第20話 嫌な記憶
それ以来、芥子麗奈の何もかもが気持ち悪い。
玲奈はバトミントン部に入っていたが、そこでも芥子麗奈は同じだった。
練習なんて全然しないで、ただただ部活中の玲奈を見ている。
顧問の先生に何度怒られても、芥子麗奈はずっと、玲奈を見るためだけに部活に来ていた。
玲奈は「自分がいるせいで他の部員たちに迷惑がかかるから」と、秋にはやめてしまった。
そして、部活をしていないのだからと、別のクラスメイトに誘われて一年の冬からは学習塾に通うようになった。
そこではS、A、B、Cと学力別にクラスが分かれていて、玲奈はAクラス。
数日後に芥子麗奈も同じ塾に入って来たが、彼女はCクラス。
ここでは離れられたと安心していたが、次のテスト後、一気に成績を上げて、Bクラスに上がって来た。
このままでは追いつかれると思った玲奈は、そこで必死に勉強して三年の初め頃にはSクラス。
芥子麗奈は一度だけAクラスに入ったが、すぐに降格してほとんどBクラスだった。
「高校ではまたおんなじクラスになれたらいいね」
単純に学力だけではなく、内申点にも差があったというのに、二年の終わり頃、芥子麗奈はそんなことを言った。
この時にはもう、玲奈は麗奈の顔も見たくないほど嫌悪感しか抱いていなかったが、この学校は残念ながらクラス替えがない。
三年間同じクラスだ。
あと一年は毎日この気持ち悪い女と同じクラスで、毎日顔を合わせることになるのが、本当に嫌で嫌で仕方がなかった。
無視をするのが一番だとはわかっていたが、当時の担任は「無視だとかイジメとか、変ないじりをするような奴には、絶対に内申点をやらない」というスタンスだった為、何もできなかった。
それに、玲奈が無視をしたとことで、芥子麗奈は引き下がらない。
こちらが返事をしなくても、勝手に話しかけてきて、「やっぱり玲奈ちゃんもそう思うよね」「玲奈ちゃんならわかってくれると思っていた」などと、言ってくるので、どうしようもなかったのだ。
「玲奈ちゃん」
その声で名前を呼ばれる度、鳥肌が立って仕方がない。
学校や塾でだけじゃない。
休日にクラスメイトの何人かと映画を観に映画館に行った時、突然腕を掴まれたことがある。
「駄目だよ玲奈ちゃん。玲奈ちゃんにはこんな幼稚な映画向いてないから。もっと面白いものがあるの、私と一緒にそっちを観よう」
誘ってもいないのに、芥子麗奈はそう言って、玲奈の手を引っ張った。
玲奈はその手を振りほどいて、一人家に逃げ帰るしかなかった。
「ゲームセンターなんて不良の来る場所だよ。玲奈ちゃんにはふさわしくない」
塾のクラスメイトとゲームセンターに入ろうとしたら、誘ってもいないのに芥子麗奈に止められたこともある。
一緒に来ていたクラスメイトが、玲奈の代わりに「お前は何様のつもりだ」と怒ってくれたが、そんなものは無視してずっと玲奈にだけ話し続けたこともある。
そんな異常な現場に、友梨佳も居合わせたことがあり、三年生になった頃、友梨佳が玲奈に言った。
「あいつはやっぱり変だよ。先生に言っても、全然理解してくれないし……っていうか、取り合ってくれない」
玲奈を不憫に思った友梨佳は、担任に何度か相談したそうだ。
けれどいつも「芥子さんは、友達思いなだけだろう。あの子は教育者の娘だから、教育に悪いことを友達にさせたくないだけだ」と言われてしまう。
そんなのはおかしいと憤慨した友梨佳が、自分の母に相談すると、どうも芥子麗奈の父親は偉い政治家と繋がりがあるらしく、芥子麗奈の機嫌を損ねて、自分がトラブルに巻き込まれることを避けているんじゃないかと言った。
実は、友梨佳の従妹が玲奈と芥子麗奈の通っていた小学校の同級生だったこともあり、以前、叔母が芥子麗奈の言動がおかしいことに気づいて、担任と何度か揉めたことがあったそうだ。
「ママの話じゃ、先生に言っても無駄。中学の間は諦めた方がいい」
「そんな……」
「でも、あと経った一年だよ。このまま永遠に続くわけじゃないし……玲奈の志望校って、みんなと同じ
「う、うん。家から近いし……」
玲奈の成績なら、町外の一番偏差値の高い高校だって頑張れば入ることができるが、緑ヶ丘高校以外は遠い。
バスを乗り換えて通うことになる為、この中学ではよっぽど成績が悪いかずば抜けて優秀でない限り、第一志望は緑ヶ丘高校と決まっていた。
「少し遠いけど、来年から隣の市に新しい高校ができるの知ってる?」
「え、うん。私立の高校だよね?」
「そこにしたらどうかな?」
「……え?」
友梨佳は玲奈に、芥子麗奈には緑ヶ丘高校に入ると思わせておいて、その別の高校に通ったらどうかと提案した。
芥子麗奈と離れたかった玲奈は、その提案に乗ったのだ。
中学の卒業式が終わった後、玲奈は芥子麗奈のSNSはすべてブロックして、翌日には髪も切った。
火村家が高校入学前に引っ越すことになったのは、ただの偶然だった。
顔や姿が見えなくなれば、芥子麗奈を思い出すことはなくなった。
玲奈にとって、芥子麗奈は過去の存在になった。
決して思い出したくない存在。
人間の脳とは不思議なもので、思い出さないと決めたその瞬間、玲奈は本当に、今の今まで芥子麗奈の存在を忘れていたのである。
「玲奈ちゃん、少し太ったよね? 大丈夫? 変なもの食べてない? 顔色も悪いし」
病院の外で、これが芥子麗奈だと気づいた瞬間、封じ込めてしまっていた嫌な記憶が、堰を切ったように溢れだした。
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