第27話 縁
「教祖……?」
その場には、聡太の親戚だけじゃない。
友人や玲奈の大学の同期生もいた。
そんな中で、突然、結婚式とは無関係そうなことを声を荒げながら芳夫が言ったものだから、お祝いムードが一気にお通夜のように静かになった。
「ちょっと、芳伯父さんこんなところで、やめてよ! みんな見てるでしょう!?」
そこへ止めに入ったのは、実里だった。
芳夫は片山家の次男。
隣に住んでいる三男家族――実里の両親や姉妹、その子供たちは片山家に越して来た時からの付き合いだが、芳夫は近所に住んでいない為、玲奈はこの日初めて顔を合わせた人物だった。
玲奈は芳夫には子供が三人いるとは聞いていている。
ところが、みんな忙しいのか出席の返事か来たのは芳夫のみだった。
「大事なことだろう!? 俺は何も聞いてなかった。聡太があの女の娘だなんて……!!」
「だから、その話はあとで――」
「むしろ式が終わるまで我慢していたんだ!! 聡太は知らないんじゃないのか!? 騙されているんじゃないのか!?」
実里の静止も聞かず、さらに芳夫の声が大きくなる。
そんな中、聡太は大きくため息を一つ吐いてから、言った。
「騙されてなんかいないよ」
玲奈は顔面蒼白になりながら、聡太の方を見る。
一体何が起こっているのか、理解できなかった。
何故、芳夫が怒っているのか。
何故、芳夫が美恵が教祖であることを知っているのか。
何故、聡太が――
「これは信之丞様が結んでくれた縁だ。もう、どうにもできないよ」
そんなことを言ったのか。
* * *
二次会の会場は、実里の同級生が経営しているレストラン。
二次会の食事はシェフがすでに作ってくれていて、テーブルに並べてあるが、デザートは実里が厨房の一部を借りて仕上げの作業をすることになっていた。
聡太一人に二次会をまかせて、玲奈は身重なので少し休憩ということにし、先に厨房で実里から事情を聴く。
もうゲストは移動しているし、披露宴に参加できなかった友人も来ている。
さすがに二次会に新郎新婦のどちらも不在というわけにはいかなかった。
「前に言ったでしょう? 親戚に、そういう、宗教にハマって大変だった人がいるって」
「それは……――え? それじゃぁ、その親戚って……」
「
実里は生クリームを搾りがら話を続ける。
「私は宗教の名前とか、教祖が誰だとか、そういう詳しいことは知らないわ。私の母も父もそういうものには関心がないから」
聡太の両親ももちろん関心がなかった。
けれど、綾子と祖母・
綾子は占いや守護霊の存在だとか、そういうスピリチュアルな面に関心があるタイプで、色々な町に旅行に出かけては、その土地で有名な占い師や霊能者に視てもらうのが趣味だったのだ。
ある日、その旅行に静も行ってみたいということで、二人でいくつか占い師巡りをしたらしい。
そこで出会ったのが、美恵が現在教祖をしてる宗教団体の前身である『
「息子の
日廻の会に入信してから、すぐに春一の原因不明の病気が明らかになり、手術が成功。
結局、春一は二十歳の夏にバイク事故で亡くなるまで、病気一つせず健康体だったそうだ。
日廻の会はその後、一部の幹部たちによる献金問題で解体されてしまったが、熱心な信者たちはそのまま、美恵が教祖をしている現在の宗教団体に入信している。
「詳しくは知らないけど、確か、高額な献金を要求して――――当時ニュースでもやってたかな? 綾子伯母さんがその献金の為に勝手に芳伯父さんのコレクションしてたフィギュアとか昔の玩具……査定に出したら高額で取引されるようなお宝を売っちゃってね、それで大喧嘩して離婚したんだけど」
綾子が熱心だったように、静も熱心な信者だった。
綾子ほど献金はしていなかったが、自分が死んだら、葬儀は団体のやり方で執り行って欲しいと遺言状まで残すほどの徹底ぶりだったそうだ。
「綾子伯母さんとは離婚したから、片山家で信者だったのは、祖母だけだった。祖母が亡くなったから、教団との繋がりも切れていたはずなんだけど……登紀子伯母さんだって、聡太だって信者じゃなかったし」
そんな過去があるのに、教祖の娘である玲奈との結婚がなぜ許されたのかわからなかった。
子供ができて仕方がなく――ならわかるが、玲奈が妊娠したのは聡太からプロポーズされた後だ。
お互いの家族についての話も、ずっと前にしている。
「玲奈さんは、その宗教を信じていないんでしょう? そのせいで迷惑してるって、高校生の時よく言っていたものね」
「はい……」
その時は、母親が教祖だなんて言えず、信者だと嘘を吐いていたが……
「信者じゃないから、問題ないってことにしたならまぁ、まだわかるわ。実家との縁を切って、完全に片山家の人間になってしまえば問題ない。でも、その……しん……何様だっけ?」
「信之丞様です」
「そう、その信之丞様が結んでくれた縁って聡太が言ったのはおかしくない? まるで、信者みたいじゃん」
詳しくは聡太の口から聞くしかない。
実里が知っているのは、ここまでだった。
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