第3話 「鬣の盾」師団長
「――いやあ、すみませんね。王都を離れてこんな遠くまで。宮廷魔術師のみなさんは基本的に王都を出ないと思いますが、我々の活動範囲は王国全土なもので」
迎えの騎士の言葉を聞きながら、家々が立ち並ぶ間を進んでいく。目的地は村長の家らしい。
「本当なら我々だけで解決したかったんですけど。どうも敵に手練れの魔術師がいるみたいだったり、他にも魔術師の力が必要な状況とあって、みなさんにお声がけした次第です」
「ふむ、そうなんですね。それで、より詳細な依頼内容は責任者から……でしょうか?」
「はい、すみません……。機密にも触れるので、師団長から直接でお願いします。それに、師団長もご自身で直接ってのをどうも……楽しみにしてるみたいでして」
「楽しみ?」
聞き返したら、騎士さんは「あっ、やべ」みたいな顔に。はいはい、聞かなかったふりをしておきます。
でもまあ、師団長さんの話を聞く前から、というか王都を発つ前から、ある程度の事情は聞き及んでる。
この辺りの農村を襲う武装勢力の排除に協力すること。それが今回僕の小隊が招聘された理由。
でもこの依頼、なぜか僕が名指しされたんだよね。姫からはめちゃくちゃ反対されるし。「補佐がわたしからはなれちゃダメ!」とごり押しされそうに。
でも、僕だってこういう機会を逃すわけにはいかないから。まだ不安定な姫の立場を盤石にするため、僕という派閥の弱点が少しずつでも手柄を立てないと……。
それに。正直、農村が危機に陥っているという話を聞くと……どうしても故郷のことを思い出しちゃう。たいていのことにこだわりを持てない僕でも、多少なりとも助けにならなきゃって気になるから。
姫も最終的にはしぶしぶでも受け入れてくれたし、ちゃんと期待通りの働きをしなくちゃね。
……ただ、そういえば。もう一つ気になることがあったんだった。
昨日久しぶりに会ったスウさんが、なぜか妙に上機嫌で言うんだ。
「明日から王都の外に行くって? 大変だろうけど頑張って。なにかサプライズとかあるかもだし!」って。
……なんでスウさん僕が依頼で遠征すること知ってたんだろうね。それに、サプライズとは。
なんて、そんなことを考えていると。
「――つきました! ここが村長宅です。予定より少し早いですけど、すぐに歓待の準備ができるはずですので!」
騎士さんがそう言ったのは、この村で見た中で一番大きな家の前だ。僕たちは促されるまま家の中に入っていく。
そして、ときおり廊下で忙しそう女性たちとすれ違いながら向かった先は、大きな長テーブルを真ん中に据えた大部屋だった。
テーブルには順次運ばれてくる料理が並べられ、今まさに歓待の準備ができていってるみたいだ。
「へえ。なにか、見たことない料理ばっかりだな」
「ふむ。私も寡聞にして知らないものが多いが。どれ、味見を」
あ。二人は勝手に席について、まだ配膳途中の料理に手を伸ばし始めた。
ちょっと行儀悪すぎない? さすがに注意を、と。
そう思った、その瞬間だった。
「――……っ! 到着、したんだね! 待ってたよ!」
背後から声。しかもこれ、つい最近聞いた覚えがある……。
そう訝しみながら振り返ると、そこにいたのは。
――女性ながらすらっとした長身に、赤いインナーカラーが入った長い黒髪。
そして、その身にまとうのは獅子のエンブレムが刻まれた軽鎧。一般の騎士が身につけるものより装飾が多く、位の高い騎士であることがわかった。
だけど。そんな高位の騎士だろう彼女は、その切れ長な瞳で僕を見るや……。
――にっこりと、ほんとうに嬉しそうな笑みを浮かべて。目をくりっと瞬かせた彼女は、身振り手振りでも喜びを表現しながら言った。
「聞いてたよりずいぶん早かったんだね! でも、キミと離れなきゃいけない時間が短く済んで嬉しい誤算だよ。――ぁあ、ごめんね、今は立場上もう少し真面目にしなくっちゃ。部下も見てるからさ」
「師団長、なんで急にそんなテンション高い……というか初めて見ましたよそんな感じ……! 師団長でもそんな顔するんですね……!」
「……む。なにかおかしいところがあったかい? ボクはいつもにこやかで、接しやすい師団長だと思うけれど」
「いやどこが――っひぃ! そそ、そうでしたね! 失礼しましたぁ!」
「……。まったく、余計なことを。……さて! それじゃあ気を取り直してだね。――――今日は、ボクの召集に応じて来てくれてありがとう。
そして、彼女は告げた。
「ボクは大獅子騎士団『鬣の盾』の師団長――――スカーレット・クレイだよ。……どうだい? 驚いたかな、アルくんっ」
そんな彼女の言葉を聞いた僕の心境は。まさに……彼女の言う通り、驚き一色に染め上げられてしまって。
「――スウさんが、師団長……!? でもスウさんは侍女のはずじゃ――」
「ずっと黙っててごめんね……。でも、やっとキミに打ち明ける決心ができたんだ。キミに、キミだからこそ……――」
なんで師団長が侍女の格好を。いつものあれは何かのカモフラージュだったってこと?
ええと、まずは何を聞けば、と。すこし混乱する頭で考えていると、視界の端に入ってくる人影が。
あっ。この二人、また勝手に――
「――お初にお目にかかります、スカーレット師団長殿。私はアルバス侯爵家の嫡男、キーレンス・アルバス。貴女の招集に応じはせ参じました。……しかし、最年少で師団長に上り詰めた美貌の剣士という評判に違わぬ美しさだ……」
「あ、こいつまた……。同僚が失礼……ですが、師団長殿はすでにそいつ――じゃなくて、うちの小隊長と知り合いみたいだし、俺もぜひおよろしくできれば。――俺はイグナーツ・エーデル、宮廷魔術師です。こいつほどいい家柄じゃないですが、腕にはそこそこ自信あります。もしこの任務で役に立てたなら、ぜひ取り立ててもらえれば」
ふむ。ちょっと焦ったけど、別に失礼なことを言ってるわけじゃなし、今回は注意はいらないか……。
そうだ、ついでに最後の一人も紹介しちゃえば、と。そんなことをちらと思ったんだけど。
……なんかスウさん、めちゃくちゃ表情険しくない? うちの部下が何か気に障ることでも――
「……キミたち、いまの話だとアルくんの部下みたいだけど。――……その割には、ずいぶんと彼を軽んじてないかい?」
「え?」
「――――ひどく、不快だ。ボクはアルくんと二人で話がしたいんだ。キミたちはさっさと出て行ってくれるかい」
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