第30話 手のひらの上
聡太が言うには、火村家の女で力を持たない――つまり、玲奈のように生まれながらに視えない、感じない、聞こえない人間は、修業を積むか、なにかのきっかけで突然その力が開花する。
その一番多いパターンが、母親になった時。
自分の子供を守りたいという強い想いがそうさせるのだとか。
「本当はもっと早くから修業を積んで、自衛する方法を学んで欲しかったけれど、君は美恵さんのお母さん――君のお祖母さんとよく似ていた。信之丞様のお力を信じていなかったし、自分が火村の血筋で、普通ではないことに対するコンプレックスが強い傾向にあった。だから、この方法を使うしかなかったんだ」
玲奈の母方の祖母に、玲奈は会ったことがない。
玲奈が生まれる以前――日廻りの会が解散した後、消息不明となり、七年が経過したため、死亡したことになっている。
そもそも、日廻りの会が解散するきっかけを作ったのはその祖母の三番目の夫のせいだ。
自分の母親が怪しげな宗教団体の長であることを、玲奈の祖母は若い頃から恥じていた。
その母親の言う通りに何でもしなければならない、手のひらの上で転がされていることに反発して、学生時代からかなりの問題児だったのだ。
ろくに学校には通わず夜な夜な遊び歩いて、あげく高校を中退して美恵を出産。
相手の男と結婚したが、一年も経たずに離婚して実家に戻り、美恵を置いて自分はまた遊び歩いていた。
美恵を産んだことで、祖母の火村の力は完全に開花し、今まで視えていなかったものが視えるようになってはいたが、その力を二番目の夫が金儲けに利用するようになる。
その後、些細なことで喧嘩をして二人は離婚し、離婚から数か月後には、三番目の夫と実家近くのマンションで美恵と三人で暮らし始めた。
祖母はこれまでのことを反省して、心を入れ替え、日廻りの会の後継ぎとして修業を始めたそうだが、その三番目の夫こそ、後継ぎの夫という立場を利用し、信者から高額な献金を受け取っていた張本人である。
美恵は玲奈に祖母の二の舞を踏ませないよう、手を回していたのだ。
聡太は熱心な信者の孫であり、人柄も良く、経済的にも問題がない。
家族関係も良好。
玲奈が求めている普通の家庭の息子で、適任だった。
叔父にあたる芳夫は一度離婚した過去があるが、それ以外は何の問題もない。
現在は片山家とは別の町で再婚し、新しい家庭を築いている。
すべては過去に起きたことで、玲奈が芳夫と関わる機会は少ない。
二人の相性からしても、聡太と結婚すれば、玲奈は自分が望んでいる理想の幸せを手にすることができる。
芥子麗奈という化け物と関わらなければ。
「君が視えるようになれば、今度は自分で結びなおすことができるらしいよ。俺はよくわからないけど、その結界を張るにはかなりの力を使うから、同じ人間がもう一度その結界を張るには最低でも十二年のインターバルが必要らしい」
美恵が結界を張ったのは、玲奈が中学を卒業した後だ。
次に美恵が結界を張れるのは、あと六年以上先だ。
すでに火村の力に目覚めている優奈は、当然その方法を知っているが、体が弱い為、それこそ優奈の命に関わる。
玲奈本人が結界を張るのが、最適解だった。
「それじゃぁ、私がこの子を妊娠することも、最初からわかって……」
「わかっていた。祖母ちゃんの書いた遺書に、子供ができやすい日付も書かれていたからね」
――気持ち悪い。
玲奈は自分がすべて美恵の手のひらの上で転がされていたのだと知って、驚きと恐怖で吐きそうになった。
もう、つわりの次期は終わっているのに。
「全部、玲奈を守るためだよ。子供が生まれれば、君は自分で自分を守ることができる。そうなるまで、美恵さんは君をずっと守って来た。君が火村の血を嫌がっていることはわかっていても、美恵さんがしてきたことは、全部、君を守るためだったんだよ。自分の娘を守りたいと思うのは、母親として当然の感情だろう?」
聡太は、もう一人のれいなに見つかる前に結界を結びなおせるなら、それはとてもいいことじゃないかと笑った。
もう一度変わると、確実に死ぬのだから。
「そんな……死んだのは……――」
――芥子麗奈の方。
そう言いそうになって、玲奈は両手で自分の口を押えた。
聡太は知らない。
すでに芥子麗奈と関わってしまっていることを。
出産せずとも、玲奈の中で、もうその力は目覚め始めていることを。
おそらく、それは美恵も同じだ。
それもそのはずで、芥子麗奈の話は、優奈にしかしていない。
絶対に美恵には言わないように、口止めしている。
もし、優奈が裏切って美恵に話していたとしても、信之丞に祈っただけだ。
その結果を話していない。
信之丞のお告げの通り御札を置いて、芥子麗奈が入院していた病院で火災を起こしたなんて、話していない。
芥子麗奈を殺したことを、誰にも話していないのだから。
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