第7章 夢を見ない夜

夜、目を閉じても、夢は来なかった。

理音は薬を飲む。

「夢を見ないための薬」

そう言いながら、眠りにつく。


でも、夢が来ない夜こそ、彼は現れる

名前も顔も曖昧なまま、彼らは理音の周りを漂う。


理音は恐れずに手を伸ばす。

触れることはできない。

でも、彼の存在を感じられる。

呼吸の温度、心臓の鼓動、指先にかかる微かな風。


「夢を見ない夜にだけ、会える」

理音はそう言った。


その夜、部屋の隅に置かれた白い百合がひとつ、

自ら花びらを揺らす。

まるで、誰かが生きているかのように。


理音の唇が微かに動く。

「やっと、会えた……」

その声が、夢でも現実でもない空気に溶けていった。


目を開けると、部屋は静まり返っている。

夢を見なかった夜は、過去でも未来でもない。

ただ、彼がそばにいた記憶だけが残る。


そして百合は、また静かに揺れる。

──誰も触れていないのに。

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