世界のカケラ 3/5 ルテイム城の結束編 転生から戻れない
へのぽん
追い出されて旅へ
[レイ]
レイは退屈していた。
「どうしてわたしまで行かないといけないのよ。剣だけでいいじゃん」
「そうだよ」
シンも同意した。
「じゃ、コロブツで晒し首にされてもいいの?」
ウラカが冷たく答えた。
揺れはひどいが、馬車は深い森と急な峠を何日も越えた後、レイたちは塔の街から見ていた山脈の反対側を見ることができた。歩くよりも楽で、休憩も多いし、少しお付きの人も増えた。面倒な旅だ。彼らは誰を守ろうとしているのかわからない。
「たくさんいるね」
「逃げないようにじゃね?」
「逃げたことないし」
レイは窓から両腕をブラブラさせながら、峠をひたすら続く馬車の列を眺めていた。馬車を守る警護の人々も増えて、それぞれが教会の服を着ているのが圧巻だった。
「捕まえられたみたい」
レイは白亜の塔に連れて行かれるときの護送馬車を思い出した。馬車から降りた後、シンと別れた。今思い出すだけでも心臓が氷の手につかまれた気持ちになる。
「捕まえる?冗談。教会が峠で襲われましたなんて恥かきたくない」
ウラカは変装はしていないが、旅用の簡素な修道服姿だ。レイは戦闘もないだろうからラフな格好をしていた。シンも白亜の塔で刺され、湖の地下に落ちたせいで、腰の具合が芳しくないようで、クッションを添えていた。
「大丈夫?」
「平気だよ。馬車だし」
「治癒してあげるわ」
「レイも疲れてるだろ」
シンはほほ笑んだ。するとウラカは組んだ膝に肘をついて、おもしろくなさそうな顔で溜息を吐いた。
「怪我だらけね」
「わたしたちも白亜の塔から遊んでたわけじゃないもの」
「まあ……」
「シンが歩ければ馬車なんて乗らないのに」
「また逃げるでしょうが」
レイは逃げる気でいる。飽き飽きしているし、ウラカと旅などしたくない。二人だからこそいい。あくまでシンのめだ。ま、食べたこともないものも出してくれ、三食と歩かなくていい、昼寝付きも捨てがたい。
「上はあなたたたが逃げると考えてるし、わたしもひょっとして逃げるかもと警戒してる」
「結局、わたしたちが逃げると思ってるんじゃん。わたしたちに逃げる気なんてないし、理由がないわ」
「理由なくても逃げるのが二人よ」
「逃げんわ」とシン。
「本部はバカだから、逃げても捕まえられると信じてる。でもわたしは捕まえられないと思ってるわ!」
「何を力説してるんだよ」
「なぜわたしたちも一緒に行かなきゃならないの?行くのは剣だけでいいじゃん。ね、シン」
「そうだよ。剣から離してくれ」
「こうしてわたしも一緒に行くんだからいいじゃないの。特に手枷も鎖もしてないし」
「シンに鎖なんかしたら、わたしがぶち殺すぞ。呪術も同じよ」
レイはウラカに向いた。この場の勢いで技でも出してやろうかと思ったものの、歩くことを思うと我慢した。シンの腰骨に手を添えた。
「現地集合でよくない?わたしたちが教会に行く。ボチボチと」
「ちゃんと来れるの?」
「舐めないでよ。わたしたちはずっと旅してきただから」
「トラブル起こさないで来れるのって聞いてるの」
「まるでわたしたちがトラブル起こしてきたみたいね」
「塔の街からコロブツに来るまでに何かしら起こしてきたわよね」
「昔のこと忘れたわ」
普通旅の間にトラブルに巻き込まれるが、ウラカ曰くレイはトラブルの間に旅をしているとのことだ。
「もっと観光気分でいてくれていいのよ。食べるものもわたしたちに任せてくれてればいいし、着替えもお風呂も宿も完ぺきなのよ」
「じゃリクエストする。ウラカ、おまえはあっちの馬車に乗れ」
「別にいいじゃない。何か問題でもある?」
「あるわ。狭い」
「わたしも彼らと一緒は嫌なの」
「仲間じゃん」
「反りが合わないのよ。あんな連中と道中話したくもないわ。二言目には聖女様のために。教会のためになんて空々しいこと聞かされて。こっちは愚痴一つ言えないのよ」
しばらく愚痴が続いた。さすがにレイもうんざりしていた。それから五回ほど宿泊した。いずれも巨大なテントの下、見たこともないものを食べて、風呂までもらって寝た。
[シン]
五日宿泊した後、やがて街道が海沿いに出た。波にキラキラと輝く海を見たとき、レイは驚いた。シンは彼女が馬車から飛び出してしまうのではないかと思うほどだった。
「湖?」
「たぶん海だ」
「何?」
「何と聞かれてもな。池や湖とは違う大きな水溜りかな」
「レイの将来まで考えてあげるんなら、あなたもちゃんと教えてあげなきゃいけないんじゃいかな。何も知らないわけでもなさそうだし」
ウラカが黙った。馬車は固められた地道で軋んでいた。相変わらずガタゴト揺れて、どうやらレイは聞こえていないらしく、ずっと窓から海を楽しんでいた。ときどき空を飛ぶカモメを見上げて、また海岸に吹き上げる波しぶきに驚いていた。
「レイ、今日は港の街で泊まるわよ。今度はちゃんとした宿なの」
「おいしい魚あるの?」
レイは尋ねた。
「魚好きなの?」
「魚も肉も好きよ。でも水のあるところの魚はおいしいから魚かな」
「じゃ頼んでおくわ」
「任せるね」
さすがに大型の船が入れるほどあり、ハイデルの港街はコロブツ以上の賑わいを見せていた。たくさんの路地と斜面には、砂岩でできた建物が所狭しと並んでいた。
「あれは教会?」
「コロブツとは規模も違うけど、船から見えるように作られてるのよ」
シンたちは街道の終点である埠頭で降りた。港は埠頭にそこそこ大きな船がついていた。船のマストの上には白地に青い花のような紋章の旗が掲げられていた。数人の水夫が巻き上げ機の近くから、シンとレイを見ていたので、ウラカが護衛に何やら吹き込んだ。すると誰かがタラップへと走っていった。
教会の関係者が愚図愚図しているので、シンはレイと興味本位で埠頭を歩いた。別に何か探索しなければならないことはないが、暇つぶしにも限界がある。旅は人数が増えれば増えるほど気軽さが吹き飛んでいくことを思い知らされた。
倉庫街に入ると、一本マストの荷船から荷物が運び出されていたいた。運び子の担いでいる荷物のせいで歩み板が折れそうにしなる。
船にいる女と埠頭の白髪混じりの男が縁越しに話していた。彼らは次の荷物の話をしているようだ。荷物を覗いたレイはあっちへ行けと追い払われつつも船へ近づいた。
「珍しいかい?」
中年の女が笑った。
「珍しい。大きいわね」
「あっちには教会の船があるさ。あれこそが大きい」
「でもこっちが立派だ」
「からかってるのかい?」
「違う。棒の上に紫の鳥がいる」
「あ?マストの上かい?」
レイが指差すと、船長なのか母親なのかわからない女は見上げた。
「嬢ちゃん、鳥は何してる?」
「羽の下を毛繕いしてる」
「いいね。おい、おまえたち!」
三人の水夫が振り向いた。
「明日は風に恵まれそうだよ」
ウラカが来た。口のところを布で隠していた。教団の正式な者と会うときには、いつもそうしているのだが、僕と話すときは上げた。
「探したわよ。こんなところで何してるの?宿へ行くわよ。そこに駕籠を待たせてあるのよ」
「かご?」
「宿まで」
「遠いの?」
「特に遠くはないけど坂なのよ」
シンはウラカに右足を上げてみせた。歩けることを伝えるために足首をクイクイ動かした。
「わかってる。教会にも威厳があるのよ。お客人に歩かせない。わたしにも立場があるから理解して。乗らないと言われれば困るのよ」
「ウラカの立場ね。僕の立場なんて気にしてもいないくせに」
「さっきのことは謝るから許して」
ウラカは気落ちしていた。話を終えたレイが、シンとウラカのところに戻ってきた。ウラカが駕籠があるのだというと、シンと乗ってみたいとはしゃいだ。確かに乗ったことはないけど、乗ってみたいかな。
「シンは怪我してるしね」
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