第11話 類は友を呼ぶ
「——俺を待ってた、ですか……?」
悪いと思いながらも懐疑的な視線を向けてしまう。
しかし彼女は気にした様子もなく、首を縦に振った。
「そうです、私は貴方様を待っていました」
「そ、そうですか……」
残念ながら、俺はコミュ力抜群な方ではない。コミュニケーションへのブランクはそこらのニート以上だぞ。こちとら俺は千年産のボッチなんだからな。
当然、女性を楽しませるような会話が出来るわけもなかった。
…………き、気まずいなぁ……。どんな話をしたらいいんだろ……?
オマケに相手は超絶美人で、視た感じ俺より年上ときた。
千年と二十年生きていきたが、異性経験は二十年弱と他の同い年と同じレベルでしかない俺には荷が重い。
なんて気後れする俺だったが……流石にツッコまざるを得なかった。
「……なんで泣いてるんです?」
そう——彼女は今はもちろん、俺と顔を合わせた時も少しではあるが会話をしていた時もずっと泣いていたのだ。表情は変えず、嗚咽もなく、鼻を啜ることもなく……ただただ紅い瞳からずっと涙を流している。
その量と来たら……脱水状態になるんじゃないかと心配してしまうレベル。彼女が目の前できつねうどんの油揚げみたいになったら泣くからね俺。怖すぎてギャン泣きするからね?
トラウマになること間違いなしだな……と想像して身震いしていると。
「なぜ、ですか……。そうですね——」
彼女は依然として涙を流し続けながら、俺を見据えて告げた。
「——貴方様が怖いからです」
…………。
…………怖い、か。
…………ま、そうだよな。
彼女から告げられた言葉に、俺は内心苦笑する。
今の今までなんとも思っていなかったが……言われてみれば当然だった。
彼女は外傷も内傷もないとはいえ、俺に斬られたのだ。殺される疑似体験をしたと言ってもいい。
さっきの剣士発言といい、鬼になっていた時の記憶もあるんだとしたら……そりゃあ怖がらないはずがない。
彼女にとって俺は——恩人であると同時に、自分を殺した加害者だったのだ。
……そうか。つまり彼女が俺をここに呼んだ真の理由は——
「——俺を殺すため、ですか」
俺の言葉に、彼女は反応を示さない。肯定も否定もしない。——が、その態度は、俺の見解に現実味を持たせるのに十分だった。
……なるほど、俺は今から殺されるのか。
今になってやっと実感が湧き、改めて自分の死について考えてみる。
うーん……死ぬのが怖いか、と言われたら……別に怖くはないな。
生きているということは、死ぬということだ。
『死』というのは、命あるモノの定め、一種の救済だ。まぁそれを彼女を含めた普通の人が心の底から思うことは不可能だろうが。
それこそ——人生を何回もやらない限りは。
ここで登場するのがこの俺、村正剣司だ。
俺は死が怖くない。それこそ軽く普通の人間の十倍は生きているからね。寧ろお腹いっぱいって感じだ。やっぱり腹八分目が丁度いいんだよ。……何いってんだ俺。
それはともかく。お腹いっぱいならなんで生きてんだよ、と思うだろうが……はっきり言ってわざわざ自殺する必要がないから生きているのだ。
自殺なんて、俺を産んで育ててくれた親に失礼すぎる。するにしても、まだまだ迷惑が掛かってしまう可能性があるからね。
後はそうだな……俺が死んだら——絶望する人はいなくても、悲しんでくれる人がいるからだ。情とか繋がりってのは中々厄介なもんだよ全く。
まぁだから何が言いたいのかというと。
「悪いが——まだ殺されるわけにはいかないんだ」
俺はスッと目を細め、感情を見せない彼女を睨め付ける。
例え相手が悪逆無道な実験の被害者であろうと、俺のスタンスは変わらない。
俺の命の行き着く先は——俺が決める。俺が決めた。
だから、それまでに俺が死ぬことは絶対にあり得ない。
俺は何が起きてもいいよう、部分的にリミットは解除しておく——
「——剣士様、何か勘違いしていらっしゃいますね」
…………へっ?
彼女の言葉に俺の思考は否応なしに停止させられ、ポカンと口が開く。きっと俺のお目々は点となっているだろう。
「か、勘違い……?」
恐る恐る尋ねると、彼女は肯定するようにコクンと小さく頷いた。
「はい。確かに私は貴方が怖いと言いましたが……ただ怖いからといって殺すというのはおかしいでしょう? 仮にそうなら、世のホラー映画では死人がたくさん出てますよ」
……それもそうだ。例えはちょっとアレだけど、言っていることはマトモだ。
「な、なら、どうして俺を待っていたんです?」
「恩人にお礼を言いたい。せめてものお返しをしたい。というのは……人として普通ではないでしょうか? 剣士様になら、きっと二度と思い出したくない悍ましい記憶であっても話してもいいと思ったまでです」
生憎今の私は動けませんので、なんて澄ました顔で宣う——と同時に頭を下げた。
「——助けていただき、ありがとうございました」
彼女の白銀の髪が肩からサラッと垂れ下がったせいで、顔は見えない。
でも、彼女の声色には、確かに感謝の色が籠もっていた。
…………めっちゃ良い人じゃん……。こんな良い人に俺は敵意を向けてたわけ? とんでもないなおい。
罪悪感に押し潰されそうになった俺は、彼女同様深々と頭を下げる。
「……さっきは、威圧するような真似してすいませんでした……」
「っ! 頭をお上げください。私も気にしていません……が、謝罪は確かに受け取りました。ですので頭をお上げください」
少し早口で言われ、これ以上は失礼にあたると考えた俺が頭を上げると……彼女は少し焦ったような表情を浮かべていた。
「…………」
「……な、なんでしょうか」
「……え、や、貴女もそんな顔をするんだな、と思いまして」
俺が少し間抜けた声で言えば、恥ずかしそうにほんのりと頬を染めて、話題を変えんと言い繕った。
「そ、そんなことはどうでもいいのです……っ。そ、それより、私のことはミトとお呼びください。敬語も不要です」
「そう? じゃあ敬語なしでいくわ。それと、俺のことは剣司って呼んでくれ。紛らわしいけど、
「わ、分かりました。では、剣司様と呼ばせていいただきます」
「いや普通に剣司で——」
「——剣司様と呼ばせていただきます」
「お、おう……分かった」
やけに必死そうな彼女の勢いに押さえて反射的に何度か頷く。
そんな彼女……いやミトの姿はなぜだか分からないが無性に面白く映り、気付けばクスリと笑みが漏れていた。
「……ど、どうして笑うのですか?」
「いやーなんか親近感湧いちゃって」
「……私に親近感を抱くなんて、変な人ですね」
「それな。俺もビックリしてる」
言いながら、俺は苦笑気味に肩を竦める。
そんな俺の様子にミトは一瞬驚きに目を開くも……俺を真似るように苦笑と共に肩を竦めた。
「類は友を呼ぶ、とはこのことですね」
「そうだな。いい友達になれそうだよ」
いやホント、お世辞とか冗談抜きでそう思う。
もしかしたら……彼女からする、俺に似た気配がそう思わせているのかもしれない。知らんけど。
「——そうですね、私もそんな気がします」
なんて言って——ミトが淡く微笑んだ。
その笑みに——俺は不覚にも見惚れてしまった。
「……っ、そ、それじゃ、雑談はまた今度するとして……そろそろ本題に入ろうぜ」
俺は彼女から視線を外しながら話題を変える。
いきなりすぎたせいか、ミトは少し不思議そうにしていたが……直ぐに表情を引き締めた。瞳は相変わらずぼーっとしているが。
「分かりました。では、どこから聞きたいですか?」
コテンと可愛らしく首を傾げるミト。見た目が大人っぽいだけにギャップが凄い。
俺はけいちゃん先輩から予め聞いていた質問内容の内、出来るだけ彼女が話しやすいモノを選んで言葉にする。
「そうだな……まずはミトがいた研究所の場所を教えてくれ」
「……分かりました」
ミトは一度深く息を吸うと、覚悟を決めたように口を開いた。
「私のいた研究所の場所は——児童保護施設です」
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