第15話 初任務(異論は認めない)by剣司

 ——初任務の知らせが届いたのは、ミトとの同棲が始まって一週間が経った時だった。


 知らせは、けいちゃん先輩のラインから送られてきた。家の鍵以外は何も持ってくるな、ミトも連れてこい、という条件と共に。


 ……え? 初任務はミトとの事情聴取じゃないかって? 

 ——いいや、全然違うね。あれは同僚との顔合わせであって、決して、断じて初任務ではないのである。もちろん異論、反論は一切認めない。


「初任務……少し緊張してしまいます」


 俺みたいに必死に自論を展開した初任務(笑)ではなく、真に初任務を請け負うことになったミトが自信なさげに言う。なんでも卒なく熟しそうなイメージだったのでちょっと意外だ。

 だからか、反射的に訊ねていた。


「ミトは何に緊張してるんだ?」

「剣司様は緊張なされないのですか? 異能捜査課は命に関わる危険な仕事だと聞き及んでおります。それなのに、任務の内容も一切知らされていないのですよ。普通なら不安なり緊張なりするでしょう?」


 …………確かに。

 でも、前回の俺、一切内容聞かされてなかったんだけど。なんなら病院について俺が聞くまで知らされなかったんだけど。とんでもないな、異能捜査課。


 とかなんとかぼやいているが、実際のところ聞かされてなくとも一向に構わない。

 斬りがいのあるモノと相対することができるなら、どんな状況、どんな条件であれ俺も相棒も文句はないのだ。


 ……あ、でも、相棒の使用禁止だけはやめてね。俺だけ楽しんじゃうと機嫌取るのが大変なんだよ。鞘から抜かれないように抵抗したり、そもそも召喚拒否してきたりするんだからあの子。


「…………どうしよう。俺、普通じゃないのかも知んない。全然なんとも思わなねーもん」


 顔を引き攣らせて零す俺に、ミトはスンッとした表情で言った。


「そうでしょうね。私を児戯の如く弄ぶ剣司様はどう考えても普通ではありません」

「ミトさん!? 例え。例えすんごいからね!? 君が言うとなんか色々とヤバいからもっと気をつけてね!?」

 

 その言い方だと、まるで俺がド変態野郎に聞こえるじゃないか。

 俺はキスもしたことない立派な純情チェリーボーイである。俺のヘタレ具合をあまり舐めないでもらいたい。


「いいか、ミト——」


 俺が彼女に説明しようとしたその時だった。




「——フンッ、やはり薄汚い野良異能者だったか」




 背後から侮蔑の籠もった言葉が飛んできた。

 慌てて振り返れば……メガネを掛けた端正な顔に軽蔑の表情を浮かべた雷久保と、ドン引きした顔で後ずさる内海さんの姿があった。内海さんのドン引きは普通にメンタルにきた。


「い、いや、待ってくれ……こ、これは誤解なんだ内海さん!」

「……さ、最低です、村正さん……っ」

「ごはっ——!?」


 内海さんにフイッとそっぽを向かれて地に沈む俺。何もしてないのにこの仕打ち。理不尽というしかない。俺のライフはもうゼロよ!

 可愛がっていた従妹に嫌われたかのような絶望感に、俺がシクシク地面を涙で濡らしていると……ミトが申し訳無さそうに口を開いた。


「すみません、本当に誤解なのです」

「ご、誤解……ですかっ?」


 おっかなびっくりとした内海さんの言葉にミトは頷く。


「はい。私、先週より剣司様と一緒に過ごしているのですが、剣司様に指導してもらっているのです。当然、私が頼みました」

「そ、そうなんですね……よ、よかった……す、すみません、村正さん。早とちりしてしてしまって……」

「ああ、うん、別にいいよ」


 俺は何事もなく立ち上がり、罪悪感を抱かせないようニカッと笑みを浮かべる。

 しかし、内海さんにはなぜかビクッとされた上に目を逸らされた。おかしい、俺の渾身の爽やかイケメンスマイルが効かないだと……!?


 想定外の事態に、隣に立つミトへと助言を仰ぐ。


「なぁミト、俺ってなんかおかしなことした?」

「御自分の胸に聞いてみてはいかがですか?」


 ミトさーん? なんか冷たくなーい? 


 心做しか声色も視線も冷たいミトの様子に首をひねるも……答えが出る前に雷久保が話を切り出す。


「それで、貴様は誰だ? 癪ではあるが、この野良異能者は知っている。しかし貴様のことは知らされていない」


 癪ってなんだよ癪って。ちょっと酷いだろ。柄杓ひしゃくでぶん殴ってやろうか。


 なんて内心キレる俺を他所に、相変わらずぼーっとした瞳を二人に向けたミトが会釈しながら答える。


「初めまして、一週間ほど前に異能捜査課に配属されましたミトと申します。今は理由あって剣司様と行動を共にしています」

「わ、理由というのは……」

「——悪いが、お前らには教えられねぇな」


 内海の質問に突如割り込まれる言葉。

 その言葉を発した張本人——けいちゃん先輩は、少なくない不信感を示す内海さんと雷久保を交互に見つめて続けた。


「それと、今後彼女に関することを聞くのも禁止だ」

「なぜですか? 同じ任務に就く以上、情報交換は必須です。それに……俺は、素性も知れない奴らと組む気はありません。薄汚い野良異能者共は特に」


 反論したのは雷久保。軽蔑の目で俺とミトに視線を向けたのち、険しい顔でけいちゃん先輩を睨む。

 だが、けいちゃん先輩はそんな視線など歯牙にも掛けず返した。


「素性は異能捜査課が保証する。だから余計な詮索はするなよ。いいか、これは上からの指示でもある。——その意味、雷久保家なら理解できるよな?」

「……っ、分かり、ました」


 けいちゃん先輩に凄まれた雷久保は、耐えるようにギリッと唇を噛みながら頷く。

 隣では、内海さんが涙目で頻りに頭を縦に振っていた。可哀想だけど可愛い。


 ただこれ以上は可哀想だと思い、話題を変えるように口を開いた。


「けいちゃん先輩、凄むのはそこら辺にしてそろそろ任務の内容教えてくださいよ」

「……一応お前にも圧を掛けてんだが?」

「キャーこわーい(棒)」


 俺が抑揚のない悲鳴を上げると。


「はぁ……じゃあこれから任務の説明をするぞ」


 けいちゃん先輩は呆れたようにため息を吐いて説明に入った。


「最近誘拐事件が頻発しているのは知ってるか?」

「ああ」

「は、はいっ」

「承知しております」


 どうやら三人は知っているらしい。雷久保が知っているのは意外だったけど。

 あぁ、俺? もちろん知んない。全然知らないよ。最近はほら、修練とオタ活で忙しいからね。ミトの師事もしてるし。


 なんて内心言い訳をする俺に、四人の『お前マジで知らねぇの?』という目が突き刺さった。


「へ、へへっ……さーせん」

「お前は少し世間に目を向けろ」

「あでっ」


 頭を小突かれた。

 俺は小突かれた後頭部をさすりながら訊ねた。


「それで……どんな事件なんです?」

「主に独り暮らしの大学生を狙って起きている誘拐事件だ。既に二十人以上の大学生が誘拐されているが、まだ潜在しているのは間違いねぇな」

「犯人の目星は?」

「世間ではまだ特定されていねぇとされてる」

「つまり、もう突き止めているんですね?」


 けいちゃん先輩が頷いた。


「ああ。だが、犯人は普通じゃない。簡単に言えば——異能者だ。まぁ殺し屋とかじゃねぇ……言うなら半グレ集団だな。犯人の数は少なくとも十人以上、その全員が異能者だと俺達は睨んでいる」

「それで、俺らはどうすれば? 全員捕縛すればいいんですか?」

「そうだな……出来るならそうしてくれ。ただ……」


 無理なら殺すことも視野に入れてもいい、か……。


 冷水を頭から浴びせられたかのように、思考が冷める。

 覚悟はしていた。この世界には死が溢れているのも察していた。


 俺は、チラッと三人に視線をやる。


「「「…………」」」


 全員が全員、躊躇いがある。特に内海さんはそれが顕著だった。

 まぁ当然だろう。人殺しになるというのは、何より精神に苦痛を与えるものだ。


 ……これは、俺が引き受けた方がよさそうだな。


「了解です。ただ、そうならないように頑張ります」

「そうしてくれ。場所は資料を送る。行った先に春波がいるはずだ。詳細はアイツから聞いてくれ」


 じゃあ頼んだぞ、とけいちゃん先輩は言って踵を返す。

 俺は彼の背を目で追ったのち、黙り込んだ三人を引っ張るように告げた。




「んじゃ——行こうか」

 

 


 そう言った俺の口元は……多分歪んでいたと思う。


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