第7話 影との再会
さて。
僕が放った、先行するみんなの魔術を追い越した光線だけども。別にこの魔術、自動で敵に向かっていくわけじゃない。
だから僕は、風魔術で事前にだいたいの敵の位置を掴んでおいた。肉眼じゃ見えない建物の中にいる敵まで、ある程度分かってるなら。
「――殺すつもりはないよ。ただちょっと、動けなくなってもらうだけ……」
部下三人の魔術が当たらなそうな敵を狙って、手足と思われる部分を貫いていく。
狙いが狂っちゃったらごめんね。でも君たち、この辺りの村人を何人も殺してるんだから。きっと全部、覚悟の上のはずだよね……。
「……ッ敵襲! 敵――ぐぁあッ!」
ほぼ姿は見えないけど、敵兵の悲鳴があちこちでいくつも上がって。遅れて、他の魔術が敵拠点に突き刺さった。
もうすっかり襲撃に気づいて、敵拠点全体が騒ぎ出したね。でも、魔術が飛んでくる様子はないかな? さすがに敵兵すべては撃ててないから、まだ動けるのもいるはずだけど。
ただよろしくないのは……。――うちの騎士たちがみんな動く気配なくて。呆然と敵拠点、あるいは僕の顔を眺めてる。
「あのー……」
近くで僕を見てる一人に声をかけたら、ビクッとして目を逸らされた。そんな、化け物を見たみたいな……。
うーん。今の魔術に近いことなら先代魔術師団長とかでもできただろうし、騎士団の人たちはそこまで魔術に明るくないだろうから、そこそこ派手にやっても大丈夫と思ったんだけど。
でも、怪我人を減らすためには手を抜くなんて選択肢はないしね。それなら――。
「ね、そこの騎士さん。いまチャンスですよ? たぶんだいたいの敵は動けなくなったはず……あっ、逃げられた! もう……。なら……クレイ師団ちょ――や、スウさん! ほらっ、いまですよ!」
「っ!! あ、アルくん! いまボクの……! ――うんっ!」
名前を呼んだら急に笑顔に。
「――――鬣の盾、総員……進撃せよッ! アルくんが作り出したこの好機、逃すべからず……!」
「……了解、しました! よし、じゃあ、みんな動揺してるだろうけども……! それは俺も一緒だけども! ――師団長の大目玉を食らう前に、各隊手筈通り進め! どれだけ敵が減ったかは分からないけど、チャンスなのは間違いなさそうだし……!」
「はッ!」
ちらちらとこっちを見ながら、小走りで拠点へ向かう騎士たち。
じゃあ後は。僕らの小隊は敵に魔術師がいることを想定して、魔力を練りながら待機かな。
……と、思ったんだけども。部下たちからの視線が……。
「……離れても、建物の中に隠れても、あのレベルの魔術が百単位で飛んでくるなんて……! 途中で軌道変えながら、自分を狙って? 理解不能、です……っ! 頭の中身どうなってるんですか……こわい! ひいぃぃ……」
リリーさんそんな、腰まで抜かさなくても。
「大丈夫です? 立てますか?」
「ひいいいいいっ!? 立てます、一人で立ちますから……! あいたっ!」
ふふふ、焦って立とうとして尻もちついてる。ここまでひどいと逆に面白くなってきた。
他の二人は――。
「嘘、だろ? 規模も速度も威力も、おまけに操作精度まで完全に俺の上位互換じゃないか……! それに光属性だって? 固有魔術は使えないって話じゃ……」
「固有魔術は使えませんよ。あれは四大魔術の組み合わせです」
「……なんだって? 四大魔術だけ?」
「はい。――あらゆる固有魔術は、四大魔術で再現可能ですから」
「……は? 固有魔術を、再現だって? そんな……え? 嘘だろ?」
証明は、師匠にまかせっきりだけど。でも、今のところ例外は見つかってないから。
例えば……。
「【土】と【水】でこう、かな。――ほら、できた……闇線」
黒を塗り固めたような棒状の闇を片手の上に浮かべる。
イグナーツさんの【煙影】も魔術を煙の形で表出させやすいって性質があるだけで、本質としては闇属性みたいだからね。ほら、やってること同じでしょ?
ちなみに形は僕の趣味。この形の方が、さっきみたいに途中で軌道を変えるイメージがしやすくって。
「ば、バカな……。単なる四大魔術で俺の固有を――? そんなの……一人で固有魔術をいくつも使えるようなもんじゃないか……ッ!!」
うーん。マニュアルで固有魔術を再現するのはかなり難しいから、精神的負荷って意味では固有魔術を使えるに越したことはないんだけどね。
ずいぶんとショックを受けてるイグナーツさんを見て、そんなフォローを入れるか入れまいか悩んでいると。
「……――うつく、しい」
「え?」
「――なんて美しい魔術行使なんだ……!」
うわっ。キーレンスさん、隣に立ってたイグナーツさんを吹き飛ばして迫ってきた。なんかめちゃくちゃ興奮してる。
「それはいったい、どうやっているのだ!? 私の魔術とはまるで違う……まさに究極の機能美! 余剰魔力すら発生しない、流れるような魔術行使は芸術だ!」
「あ、分かります? そうなんです、余分な魔力を外に漏らさないためには無駄を極限まで省く必要があって。それ以外にもいろいろと工夫を」
王宮に来てから、姫以外でこれのことを認めたのはキーレンスさんが初めてだよ。そんなに気に入ったなら教えてあげようと思ったその時だった。
急に、がしっと両肩を掴まれて。
キーレンスさんが言った。
「――――どうか、私を貴殿の弟子にしていただきたい……ッ!」
ええ――? 弟子? そんな、瞳をキラキラさせて……。イグナーツさんもリリーさんも、正気を疑うような目を向けてるよ。
「ダメだろうか……? これまで貴殿を侮っていたことは心から謝罪する。形を求めるのであれば何らかの賠償を行ってもいい! これからは敬意を持ち、我らが小隊長として絶対服従を誓おう。……そしてもし許されるのであれば、その美の極致ともいえる技術を、どうか私にも――」
腰を九十度曲げ、そんな熱意ある言葉をかけてくれるキーレンスさん。
弟子はすでに一人とっているから、そこまで言うのなら受け入れることもやぶさかではないけど、と。
そう答えようと思った……次の瞬間。僕は気づく。
――意識の外から急接近する、極めて静かな魔力。
……もしかして敵? 姿は見えないけど確かに魔力だけがそこに……。
「し、師匠? いったいどうしたのだ、急に顔色を変えて……」
僕の返事を待たずして弟子になってる、と。そう突っ込みを入れる間も惜しんで、接近する正体不明の魔力を迎撃しようとしたのだけれど。
唐突に、接近する魔力の周りの空間が歪んで。
そこに姿を現したのは。
――全身を漆黒の装束で包んだ、見覚えのある小柄な少女だった。
いつも姫のそばを離れない影である彼女が?
「カレンさん……なんでこんなところに――」
「――――新たに弟子をとるなど、ぜっったいに許されんッ! ご主人が、それはもう激のおこであるからして……!」
……。
もう、なにがなんだか。
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