第2話 剣聖は竜を穿つ

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 惨敗だった。どうしようもなく、ドラゴンは圧倒的で俺は矮小だった。


 炎を纏わせた剣を使ったのにだ。自信はあった。でも負けた。


 骨は数本折れ、全身からは血が流れている。満身創痍といった様相を呈している。


 多分、俺はここで息絶えるんだろうな。なんて思う。

 誰の記憶にも残らず、ただ一人でむなしく果てるだけ。


 「ガアァァァァァァァァァァァァァァァ!」


 ドラゴンが巨大な体躯の鋼鉄のように硬い爪を俺に振り下ろす。


 俺の人生、そんなもんか……。


 刹那———


 キィィィィン! 金属音。だが、俺は剣を振っていない。

「おぬし、ドラゴンに戦いを挑むとは馬鹿よのう。気に入った」

 金の髪をなびかせた翡翠の目の少女は俺に向かって笑いかけてきた。

 それが俺と師匠との邂逅だった。


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 少女は跳躍する。

「さて、ドラゴンよ『唸れ、奇異なる身命よ。大いなる龍を穿て』《地獄十字架クロスヘヴン》!」

 鋭い剣戟が二閃。


 刹那、「グゥォオオ……」と低い唸りを上げてドラゴンの巨躯が十字に引き裂かれる。


 圧巻だった。剣の動きが遅れて見えるかのようだった。

 まるで、すべての動作を終えた後にドラゴンが切れたかのような。


「ドラゴンとて、力量差を見抜けぬほど馬鹿ではなかろうに。やはりこの少女の姿だからなめられたのかのう……」

 そんなことを少女は言う。つい先ほどまで自分が圧倒されていたドラゴンをこうも簡単に切り飛ばして、飄々としていられるとは……。

 この少女がただの少女ではないのは確かだ。


「私の美貌に惚れているのはわかるが、立て小僧。そのクソみたいな剣術を鍛えなおしてやるわ」

 クソクソ言いやがってとは思うものの、実力でいえば明らかにこの少女の方が上だ。そもそも、我流が太刀打ちできるわけもない。


「それにしても、おぬしのその特徴的な金の髪、シュヴァルザーじゃな?」

 少女は的確に当ててくる。なぜかはわからないが、シュヴァルザーを知っているようだ。


「なぜシュヴァルザーの名を?」

 シュヴァルザーは確かに王都では有名だが、こんな田舎の少女が知っているほど知れ渡っているとも思えない。

「敬語を使え、敬語を。年長者を敬うのが貴様らの礼儀作法だろう?」


 年長者? 年長者だと? この少女は俺よりも年上なのか? それともただ単にからかっているだけなのか? だが、あのドラゴンを一撃で切り伏せることができるのが少女だというのも信じられない。


「そうでしたか。申し訳ございません。まだまだ若輩者ですので、大目に見ていただけると幸いです」


 弄ばれている可能性もあるけど、まあとりあえず、敬語で敬うことにした。……何よりもあのドラゴンを瞬殺したしね。怖いしね。

 俺がそう口調を変え敬語で話すと、少女は感嘆したように目を見開いていた。


「まさか、本当に敬語で話すとはの。わしもこんな見た目だからなのか、かなり舐められるのじゃよ。実際問題こういうと怒って切りかかってくるような輩がいるのだから困るのよのう」


 まあ、俺の場合はさっきのを見て、底知れない恐怖があるからなのだが。というか、それがなかったら、何を言ってるのかな? みたいなことを聞いていたと思う。


「俺の名前はユーリウス=シュヴァルザーです。あなたの名前は?」

 ……とりあえず、自己紹介は大事だよねってことで、俺は自分の名前を少女に伝える。やっぱり相手を知らないと何もできないと思うんだよね。


「うむ。わしの名前はミルケルカ=クラリリカじゃ。その貧弱で粗末な剣を少しまともなものに変えてやろう」

 ミルケルカ=クラリリカ? どこかで聞き覚えが……。


「お? どこかで聞き覚えがあるな。みたいな顔しよって、わしの名はその程度かのお……」

 ミルケルカ=クラリリカ……、ミルケルカ=クラリリカ……。

 ―――!? もしかして、あのミルケルカ=クラリリカか?


「ああ、そうじゃ。わしは剣聖。剣聖ミルケルカ=クラリリカじゃ」

 剣聖。噂には聞いていた。時代遅れと言われた剣士でありながら、そんじょそこらの魔術師は手も足も出ず、気が付けば負けている。


「それにしてもシュヴァルザーの人間か。これもまた縁とは言うものの、全く。奇妙な縁もあるもんじゃな」

「シュヴァルザーと何か関係が?」


「ん? ああ、お主は知らんだろうよ。だがわしは散々シュヴァルザーの人間に煮え湯を飲まされ続けてな……。というかお主、もうすでにシュヴァルザーの人間ではないな?」


 ―――剣聖ミルケルカ=クラリリカ。この少女がそんなえげつない人だったとは……。

 それを理解した瞬間、俺の脳裏によぎったのは―――

(敬語使ってよかったー!)である。


 それにしても、ミルケルカはそんな細かいことを的確に当ててくる。いったいどんな見方をすれば俺が破門されたということを言い当てれるのだろうか。


 帝国英雄が一人ミルケルカ=クラリリカ

 もう終戦から九十年は立つというのにもかかわらず、こんなうら若き少女の姿とは。


「ん? この体に興味があるのか? 欲情するでないぞ?」

「しねえよ!」

「あ?」


「しませんよ!」

 物凄い圧だ。逆らえない。というか普通に怖い。見た目はこんなにかわいい女の子のはずなのに全然オーラを隠しきれてない。


「この体は加護なんてそんなきれいなもんじゃないわ。呪いよ、呪い」

 呪い……。ミルケルカはそう言うけど、俺にはどうにもそう思えなかった。


 呪いとはいってももっときれいな気持ちの呪い、それがかえってミルケルカを束縛しているかのようなそんなもの。


 そういう風に俺は感じた。まあ、勘だし根拠も何もないんだけどな。


「ミルケルカさん! 改めて、弟子にしてください!」

俺は背中を直角にまげて、願いこむ。

ドラゴンを圧倒できる人に教えを請えば、俺はあの人に追いつけるかもしれない。


「それにしても、おぬし奇っ怪な剣術を使っておらんかったか? ———振ってみろ」

そういって、ミルケルカは剣を投げてくる。


俺は言われるがままに、剣に炎を纏わせて振ってみる。

「もう、すでに満身創痍なんですけど……」


「———!? ……よし、いいじゃろう。まずはその腐った林檎みたいな型をいったん捨てよう。どうやって身に着けたのかはわからんが、食えたもんじゃないわい」


 だがやはり、こうも低評価だとなんだか心にくるものがある。

 まあ、仕方ないのはわかってるんだけどね。


「よしユーリ、わしこのことは師匠とでも呼べ」

「はい。師匠」

 俺がそう返すとミルケルカは満足げにうなずく。

「もう一度呼んでみろ」

「師匠!」


 俺が改めてそう返すと、ミルケルカはさらにうなずき顔をほころばせる。

「師匠。なんて甘美な響きなんじゃ……。これがわしが夢にまで見た師弟関係というやつかの。ユーリ、もう一度いってみろ」

「ミカ師匠!」

 そう返すとミルケルカは笑った。

 不覚にもちょっとかわいいなと思ってしまった自分がいた。


「よし、ユーリ。この剣聖であるわしが直々に鍛え上げてやろう。おぬしが今までやってきたおままごととは全く違う、本気の剣の修行だ。逃げるでないぞ?」


 そして俺は、この人のもとで学ばなければならないと思った。


 そんな和やかな雰囲気とは裏腹に、狂気の沙汰としか思えない地獄の修行が始まり、一瞬で後悔することになるとは思ってもいなかった。





 ※この作品はカクヨムコンテスト11用のお試し作品です。この作品が本連載に至るかどうかは皆様の応援次第で決まりますので、よければハート、星で応援していってください!

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魔術剣を極めし次代の剣聖~捨てられ貴族は神をも殺せるのじゃロリ剣聖に拾われ、後に世界最高の剣術と呼ばれる魔術剣を編み出し、次代の剣聖として国中から注目されています~ 団栗珈琲。 @dongurikohi109651

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