剣の鑑定
[シン]
シンたちが泊まる宿は、玄関が砂岩でできていて、ずっと時代を見てきたかのようだった。寝室の窓からは隣には瓦の屋根が見えた。
夕食は魚が出た。
薄塩の蒸し焼きで、米のようなパラパラしたものと混ぜて食べるとのことだ。シンとレイとウラカはシェフに言われたように食べた。
「教会いつものこんなの食べてるの?」
「そんなわけないでしょ。教会には教会のものがあるわよ。他の皆様は質素なものを食べてるわ」
「ウラカは?」
「接待係よ。肩が凝るわあ」
ウラカは言葉とは裏腹だ。
「これからどうするの?」
「船に乗るのよ。見たでしょ?」
「あれに乗れるの?」
「早ければ十日でブスレシピの港に着くわ。風次第ね。この季節は風が少ないし、もう少しかかるかも」
「魚釣れるの?好きなのよね」
好きだったのか。そう言えば川があればば釣っていたな。しかしレイもやけに冗舌だ。たぶん何か企んでいるのだろうと思う。
「船も乗ったことない」
「揺れなければ楽しいわよ」
「揺れるのか」
レイは唇を尖らせた。
夕食の後、彼女はお風呂に入りたいと言い出した。今夜は肌がベトベトして気持ち悪いらしいのだが、教会側は泊まるたびに風呂を準備してくれているのに、わざわざレイの方から改めて頼むなんて珍しいなと思った。
夕食後、シンは今後の予定を伝えられた。船でブスレシピの港まで行き、そこから馬車で三日ほどして教団本部へ入るらしい。
「今回の責任者のロブハンです」
ウラカが本部から遣わされたロブハンという男を紹介した。彼女はシンたちに目顔で立てと命じたが、シンとレイは理解できなかった。ロブハンは背が高くて、少し繊細な感じのする男だ。歳の頃は三十代半ばくらい。
「そのままで。おくつろぎのところ申し訳ありません。わたくしはロブハンと申します。この度はウラカの試練にご助力いただき誠に感謝しております」
丁寧に頭を下げられて、シンもレイも頭を下げ返した。細々としたことを話していたが、要するに二人とも本部へ来いとの話だった。
「もう少しの旅ですので、よろしくお願いします。では私は」
丁寧に頭を下げたロブハンはラウンジから出た。ウラカは廊下で見送っていた。たぶん姿が見えなくなるまでいたのだろう。
「驚いた」
ウラカは緊張を解いた。
「偉い人?」とレイ。
「まさかこんなところまで来てるなんて。よほどのことがなければ、本部から離れない」
「よほどのことがあるんじゃないのか。どれくらい偉いの?」
「評議会に権限を与えられるくらいには偉い人よ」
「ひょーぎかい?」
レイは尋ねた。そんなものに興味があるように思えない。
「今回のようなことは、評議会というところで決められるの。呪術や精霊や魂についてのことは、専門家でないと理解できないから」
ウラカは二人を見渡した。
「あなたたちみたいに一か八かで動いてないの。わたしたちにはいろいろ調べる人もいるのよ」
ウラカは答えた。
教会の一般的なことは、たいてい議会で決められる。議員はそれぞれ決められた職種や地域からの推薦者から選ばれていて、任期は三年とのことだ。ウラカも特殊な人材ではないかと尋ねると、呪具や術関係では特殊だと答えた。
「限定的ね。剣のことは評議会を通して剣の鑑定をすることになると思う。もしどうにかなると判断されれば、どうにかする」
ウラカが言うと、レイは二の腕を緊張させていた。
「同時にシンが元の世界へ戻れる術も探すことになる。門の存在は白亜の塔でも確認してるけど、わたしたちも別に情報を持ってるわ」
シンは黙って聞いていた。至れり尽くせりとはこのことだな。
「剣は今のところ封印できてる。ちゃんと本部の術使いが来てるし」
「ちゃんとしてもらいたい」
シンが思うには、二振りは単におとなしくしているだけだ。たぶん当たっている。あれは邪剣でも聖剣でもない。単なる厄介な剣だ。たぶん教会で持て余すだろう。
「お風呂の準備ができたみたい」
宿ではバスルームと言われるところにバスタブが置かれ、どこかで沸かした湯を溜めてあるらしい。
シンがバスタブは一つしかないのかと尋ねると、ウラカに宿泊者が一人しかいないのかと返された。
「じゃわたしから入るね」
「後は係の者が部屋まで案内してくれるわ。着替えとかあなたのものは部屋に運ばせてあるわ。好きなもの選んでね。こには風待ちで二日ほど滞在するしね」
レイがルンルンで去った。シンはやけに演技してるなと思いながら見送っていたものの、ウラカは何も気づいていない様子だった。
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