第8章 「変」

町の空気は、静かに震えていた。

すべての存在が、同じ場所に集まる。


古びた時計塔の針が、十一時十一分を指す。

その音に合わせて、白い百合の花びらが舞う。

舞い落ちるたび、誰かが消え、誰かが現れる。


「これが……私たちの愛の形?」


誰かが問いかける。

でも、答える声はない。

すべては時間の中で、入れ替わり、すれ違う。


鏡を覗くと、自分の顔が映る。

でも、目の奥には、誰か別の魂が宿っている。

手紙を読むと、誰かからの返事が届いている。

でも、それは過去でも未来でもない。


百合は散り、床に落ちる。

その一枚一枚が、恋人たちの思い出であり、後悔であり、約束であり、裏切りだった。


彼らは皆、同じ魂の一部だったのかもしれない。

恋をし、嘘をつき、夢を失い、時間を止め、

手紙を書き、鳴らないチャイムに耳を澄ませ、

そして、また出会った。


結局、誰が生者で、誰が死者なのかは分からない。

それでも確かなのは、彼らは確かに“愛していた”ということ。


──そして、この町は、変わり続ける。

見る者によって形を変える


変なものは、伏線だらけだのだろうか?

ただし、愛の形は、変なのだ。


静かな鐘の音が、町を包む。

そして、誰もいないはずの部屋で、白い百合の花びらが一枚、舞った。

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