山間部夜間業務員の日常、ただし通常の野生動物に限る

いーんちょ

プロローグ

 それは、十月のある晴れた日のことだった。

 上司に頼まれて小さな畑の草取りにかりだされ、小さな草の芽をちみちみと抜いていた僕の目に、一株だけやけに大きく成長した葉物野菜が止まった。

 畝には一列に並んだひょろんとした細長い双葉の列。

 なのにそれだけは店に売っていてもおかしくないくらい立派なホウレンソウ。

 遠藤さんが抜き忘れたのか?なんてことを考えながら軍手をした手をホウレンソウへと伸ばした途端、ぱふりと大きな葉で手を包まれた。わずかな圧迫感。

「……」

 無言で手を引き抜いて、立ち上がった僕は施設へ向かって歩き出した。

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