④-4
〈※二人の作業は続いている。ツバメは身動きできない。〉
【トビ】なあ、タカ。気づかねーか? 俺らは今よ。男として充実してきてんだよ。体の底からマグマみたいに熱い自信と力が溢れてきてねーか?
【タカ】ああ来てるぜ。バンバンきてる。
屈辱だ屈辱だ屈辱だ
くそ〜〜
【トビ】それに引き換え、このガキを見てみろよ。お前、こいつ見てどう思う?
【タカ】そうだな。ザコだ。チビだ。しょんべんだ。
ぐぬぬ
【トビ】見た通りこいつは何にもできねーガキだ。かつての俺らの姿だ。どう思う?
【タカ】うんこだ。うんちだ。ブリブリだ。
ぎぎぎ
【トビ】でよ、こいつがよ。この血で血を洗うような現代社会に一人で放り出されたらどうなると思う?
【タカ】すぐに泣きべそかいてくたばっちまうだろうな。
バカにされた!
くっそー、くそ!
【トビ】でもよ。俺らは違うよな?
【タカ】まあな。
‥‥‥‥でも
【トビ】俺らはもうよ。こんなガキじゃねーんだわ。親にいびられ、教師にいびられ、今までさんざん抑圧されてきたけどよ。
【タカ】きたぜ。どいつもこいつも俺らに首輪つけようとしてきやがるからな。
僕には言い返せない
【トビ】そんな俺らも今年で成人だ。
【タカ】てことは?
だって現実に
こいつらは大人になりかけていて
【トビ】ついに来たんだよ俺らの時代がよ。自由の開幕だ。
【タカ】へへ、テンション上げてくるじゃねーか。
僕はまだ子供なんだ
【トビ】聞けよ、タカ。俺はもう一人でもこの血で血を洗うような社会で勝ち上がれる自信があんのよ。持って生まれたこの俺自身という資産があるからな。ベンチャーでも何でもこの俺を投資すれば成り上がる自信しかねぇ。齢十八にして勝ち組宣言よ。お前はどうだ?
【タカ】あるぜ。俺らにやってやれないことはねーだろうな。
悔しいよ
【トビ】でよ、話は続くぜ。これは家族にも言ってないことなんだけどよ。親友のお前だけには言っとくぜ。と言うか、お前に言わなきゃなんねえことだ。
【タカ】おうよ。言ってみろ。
こいつらは体がデカいというだけで
自信に溢れていて
【トビ】俺はよ。いよいよ人生の決断しようと思ってる。
【タカ】なんか気張っているな。これはマジの時の目だな。
僕はただの子供だから
気を弱くするしかないなんて
【トビ】大人になって。男になって。これが俺の最初のデカい決断になると思う。
【タカ】おいおい雰囲気あるじゃねーか。こんなに勿体ぶって何を語ってくれるのかね、トビさんは。
僕は誰よりも努力して
大人になろうとしているのに
【トビ】俺はよ。最近、運命的にある女に出会って、この二文字が浮かんだんだ。
‥‥‥すっごく悔しいよ
【トビ】『結婚』、てな
えっ?
【タカ】マ・ジ・か・よ。
こいつ
なんて言った?
【トビ】‥‥‥‥。
【タカ】ははは、やったな!
いま結婚て
言った?
【トビ】‥‥‥‥。
【タカ】オメー、人生始まって早々に勝負すんのかよ。スッゲーな、おい!
あ、コレ
また軽口だよね
【トビ】(睨みつけて)‥‥お前、喜んでいいのかよ。
【タカ】あ?
こいつらの言葉に
重みなんてないんだ
【トビ】俺がプロポーズしようとしているのはな。わかるだろ?
【タカ】お前、まさか‥‥。
言っていることはみんな
いい加減なことばかり
バカばっかり
【トビ】お前はそれでいいのかよ?
【タカ】いいのかよって‥‥。
だから気にすることなんて
ないのに
【トビ】俺はさっきのお前の告白に心が動かされたんだよ。涙が出るくらい感動した。だから親友として誠実に、お前にはケジメをつけなきゃなんねーと思っている。俺らはいつだって最後には真っ向勝負だからな。
【タカ】だからって結婚て、意味わかってんのか? お前、いくらなんでも順序飛ばしすぎだろう。俺らまだいくつだと思って‥‥。
僕の胸は
なんでこんなにも騒めいているのだろう?
【トビ】俺は今日–––––
〈※トビはタカの言葉を遮り、強い口調で話す。〉
【トビ】–––––ひよこにプロポーズしようと思ってる。
【タカ】なっ‥‥‥。
えっ‥‥‥‥‥‥‥。
【トビ】お前はスゲーよ。やっぱスゲー奴だよ。あそこまでの思いを見せつけられて、正直、圧倒されたんだ。あの時、俺はお前に決定的に負けたんじゃないかと思ったよ。
‥‥‥‥‥‥。
【トビ】ま、でも、さっきまでは確かにお前が一歩リードしてたよ、てな話だ。
【タカ】どういうことだ?
‥‥‥‥‥‥。
【トビ】だが今はよ。俺がお前よりも一歩先んじている自信があるぜ。男として覚悟を示したからな。
【タカ】おいおい、早まるなよ。もうちょっと、よく考えようぜ。
違うよ
【トビ】ま、意地だ。そうしなきゃお前には勝てねーと思ったからよ。俺の持つ最強のカードを切るしかねーだろ。
【タカ】だとしても電撃すぎだろう?
僕は焦ってなんかない
【トビ】なあタカ。お前には迷ってる時間なんてねーんだよ。
ぜんぜん焦ってない
【トビ】俺はひよこを幸せにする自信があるぜ。
うそ
【トビ】お前はどうなんだ? 答えろよ。
本当は
すごく焦っている
【トビ】失望させんなよ。なにさっきから黙ってんだよ。俺らは恋のライバルのはずだよな? お前が戦えねぇてんなら。いいぜ。俺がひよこを貰っちまうんだがな。
こいつらは
体が大きくて
【トビ】なあ! ひよってんじゃねーよ、タカ!
欲しいものを欲しいと言えて
【タカ】‥‥‥わりぃな、トビ。お前の気迫に圧倒されちまった。ちゃんと答えるから、ちょっと待ってくれ。
【トビ】ああ。
自由で
自分勝手にできて
【タカ】‥‥‥トビ。俺もひよこに対してだけは真剣なんだ。
【トビ】ああ。
対等に喧嘩だってできるのに
【タカ】だからお前にも譲れねーんだわ。
【トビ】ああ。
僕にはそれすらできないのだから
【タカ】俺の心はよ。あの人でいっぱいなんだ。
【トビ】ああ。そうだろうな。俺もそうだからな。
僕だって
ひよこのことが
【タカ】だから譲れねぇ。俺はどうしてもひよこが好きだから。
大好き––––––––
【トビ】へっ、いいぜ。いい答えだ。それが聞きたかったんだ。
【タカ】たくっ、お前て奴はよ。
【トビ】なんだよ。なんか言いたいことでもあんのか?
【タカ】(微笑み)尊敬できる最高の親友だよ。
––––––––なのに
【トビ】へへ。
【タカ】へへ。
〈※二人は笑い合う。〉
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