閑話 バッドエンド1

 遠藤さんへメッセージを送ろうとした指が、ふと止まった。よく考えたら車検の期限まではひと月ある。

 11月の給料日はすでにいろいろ天引きされることが決まってるからしょうがない。12月の給料日まで我慢して、石拾いとかちょっと控えて。車屋さんには少し待ってもらうことになるけど、これなら車検代払えそうだな。


 12月、給料日の前日、僕は自身の意志の弱さに打ちひしがれていた。

 事務室から退き、施設の自室にある鉱石コレクションへと逃避するためにとぼとぼ歩いていた僕に、声がかけられた。

「お、辻村君。ちょうどいいところに」

 振り返ると、そこにいたのは浅井研究員。

「もうすぐ一般人向けの臨床試験が許可されそうな薬があるんだけど、その前のワンクッションとして被験者やってみない?」

 反射的に断ろうとした僕に、浅井研究員が耳打ちした。

「ちなみに時給は……」


 その後、彼、辻村拓実の姿を見かけた人はいないという。

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