第6話 尾を引く

 そして、明くる日のこと。


 重苦しい雰囲気のまま、僕たちを歓迎する宴は終わり。


 僕たちはいま、村の近郊にある森の中へと赴いていた。


「――では。我々の準備が整い次第作戦を開始するので、改めての説明です。まず、コール小隊のみなさんに敵拠点へ魔術を撃っていただきます。その後、魔術での反撃がなければ我々騎士のみで制圧を開始しますが、敵に魔術師がいる場合は対抗魔術をお願いしますね」


 例の、スウさんのお付きっぽい騎士さんがそう説明し、僕たち四人は頷きを返す。


 そして、僕は木々に隠れて作られた野戦基地のような敵拠点を見つめた。


 ……これを見ると、僕らが呼ばれたのも納得だね。木で作られた簡易の拠点ではあるけど、どう見てもこれ、賊が作ったってレベルじゃない。


 拠点の周囲を取り囲む木の杭に、明らかに建築の技術を持つ者が手掛けたと分かる砦じみた建物。森の中だから物見櫓こそないものの、定期的に巡回の兵が見回りしてる。


 まんま戦争における拠点だよ。


「隣国ジキール共和国の旧王制派残党、か。……そろそろ、あの戦争は終わらせなきゃね」


 故郷がなくなる直接の原因となった、旧ジキール王国との戦争。二国間の争いは、表向き終結した後もこうして尾を引いてるわけだ。


 昨夜呼び起こされた郷愁もあって、どこか感慨に浸りながら騎士団側の準備が整うのを待っていると。


 準備を進める騎士たちの方から近寄ってくる長身の影が――。


「――あの、アルくん。昨日はほんとうにごめんね……っ? ボク、無神経なこと……」


「スウさん。もう、さっきも言いましたよ? 僕は気にしてないですから、スウさんもいつも通りでお願いします」


「わかった……、ごめんね……」


 スウさんはしょんぼりと顔をうつむけ、上目遣いで僕を見る。ぜんぜん分かってないねこれ。


 いまもスウさん以外の騎士は、任務を開始するための準備――飛び道具の用意や簡易拠点の構築なんかを行ってるけど……あ。


「あのー……師団長? そろそろ準備終わるんで、そのお」


「……。……分かった。やろうか」


「あっ、行けます? じゃすみませんがお願いしますっ」


 感情が見えないスウさんの声。様子を見にきた騎士さんは、触らぬ神に祟りなしって感じで急いで戻ってく。


 スウさんも、僕にもう一度謝って、騎士たちの方へ帰って行った。


 うーん、大丈夫かなスウさん。落ち込んでて明らかに本調子じゃなさそうだし、部下の人たちとのやり取りは固いし。


 まあ、部下とうまくいってないのは僕も一緒だけど、と。ちょっと離れたところにいる三人を見遣る。


「……おい。あの女たらし小隊長、こっち見てるぞ。俺たち今日はまずいことしてないよな?」


「うむ。まずいことどころか、今日はまだ何もしていない」


「よし。……別にあいつにはどう思われてもいいけど、下手なことしたらよそのお偉いさんクレイ師団長に睨まれるからな」


 またなにか言われてる。でも昨日のでさすがに学んだのか、ちゃんと聞こえない音量だね。上出来だよ。


 なんて思ってたら、イグナーツさんが。


「お前も気をつけろな――リリー」


「……ッ!? 私ッ? 貴方たちが、この私に言っているの!? どの口でですかそれはッ!」


「うわっ。いや別に、単なる忠告なんだが。お前、小隊長の近くじゃなければ以外とやかましいよな……。……いやすまんすまん、悪かったって!」


 うちの小隊唯一の女性――リリーさんに、なにやらきつく叱られてるみたい。


 ……あの人、あんな大きな声出せるんだ。実は僕、リリーさんとはまともに話せたことないんだよね。なぜかひどく怖がられてるみたいで。


 でも、あの三人の中では一番大人しそうだし、うまく手綱を握ってくれると助かるなあ。


 ……と。どうやら、攻撃の準備が整ったみたい。騎士たちが隊列を組み始めた。


 そして、向こうにいるスウさんが声をあげる。


「――まもなく、敵拠点への攻撃を開始する。総員隊列を維持したまま待機……!」


「は!」


 一糸乱れぬ返事。


 なんだ、スウさんさっきまでヘニョヘニョだったけど全然大丈夫そう。


 ……なんて思ってたら。


「――あと、あの。アルくんも、こっちにきてもらっていいかい……? ……ごめんね? 準備ができたら、みんなでいっせいに魔術を撃ってほしくて……」


「……」


 騎士からも僕の部下たちからも。無言で物言いたげな視線が。


「……。大丈夫、僕たちはそのために来てますから。その、は、もっと堂々としてていいですからね」


「く、クレイ、師団長……? そんな、アルくんやっぱり、ボクのこと……――っ」


「いや違くて……。隔意があるとかじゃなく、ほら、みんな見てますから。お仕事モードというか」


「よ、呼んでよアルくん。いつもみたいにボクのこと、スウさんって……ねえ……っ!」


 ダメだこれ。スウさん任務どころじゃないのでは?


「えー、うちの師団長はいまこんななので……。代わりに俺が進めます……。コール小隊のみなさん、やってもらっていいですか?」


 まあ、仕方ないよね。お付きの騎士さんに僕は頷きを返す。


 じゃあ、位置について、と。


「タイミングは僕たちで決めてよかったですか?」


「はい、問題ないです! あとあの、いまは師団長がアレなので、もし敵が魔術を撃ち返してきたらお願いしますね、ほんとに……!」


「はい。そのときは任せてください」


 よし。それじゃあ始めようか。


「とうとう俺たちの出番か。師団長はアレだったが、他にも隊長クラスはいるみたいだし、いいアピールになるか……!」


「私の美しい魔術で、この美しい国を守ってみせよう」


「は、早く終わらせて、逃げたいんですっ」


 一人おかしなことを言ってるけども。まあ、ちゃんとやってくれるならそれでも、と。


 僕たちは一斉に魔術発動の準備に入る。先制攻撃の利点を活かして、丁寧に魔力を練っていく。


 ……うーん。みんな宮廷魔術師だけあってスムーズではあるけど、けっこう魔力漏らしてるなあ。


「どうだ。この隊でも一番魔力が多いんだ、俺は……!」


 イグナーツさんは特にかな。今度訓練つけてあげなくちゃ。


「それじゃあ、いくぞ……! これが俺の――【煙影】、黒矢!」


「流麗な私の魔術を見よ。【氷像】、氷剣乱舞……!」


「早く終わらせるには、その分だけ強力な魔術です……ッ。【荒嵐】、風雷神掌!」


 拠点に向けて展開された魔術陣から、それぞれの魔術が射出される。


 イグナーツさんからは黒煙を固めたような矢が二十本ほど。キーレンスさんは、美麗な意匠が施された氷の剣を十本。


 そして、リリーさんのは一番強力だ。雷を帯びた暴風が、人間の身長くらいの太さで拠点へと突き進んでいく。


 うん、さすがは宮廷魔術師だ。もちろん改善すべき部分はいくつもあれど、魔術学園時代でもめったに見なかった完成度。


 ただでさえ騎士団と比べても入団のハードルが高く、人数も少ないからね。王国一の精鋭集団と言われるのも頷ける。


 ……ん? なんか、めっちゃ見られてる。部下だけに任せてないで僕も、ってことかな。


「小隊長も、見せてくれよ――王女殿下に見初められた魔術の腕ってやつを……!」


 それは挑発かな、イグナーツさん? ふふ、そういう対抗心は魔術の上達の近道だってむかし僕の師匠も言ってて――って、あ……。


 やばい。さっきまで落ち込んでたスウさんが、イグナーツさんに目をぎらつかせて――。


「……もちろん、僕も参加します! 小隊長としてみんなの様子を見たかっただけで、ね? だからほら、いきます――」


 スウさんが爆発する前にと、瞬時に展開するは巨大な白い魔術陣。すでに精錬を終えて体の中でぐつぐつと煮える魔力を引っ張り出して、そして。


 口にする、魔術発動の鍵。


「イグナーツさんが影だったら。僕は……――光を」


 何も考えず皆殺しとかはダメって話だしね。国際問題だからって。


 ……だから、故郷のみんなを殺した国の人たちが相手でも。僕は文化的にいくよ。




「 【風】、【炎】――――光杖・二百連」




 細い光の直線が、宙で何度も折れて方向を調整しながら。


 ――故郷の仇たちを、音もなく討つ。



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