通ならみんなみたいに、ボクのこと嫌いになるに決まってるのに……」


「え?」


「アルくんは年下で、ちっちゃい男の子なのに。あぁ、ボクもう――――ぜんぶ委ねて、アルくんのしもべになりたい……っ」


 なにかよく分からないことを言ってるんだけども。いろいろ良くないことが重なって混乱してるのかな……。


 ……まあ、とりあえず今は。この状況――良く分からない部屋に閉じ込められてる現状を打破しないと。


 でも、実は僕、気づいちゃったんだよね。この部屋の全面を構成してる鈍色に金属、かなり珍しいものだって。


 そう、これって。


「――抗魔鋼、だよね」


 特殊な魔術的性質を持つ金属、抗魔鋼。その性質とはつまり、魔術に対して高い耐性を持つこと。ついでに気にも耐えられるとか。


 そしてさらに、扉のスリットから分かる壁の厚さは、優に人間の体の厚さほどあったりするので。


「僕の魔術でも、スウさんの気を使った攻撃でも、生半可な威力じゃ出られない。おもいっきりやったら破れるとは思うけど……」


 ちらっとスリットから覗いたかぎり、外には無機質な白い廊下が続いてるだけ。でも、ここに僕ら以外にも人がいるとして、大きな音を立てて目をつけられたらまずいし。


 ……じゃあ。僕が取れる選択肢は一つだけ。


「よし。――スウさん……ちょっとだけ、離れてくれますか?」


「ふぅぅ。…………え、あ、ボクっ? ……い、いま、離れてって言った……? やっぱり、ボクのせいでこんなことになったって、アルくん怒ってるのかい……っ?」


「ふふ、違いますよ。わざとじゃないんですから、怒ったり嫌いになったりなんてするわけないです。とくにスウさんに対しては、ね?」


 僕にとって二人しかいない友だちなんだから。


「そ、そんな、まるでボクが特別みたいに……っ。……じゃ、じゃあいったい、どうして離れてなんて?」


「早く敵地からは脱出しなきゃでしょう? 近くにいると、危ないかもですから」


「なにを、しようと……」


「ふふ。敵が来ないのなら、こうやってスウさんとずっとおしゃべりするのも、とっても魅力的ですけどね? ――いまはほら」


 しぃ……と、指の前で人差し指を立てて。


「っ!」

 

 よし。こうして言葉を交わしながらも準備は続けて……と。


 そうして僕は、顔を俯けたスウさんが何も言わず後ろに下がったのを見届けて。


 自身の、四大属性の魔力を呼び水にして――――引っ張り出す。


「……!? な、なにこれっ? アルくん……!」


 スウさんは顔をあげて、驚いた表情で僕を見てる。


 そして、僕は唱えた。




「【炎】【水】【風】【地】の四大を以って、この世ならざる力を。偽・【星天】……――金剛強化」




 直後。


 牢の中に満ちる、黄金の光。魔力とは明らかに違うそれ。


 姫の固有魔術を模倣したそれで、不可思議な力を呼び出し、僕の体を強化して。


 ――――僕らを閉じ込める鋼の檻を、容易く引き裂いた。




―――

スウさんもいろいろ歪に成長しちゃってるんですよね……。


ところで、すみません。年末はちょっと予定が詰まってて、更新頻度落ちちゃいそうです……。

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