犬の名は「むぎ」人の名は「爽介」——今ここに僕らより孤独なバディはいない。

🥮ドラヤキとりんご🍎 \ENW\KKG

第1話 一人ぼっちのビーグル犬

—ここは、ある町の小さなペットショップ。


 僕はビーグル犬。イギリス原産らしい。生まれたのは、約二ヶ月半前だ。


 今まで静かな場所で過ごしていたのに、ある日いきなりピカピカのショーケースに入れられ、人の目につくところに置かれた。ガラス一枚隔てた向こう側で、人間の声が絶えず僕の耳に流れ込んでくる。


「かわいい〜。この子欲しいかも」

「生まれたてかあ。うーん。ちょっと値段がなあ」


 僕の値段—というと、なんだか遠い国の紙幣の価値の話を聞いているようで、興味が湧かない。店長が「五十五万。生まれて間もないし、中型犬だし…」と話しているのは聞こえていた。先ほどの客のように、僕のことは気に入るらしいのだが、結局は「お金」という、僕には理解できない大人の事情で、彼らは見るだけ見て帰ってしまう人が大半だ。


 (僕からも、特にアピールなんてしないしね)


 売れても売れなくても、僕さえ生きることができれば問題ない。周りの犬たちが客にアピールをする中、僕はわざと寝たふりをして客たちの一時的な興味を防いでいる。人間の興奮や期待というのは、騒がしくて、僕のクールな精神には合わないのだ。


 その結果、一ヶ月後ぐらいには、僕は人間の目につきづらい一番下の角っこの場所へと変更された。そして、僕がもともといた目立つショーケースには、新しく愛想のいいコーギー犬が入っていた。ガラスには『大人気!コーギー!あなたも今日からコーギーの飼い主になりませんか?』と能天気な文字が躍っていて、客の人たちはそのショーケースの前に群がっていた。


「かわいいわぁ」

「この子欲しい!お金貯めようよー」


 もちろん人気なのは新しく入ってきたコーギーだけではない。  ふわふわの毛を持ったプードル種。つぶらな瞳を持ったチワワ。日本犬といえばの柴犬。胴長短足で人気のダックスフント種。そして、大きくてかっこいいシェパード犬。  みんながみんな個性を出して、客たちを懸命に寄せ付けている。


「みんな元気なのに、あの子だけずっと寝てるわね」


 一人が僕をチラッと見て言った。


「しょうがないよ。怖がりなのかも」


 いえ、全く怖がりではありません。 心の中で僕は即座に反論する。本当に眠いだけであり、あなたたちの、すぐに冷める一時的な興味の相手をするのが、ただめんどくさいだけなんです。




—20時


 閉店時間。客が帰った後、店員たちも続々と帰る準備を始める。僕たち犬は閉店後、独りになる。その前に夜ご飯が与えられる。大体の人は「可哀想」とか思うのだろうが、人にとっては不都合なことがあるのだろう。人件費…とか色々店長たちが話しているのを聞いた。ただそれだけであって本当のところはわからないが。


「みんないい子に待っててね」


 部屋の電気が消され、店長はお店のドアから出て行った。


 『よっしゃ。店長帰ったぞ!今夜も騒ぐぞ、野郎ども!』


 静かに寝れると思ったのに、またか。うるさい。

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