第35夜




「最近、いつにも増して食うよな」




大量のおにぎりと菓子パンや調理パンの山


そして積み重なったコンビニ弁当を目の前に、白羽は溜め息混じりに呟く


陽斗は大食いである

その事は知ってはいたのだが、まさか消費量が更に増えているとは驚きだった


「まぁ育ち盛りだからな。こんくらいヨユーヨユー!お前も食えよ!」

「あ、あぁ……じゃあサンドイッチを……痛っ!」


先日……石段から転げ落ちた白羽は右足を捻挫し、腕や背中は打ち身と擦り傷という怪我を負っていた


骨折までしてない事が幸いというべきか。


「大丈夫か!?」

「問題ない。あんま心配するなよ」

「そうは言ってもなぁ」


先日から陽斗は、こんな調子である。

心配してくれるのは有難いものの、心配性に更に磨きがかかって若干ウザイと思った事は胸の内に秘めておく。


「それに俺はソコまでヤワじゃない……」

「分かってる。でも心配ぐらいさせろ!」

「はいはい」


手にしたサンドイッチを口に運ぶと、何気なくテレビの電源を入れた


「あれ?この公園って近所の公園だよな?」

「………」


テレビは朝のニュースで、先日行った公園が映し出されている


何故か嫌な予感が胸に過った。


「殺人事件!?物騒だな」


女性の遺体が公園内の石段で発見されたと、現場から中継されている


絞殺された挙げ句、ナイフで胸や腹部をメッタ刺しという猟奇殺人。


「っ……!」


そして被害者女性の顔写真が映し出された瞬間、白羽は手にしたサンドイッチを床へと落としてしまった。

被害者女性『井川美和』は白羽を石段から突き落とした、陽斗のストーカーである。


彼女は白羽を突き落として、立ち去った筈だ


なのに何故、彼女は公園で遺体として見つかったのだろうか……?


「この女、俺のストーカーだ……」

「………」

「白羽?」


先程から白羽の様子が、どことなくおかしい

彼女とは面識がない筈だ

なのに、この様子は不可解である


「……なんでもない」

「どう見ても、なんでもないって様子じゃないだろ」

「………」

「白羽!」


珍しく声を荒げる陽斗に白羽は溜め息と共に、重い口を開く


「公園で、お前を待ってる時にストーカー女と会ったんだよ……」

「……もしかして白羽が石段から落ちたのって彼女が関係してるのか?」


ニュースなどで聞いた事がある。

ストーカー対象の他に家族や親しい人物に危害や殺意を加える事があると。


陽斗は独り暮らしだ。

家族は傍にいない、だとすると常に一緒にいる親友の白羽に向いてもおかしくない。


何故、ソコに早く気付かなかったのか……。


「………」


相手の無言に。陽斗は肯定と受け取る。


先日感じた違和感はソレだったのだ


「何故、お前を突き落とした女を庇ってたんだ!」


分かっている。コレは八つ当たりだ……

気付けなかった自分自信の不甲斐なさに、苛立ちを白羽にぶつけている


「女を庇った訳じゃない。これ以上、お前に心苦しい思いをして欲しくなかっただけだ……」

「悪い……今のは八つ当たりだ。お前が俺の事を考えて黙っていたのも分かっている」


何だかんだ言いながら、白羽も陽斗を気遣っているのだ。


言葉には出さなくとも…。


「俺を突き落とした後、彼女が走り去って行ったんだ」

「確かに俺が駆けつけた時には彼女の姿はなかったよな?だったら何故、彼女は公園で殺されたんだ?」


当然、白羽が犯人などと微塵も思っていない。

そもそも石段から転げ落ち、全身を強打した状況で殺すのは不可能だ


それに、あれから白羽とずっと一緒にいる。

疑いようもなく、他人を傷つけるような事も絶対しない。


「俺には分からない。ただ……」

「ただ?」

「いや、なんでもない」


彼女を殺害したのは、おそらく白羽の影である黒羽の仕業だと思った


異様な執着を向けてくる彼なら、このような事をしてもおかしくない。

元彼女の件も、影が殺したと言っていた


「なぁ白羽……お前を助けてくれた人とは本当に面識ないんだよな?」

「え……」


怪我の事で気を取られていて聞きそびれていたが、妙に気掛かりだった


「あ、当たり前だ…通りすがりだって言っただろ」


まさか陽斗に黒羽の事を、聞かれるとは思ってみなかった。


陽斗の事だ、純粋に白羽の恩人である相手に礼を言いたいとかなのだろうが……思わず動揺せずにはいられない


「そうか……」


本人は何とか動揺を隠しているつもりだろうが、嘘をついてるのは明白である


色素の薄いグレーの髪。

一瞬であったが確かに顔立ちが白羽に似ていた


彼には兄弟はいない

だからこそ、嫌な予感がした……


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