パターン1 ふっつうの展開
嗚呼、セミがうるさい。夏の暑さを、このセミの鳴き声がより一層暑く感じさせる。横の木で止まり、わめき散らかすセミに日本語を理解させて、小一時間は説教したいほどに腹が立つ。でもそんなことはしてはいけない。なぜなら俺は知っているからだ。セミは生まれてすぐに地中に潜り、何年も土の下で過ごす。ほんの一二週間外に出て、泣きじゃくるためにとてつもなく長い時間を我慢して外に出てきたのだ。そんな偉い生物に八つ当たりなんてしてはいけない。
そんなことを考えながら、教卓に目を向ける。相変わらず、わけのわからんことを話している。そんなどうでもいいようなことを話すなら、身を守るための話をしてほしい、もし、いま教室に不審者が入ってきたら、おれはどう動けばいい、教室の窓際の一番後ろという絶好の位置に座っている俺はどうすればヒーローになれるのか教えてほしい。誰もがするような妄想にふけりながら、眠気に身をゆだねようとしたとき、教室の外が騒がしい。誰かの悲鳴が聞こえる。誰かの怒号が聞こえる。猛烈に突き進む足音が聞こえる。顔を上げ、あたりを見回そうとしたとき、横のドアがものすごい勢いで開いた。不審者だ。包丁を持ってる。女子たちが、聞いたことのないような高音で叫ぶ。教室内はパニックに陥り、先生は何か大声で叫んでいる。不審者は何もしゃべらず、ゆっくりと歩き始めた。そいつの目の前には、このクラスのマドンナ的な女の子がいる。おれが、ほんのさっきまで考えていた妄想と同じだ、さあ、どうしよう。震えが止まらない、確実に寒さからくる震えではない、だって今夏だもん。てことは、これは、武者震いか、もしくは、今この状況に恐れおののいている証拠か、このどっちかしかない。座席的に、俺しかあの子を助けれない。そのときには思いつきもしなかったが、不審者は学生時代にいじめられていたのだろうか、クラスで一番かわいい子を見つけた瞬間、刃をむけて、その子にめがけて進んでいく、おれはとっさに飛び出した、顔面でもぶん殴ってやればよかったのに、どうどうと体をマドンナの前に広げてしまった。刺された。熱い。痛い。悲鳴が聞こえる。今まで見てきたどんなものより、赤い液体を見て美しいと思った。てかめっちゃ痛い。これやばいなとか思っていると、マドンナが膝枕してくれていることに気づいた。幸せ~。駆け付けた教師たちによって、不審者は取り押さえられたみたいだ。ありがとうが聞こえる。多分マドンナだ。嗚呼、うれしい。これを機に俺のことを、好きになってくれたりしないかな。おれ、これから学校で英雄って呼ばれたりしないかなとかしょうもない願望がいくつも頭を駆け巡る。担任が、駆け付けてきた、「もう少しで、救急車が来る。それまでの辛抱だ。」死ねるわけないだろ、これから、俺の伝説が始まるのに・・
サイレンが聞こえる。全然俺を祝福してくれるような音じゃないな、セミかよ。うるさいな
続く・・
妄想拡張 @aiuti_444
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