AI専門の殺し屋
スグリ
AI専門の殺し屋
AIが人類に対して反乱を起こす。
AIが管理者として人類を支配する。
そんなありきたりな終末論がSFで描かれ続けてきたけれど、AIによる世界の終わりは思ったよりもあっさりと、思いもしなかった形で訪れた。
真っ青に晴れた空の下。雲一つない青空から降り注ぐ陽の光は心地良いけれど、私の気持ちは晴れやかではなかった。
「もうすぐ期末かぁ……」
一学期の期末テストを直前に控えて憂鬱な私、中学二年生の
別に勉強が嫌いなわけじゃない。知らない事を知るのは好きだ。テストの為に、点数の為にって追われるのが嫌いなだけ。授業はちゃんと聞いているし、もう少しだらけていようとコンビニにお菓子を買いに足を向けたその時、ある書き込みが見えた。
『○○では今も多くの人たちが差別による迫害、虐殺に苦しめられています!』
そんな文面と一緒に貼られていたのは、テレビで見覚えのある街中で人が引きずられ、殺されてゆく動画。
よくわからないけど、政治系に関わると何もいいことがない。何も考えず、その時私はその書き込みをスクロールして受け流し、コンビニにアイスを買いに行った。
その一つの書き込みが、巡り巡って世界を滅ぼすとは知らずに。
五年後。
「見つけた」
ざくり、ざくりと瓦礫を足でかき分けて。
壁から突き出た鉄筋を避けながら。
曇天の下でひび割れた端末で電波反応を探り、廃墟の中で私は一台のコンピューターを見つけた。どうやら太陽光発電で動いていたみたいで、こんなところに無人で放置されていても未だに音を立てて動いている。
まずケーブルを切って電源を落とし、バールのようなもので無理矢理中をこじ開ける。するとそこにはいろんなパーツがみっちりと詰まっていた。
「今……殺してあげる」
そして私はバッグの中から電源装置を取り出すと、コンピューターのマザーボードから取り出したCPUに電極を取り付け、高電圧を流した。
バチッ。
焼け焦げた匂いがして、パーツが使えなくなった。その後も一つ一つ丁寧に、部品を取り出しては壊してゆく。そして最後にマザーボードをバキバキに叩き割り、私は作業を終える。
すると外から怒号と、銃声が聞こえ始めた。
「奴らだ、追え!」
「よくも俺達の街に核を落としやがったな!」
「○○人は一匹も逃がすな!」
追い立てられる異国の人。追いかけるのは武装した日本人たち。今のこの国……いや、この世界では珍しい事でもなんでもない。けど近寄らない方がいい事は確かで、私は拳銃の用意をしながらも陰に隠れて息を潜める。
五年の間にこの国に、この世界に多くの核が落とされた。憎しみは憎しみを呼び、戦火は世界中を包み込み、核戦争となった第三次世界大戦で世界は滅亡した。
その火種になったのが、あの時私が流したあの書き込みだった。
生成AIで捏造されたその動画を根拠に、人道支援を名目にとある国が軍事侵攻を始めた。そしてその動画がフェイクだと皆が知った時、全てはもう手遅れ。憎しみの連鎖は始まりがどうであれ収まりのつかないところまで来てしまっていた。
AIが知性を持ち、人類を裏切る。そんなSFみたいな物語を待たずとも、既存技術の限りで悪意を持った人がAIを持つだけで、世界は簡単に滅んだんだ。
「……止んだ?」
音が止まった。血の匂いがする。恐らくあの異国の人は殺されたんだろう。残念だけど私はあれを助けにいけるようなヒーローじゃない。ヒーローなんていたら、こんな事になってない。
機械に作られた憎しみで、世界が滅んだ今もまだ人々は争いを続けていた。
私は立ち上がり、次の目的地へと向かう。
18歳になった私、桔梗は今、この終末世界でAI専門の殺し屋として活動している。
八つ当たりかもしれない。意味のない復讐かもしれない。けれど、二度とあんな戦争が起きない世の中になりすようにって願いを込めて。
AIは、人類には過ぎた代物だった。だから私は今日も、明日も、AIを殺す。
AI専門の殺し屋 スグリ @sugurin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます