①-2


    ただ今よりミッション開始します

    主にあって強く雄々しくあらんことを   



【トビ】あー、なんか急によ。思い出したわ。

【タカ】なんだよ、唐突に。



    ミッション第一段階––––––クリア

    第二段階––––––無事、潜入成功

    


【トビ】やべー。マジ、やべぇ。こころイッテー。

【タカ】なんだよ。気になるじゃねーか。



    続いて情報収集開始

    侵入者確認

    対象の2名を観察します  



【トビ】アレ思い出しちまったわ。衝撃的なアレをよ。

【タカ】焦らしやがる。重大発表が来ると見たね。はなし聞かせてみろや。



    ドキドキドキ



【トビ】なあ、タカ。(遠い目をして)世の中ってままならねーよな。

【タカ】まあな。世の中はままならないものなんだぜ。で、どうした?



    はい

    見た目はバカっぽく

    知性が感じられませんね

    


【トビ】俺らが小学生の頃。スズメいただろ。

【タカ】スズメ? あー、あのハゲ親父んところの顔のいい姉ちゃん。



    はい

    喋り方にも知性が感じられません



【トビ】この前よ。たまたま用事があって、あの家の前を通りかかったらよ。

【タカ】おう。



    分析完了

    対象2名は

    お猿さん2匹でした



【トビ】スズメ。ガキこさえて母親やってたぜ。

【タカ】えっ、マッジ!? 



    ふむふむ

    これなら今回は余裕かな

    


【トビ】しかも3人。

【タカ】萎えるー。



    でも油断大敵

    前のインテリジェンス眼鏡ゴリラは

    強敵だったからね

    


【トビ】あーあ。せっかく俺が結婚してあげるつもりだったのによ。

【タカ】なっちまったか。オレ以外の男のものに。


    

    あのゴリラ

    なかなかシッポを出さないんだもん

    僕が思うに

    あのメガネに何か秘密があったんだね



【トビ】はあ〜。(ため息)

【タカ】はあ〜。(ため息)



    ‥‥‥ん? 

    お猿さんたち

    急にしょげて

    どうしたのかな?


    

【トビ】なんで俺を待ってくれねーかな。

【タカ】くうぅ、胸に来やがる。切ねーじゃねーか。マジで俺らの青春だったよな。



    おなかすいちゃった?

    違うや 

    これって失恋かな?

    ちょっと興味あり


    

【トビ】思い出すよな。ガキの頃の憧れみたいなもんとは言え。毎日、用もないのにわざとあの家の前を通ってよ。

【タカ】行ったな。スズメに会えるかと思ったら、よくあそこのオバハンに捕まって長話に付き合わされたよな。



    ふむふむ

    お猿さんたちの

    求愛対象には

    歳の差があり‥‥



【トビ】あー、思い出したわ。よく親父の屁が外まで聞こえてきてたよな。妙に響くやつ。

【タカ】くっせーの。アレ、音だけで臭ってくんのな。



    ふむふむ

    求愛対象には

    おならの臭いお父さんがいて

    


【トビ】でもたまに運良くチラッとだけ見かけることができるんだよ。

【タカ】一瞬見れただけで胸が高鳴ったもんだよな。



    片思いしながら

    ずっと何も言えないで

    見つめていて

    


【トビ】それだけで大喜びしてよ。マジ一途すぎね? 当時の俺らってば。

【タカ】昔の記憶で曖昧だったけど、今はっきり思い出したぜ。あの姉ちゃんの横顔。マジで綺麗だったなー。



    それはつまり

    今の僕と彼女の状況と‥‥


    あー、そうか

    そういう‥‥



【トビ】あー、せつねー。もし俺がスズメと同い年だったらな、とか未練あるわ。

【タカ】いろいろ想像しちまうわな。俺らにとって初恋だったからな。俺も完全には忘れらんねーわ。


 

    ‥‥‥‥‥。


    やっぱり歳の差って

    大きなことなのかな?

    そんなことないよね

    

    大丈夫だよね‥‥‥?

    


【トビ】だな。マジ、イッテー。まだこの胸にはよ。あの頃の恋の残り火が燻っている訳よ。

【タカ】あれっていつ頃の話だったかな。小1か小2ぐらい? 俺らがあの近所で遊んでいたら、高校の制服を着たあの姉ちゃんに一回だけ声をかけられて、それからだったよな。だからけっこう長いべ。



    オーケー

    気を落ち着かせよう


    こういう時はね

    無理矢理にでもさ

    ポジティブに考えるんだ


    ていう

    僕のお爺ちゃんの教え

    

        

【トビ】あの姉ちゃんにはすっかり純愛しちまったぜ。

【タカ】だよな。マジで憧れてたんだけど。



    ふふん

    ま、そもそも僕とこいつらとは違うんだけどね

    愛のレベルっていうの?

    キズナの強さっていうの?

    だって僕たちは

    運命で固く結ばれているのだからね


    そう 

    僕たちのキズナは運命なんだよ


    ふふん

    ふん


    だから大丈夫

   


【トビ】てっきりスズメと俺とはよ。運命で結ばれていて、結婚するもんだと思ってたのによ。

【タカ】まあな。でもスズメと運命で結婚するのは俺だったんだけどな。



    ‥‥アレ?

    こいつら今

    運命て言った?



【トビ】で、こんな有耶無耶な形で失恋かよ。チクショウ! なんかイライラして叫びたくなってきた。

【タカ】マジでそうな。愛しさと切なさで今にも爆発しそうだぜ。



    ‥‥‥‥あっ



【トビ】(叫び)俺が大人になるまで、たったの10年じゃねーか! どうしてだよ。スズメ!

【タカ】(叫び)なんでだよ。なんで待っててくれねーんだよ。スズメ!




    ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。



          ⚪︎



〈※ひとしきり叫んで、トビは急にケロッとした様子に変わる。〉



【トビ】ま、でもよ。メチャクチャ憧れてはいたんだが、最近になって思ったわけよ。

【タカ】おうよ。切り替えはえーな。続き聞かせてみろよ。



    ‥‥‥‥。


    ううん

    大丈夫さ

    


【トビ】スズメって、よく考えたらなんか違くね。て。



    僕と彼女は絶対に

    ‥‥大丈夫



【タカ】‥‥(遠い目をして)やっぱり俺らも大人になったからかな。それってよ。そのせいじゃないか? 子供の頃に憧れていたものも遠くに感じるもんなんだよ。ガキの頃の恋心とか、当時は必死になってたけどよ。今となっては、ままごと遊びの可愛いもんよ。



    だって

    約束したんだもの



【タカ】じゃあ、ま、今日は語るか。とことん付き合うぜ。あそこ(ひよこの冷蔵庫)に多分、酒とかジュースがあっからよ。遠慮すんな。飲もうぜ。



    運命だと信じたのだもの



【トビ】いや、違う。

【タカ】ん?



    神様にだって

    あんなにもたくさん願ったんだ



【トビ】ボリュームとかだな。特に胸まわりの。

【タカ】あー、それか。それは俺も思った。



    大丈夫

    絶対に、大丈夫


    ‥‥‥でも


    

【トビ】なんつーか。今考えたら、ずいぶん足りねんだよな。重量つーか。迫力つーか。スカスカっつーか。

【タカ】分かるぜ。



    もっといっぱいお祈りしなきゃダメかな?


    

【トビ】子供の頃はそれで納得してたもんが、大人になると物の見方が変わって、必要不可欠なってくるものってあるじゃんよ。恋をする最低限の条件つーの? ラインつーの?

【タカ】分かるぜ。



    もっと一生懸命に

    願わないとダメかな?


    

【トビ】やっぱりよ。大人の恋ってのは、一目で見て分かる圧倒してくれる説得力な訳よ。それがなくちゃいけねぇ。思い出しても、スズメにはどこにもそれがないんだよ。

【タカ】うんうん、分かるぜ。ガキの頃はバカみてーに一生懸命、上ばっかし見上げていたが、今はちょいとばかし視野が広がって、恋の全体像も見えやすくなっているからな。どうしたって足りないものが見えてきやがる。


    

    神様は本当に

    僕の願いごとを聞いてくれるのかな‥‥?



【トビ】で、それでこっから本題よ。

【タカ】おう、マジか。前振りだったのかよ。ま、聞かせてみろや。



    ‥‥‥‥‥‥。



【トビ】ひよこ先輩って、でけぇよな。

【タカ】だな。



    ‥‥‥‥‥!?



【トビ】げっへへ。

【タカ】ぐっへへ。



            

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