第36夜




「よぉ、久しぶりだな」




悪魔リュウトは呼び出した相手へと声を掛ける

だが彼の挨拶を無視し、怒りを露に相手は口を開いた


「貴様に聞きたい事がある!正直に答えろ!」

「何だよ藪から棒に。久々に会ったってのに挨拶もナシか?」

「御託はいい。単刀直入に聞く、アイツは誰だ!」


目の前の相手が、こんなに感情を露にする原因は1つしかいない。

だがリュウトはワザとらしく、肩を竦ませる


「アイツって?誰の事だ?」

「ふざけるなっ!」


分からないとばかりに、とぼけて見せれば胸ぐらを掴まれた


「俺は真面目に聞いている!お前の返答次第じゃタダじゃおかない!」

「物騒だな。でも……」


リュウトは表情を真顔に戻し、手を払い除ける


「悪魔の力を失ったお前に何が出来るんだ?」

「っ……」

「アレの存在は誰かと聞いたな?お前が余計な事をした原因で本体から分離した『影』だ」

「か、げ……?」


以前、聞いた事がある

死する筈だった魂が、生き残ってしまった場合……


稀に分離する事があるというけれど……実際目にした事がなく、噂程度にしか思っていなかった


そして本体は負の感情の一部が欠落し、影は本体と成り代わるべく命を狙って来る……


「お前の自己満足の偽善のせいで、余計に苦しめてる事を自覚しろ!」

「っっ!」

「本気で護ってやりたいなら本体を影より先に殺し、魂を喰らってやる事だ。そうすれば、お前も悪魔の力を取り戻す事が出来るだろう」


死すべき人間の魂をねじ曲げて延命した禁忌により、悪魔の力を封じられた。

だから力を取り戻すには、延命された魂に『正しい死』の運命を与える事なのである


「俺が救った命を、この手で奪えというのかっ!」


悪魔の力なんて、どうでも良かった。

何よりも大切で死なせたくなかった、たった1人の人間。


「それが出来ないならば、お前の大切な人間と影が殺し合う事になるだけだ」

「く…っ!」


他の人間を殺せても、大切な1人の人間を殺す事なんて出来ない


後者を選んでも、誰かを傷つける事が出来る人間ではない。


どちらにしても大切な存在の死は免れる事は出来ないのか……


「まぁ、俺としては本体と影のどちらが生き残るか殺し合いを見てぇけど!」

「貴様…っ!」


あまりにも神経を逆撫でする発言に、我慢ならなかった。リュウトは昔から、こんな人間だと知っていたが…

怒りを抑える事が出来ない


「話は終わりだ。せいぜい足掻いてみせろよ、クロウ。いや、今はアキトだったか」

「………」


言いたい事だけを言って姿を消したリュウトに、クロウ……陽斗はギリリッと奥歯を噛み締める


拳も出血する程に強く握られていた








「お前を絶対に死なせはしない、白羽…っ!」










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