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 横浜ベイスターズは7連敗を喫した。

 打線はチャンスを決められず、中継ぎ陣は試合を壊し続けた。バントミスや走塁ミスも目立つようになった。

 なにより不可解なのは、森監督の投手起用だった。序盤に大量失点する癖があるのに、川村かわむらを先発で起用し続けている。

 明るい材料はなかった。何も得られることがなく、ずるずると負け続けた。


 夏はもう終わる。8月28日になっていた。

 前日は移動日で野球の試合もなく、おれは気分良く過ごせた。月曜日が待ち遠しくなるようでは、野球ファンとしておしまいだ。


 るみかさんはお店のランキングで7位に入った。

 ランキングはここ1カ月の指名数を指標にしたもので、彼女がトップ10入りを果たしたのは、今回がはじめてのことだった。

 るみかさんは感謝の日記をアップしていた。

 脚立を担いで写ったポラロイド写真に、ミルキーペンで「何されたいか教えな」と書いてある。江角えすみマキコはそんなこと言わないし、ミルキーペンはもう時代遅れだった。このずれた感じが熟女ヘルスだった。るみかさんは見事にこなしている。


 おれはパソコンを届けに、歌舞伎町一番街にある雑居ビルへ向かった。

 納品先は4階のセクシーキャバクラ「ハイパーキャミ」だ。

 セクシーキャバクラというのは、女性にキスしたり、上半身にタッチしたりできるキャバクラだ。キャバクラ以上風俗未満という業態で、90年代後半から広まった。最近はコスプレ系が増えており、ハイパーキャミは女性キャストがキャミソール姿で接客するのをウリにしている。


 最近、風俗店やセクキャバからパソコンの引き合いが増えている。

「モーミヤン」に「アナル掘るどザ・ワールド」、先日は「連射でGO!」という店に納品した。確定申告で、それらの店名を書かねばならないおれの身にもなってほしい。

 

 セクキャバへの納品を終えると、おれはそのままミラノ座前へと向かった。

 まだまだ暑い日が続いている。空はぼんやりと曇っていた。風はのっそりと広場を行き来し、廃油の匂いがたどたどしく地面をなぞっていた。広場の中央に鎮座するライオンの銅像は今日も表情をしまい込んでいる。


 ライオン像の台座に、早咲がもたれかかっていた。

 今日もGAPのTシャツだった。昼からすでに一杯やっているようだ。アルコールの匂いをさせた早咲はカラスの頭を撫でていた。


 おれが早咲に近づくと、カラスは飛び立ち、おれの頭の近くをかすめていった。

 カラスはおれの影に入るのも嫌だとみえる。

「あ、及川さん、今日もパソコンの配達ですか?」

 ろれつが回っていなかった。表情が引っ込んでいた。

 早咲はバイトをやめたんだなと、おれは直感した。

「ああ、最近はAV屋よりも儲かっているかもしれない」

 早咲の左頬にまた青あざができているのに、おれは気づいた。

「早咲くんは、今日は休み?」

「やめてやりましたよ。派遣会社なんて不平等なもんですよ。揉めたら、古株に肩入れしやがる。新人を誰も守ってくれないですよ」

 早咲は口をもぐもぐさせていた。おれは話しかけたことを後悔していた。

「水でも飲んで、今日はもう寝床に帰った方がいいよ」

 おれは自動販売機で水を買うと、早咲に押しつけた。

 早咲に肩を貸して、立ち上がらせた。

 早咲は空気が抜けたように、すぐにしゃがんだ。

 川村を使い続ける森監督ほど、おれは忍耐強くはなかった。

 しばらく進んで振り返ると、早咲の額に縦皺が走っていた。かまってほしいのだろう。

 酒に疲れた男と話すのは無益な労働である。

「仕事がまだ残ってるから、ごめんな」

 おれは立ち去った。昼の付き合い酒は経費に認められないからだ。

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