第1話 目覚める自分に、後を託す

 朝の七時過ぎ、今日の仕事を終えた僕は家の庭へ車を停めた。

 帰路でライトを消したはずだが、念のためスイッチをひねって確認し、エンジンを切る。

 軽トラから降りて玄関へ向かい、脇のポストを確認するとハガキが一通入っていた。

 辻村拓実様、僕宛だ。

 裏返すと、それは馴染みの車屋さんから、車検日が近いことを知らせる連絡だった。

 通帳の残高を脳裏に浮かべ、二年前の記憶をたどる。前回、どこかに不調があり、ついでに修理をしてもらった。その時、たしか十四万ほどかかったはずだ。まずい。全然足りない。

 ハガキを無意識にあおぎながら、いつものように勝手口へと向かう。

 まあ、いいか。起きたら遠藤さんに相談しよう。

 とりあえず寝る。

 僕は、目覚めた自分に後を託し、自室のベッドに逃げ込んだ。


 車検は頼むとして、請求書は給料日まで見て見ぬふりをするか?

 車検代を払って、次の給料日まで生活が持つか?そういえば今月の廃坑探索許可料、何回行ったっけ?下手すると給料、車検代にも足りないかも。

 布団にくるまって堂々巡りで考えているうちに、僕は眠りへと落ちていった。


 毛布の心地よい温もりの中、僕は目を覚ました。どうやら電灯を消し忘れていたらしい。その光が、まぶた越しに目にしみる。

 枕元のスマホを手に取り時間を確認する。十一時過ぎか。

 僕はメッセージアプリの「インコ」を起動した。 画面に表示されたローマ字キーボードでメッセージを打ち込む。


『ちょっと相談あるんですが、お時間ありますか?』


 宛先が遠藤さんであることを再確認し、送信ボタンを押した。

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