第4話「愛か支配か――ラブレンジャー分裂!?」その3
市民たちは一人、また一人と正気に戻っていた。
戸惑う視線が五人に向けられる。
「さっきのことは、とりあえず全部“ディボーチ帝国のせい”でいい。そのうえで――」
ラブレッドは頭を下げる。
「ごめん。俺たちも“愛の名を借りて間違えた”。もう二度と同じ間違いはしねぇ」
五人も揃って頭を下げた。
「こんなに格好悪いヒーロー、初めて見た……でも、そういうの……ちょっと好きかもな」
「“間違えた”ってちゃんと言えるヒーローの方が信用できるよな」
「“完璧なヒーロー”なんていない。だからこそ、『もう一回やり直します』って言えるやつの隣に――俺は立っていたい」
ラブグリーンは仲間たちを見つめ、そう思った。
かくして、“支配の愛”を振りかざす怪人コントーロとの戦いは幕を下ろした。だが、ディボーチ帝国との戦いはまだ始まったばかりである。
“みんなと同じ”でいることの安心。
“違うまま”でいることの怖さ。
そのどちらにも向き合いながら、ラブレンジャーたちはこれからも自分たちの“愛の定義”を問い続けていく。
――愛の力は無限大。
だが、その力は決して“誰かを支配するため”にあるのではない。
この世界にラブレンジャーがいる限り、悪は栄えない!
そして、“愛の名を借りた暴力”もまた、許されないのだ!
今日もどこかで、誰かの“違うままの愛”を守るために。
愛力戦隊ラブレンジャーは、戦い続ける――!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ED
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
♪♪♪
ラブにラブってラブラブラブ♡愛は地球を救う♡
キミにギュギュってハグハグハグ♡愛は世界を包む♡
Ah~今もしもキ~ミが~、一人で泣いてる~なら~
Ah~僕たち愛の戦士が~、キミと一緒にキミと一緒に、泣いて笑ってあ・げ・る~♡
ラーブーラーブ~♪ 愛という名の奇跡~♪
ラーブラーブ~♪ それは大いなる、チ~カ~ラ~♪
♪♪♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
ラブラブレンジャー♪ ラブレンジャー♪
あ・い・し・て・る・よ♡
(EDテーマ:「Ah……Love Love Ranger!!」)
(作詞:ラブレンジャー 歌:ラブレンジャー)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――都内某所、小さな公園。
夕焼けに染まる空の下、ベンチに腰掛ける私服姿の緑川駿也。足元には、使い慣れたスケッチブック。だが今日は、まだ一枚も開かれていなかった。
(……あの時も、夕方だったな)
ボロボロになりながら、それでも「また会いたい」と言ってくれた少女。長い前髪の隙間から、おずおずとこちらを覗いた瞳。
ただの少女。けれど“ヴィランの一族の娘”として責められていた子。
『……でも、わたしはヴィランの娘です……。だから……』
『関係ないよ、そんなの。君は一生懸命に生きてる。それでいいんだよ』
(……偉そうなこと、言ったな)
でも、その言葉だけは今でも嘘じゃないと思える。
(もし、メイちゃんがまた“どこにも居場所がない”って思い込んでたら――それでも僕はきっと、“君は君だ”って言いたい)
その時。
「……あの、駿也さん、ですよね?」
控えめだがよく通る声。
顔を上げると、一人の女性が立っていた。
柔らかな栗色の髪を肩でまとめ、落ち着いた色合いのワンピース。
背が少し伸び、表情も大人びている。だがその瞳は、あの頃と同じだった。
「……まさか、メイちゃん?」
駿也がその名を呼ぶと、彼女はぱっと顔を輝かせた。
「覚えててくれたんですね……!」
少し照れたように笑う。
「仙台に行ってからずっと……またここで会えたらって思ってました。でも、駿也さんはきっと忙しいし、もう忘れちゃってるかもって……」
「忘れるわけないよ」
駿也は即座に首を振る。
「だって君は――」
言葉を選びながら続ける。
「“誰かから向けられる憎しみ”に押し潰されそうになりながら、それでも一生懸命に生きようとしてた人だから。……僕にとって、すごく大事な“原点”なんだ」
「原点……?」
「うん。“愛ってなんだろう”って考え始めた時の」
メイは目を丸くしてから、ふわりと微笑んだ。
「……よかった」
「え?」
「もしあの時、駿也さんが助けてくれなかったら……わたし、多分、“この世界のどこにも居場所はない”って思い込んでたと思います」
胸に手を当てる。
「“生まれた家が悪いから、自分も悪なんだ”って。“そう扱われるなら、いっそ本当にそうなってしまえばいい”って」
駿也の胸がきゅっと締め付けられた。
「……ごめん。それでも、僕は君を全部守り切れたわけじゃない」
あの頃、ただ言葉で励ますことしかできなかった時間を思い出す。
だが、メイは首を振った。
「違います。緑川さんが“君は君だ”って言ってくれたから――
わたし、“どっちを選ぶか”を、ずっと考え続けることができました」
まっすぐな瞳だった。
「たとえ途中で間違えたり、迷ったりしても。“それでも自分で選びたい”って思えたのは、あの一言のおかげです」
「メイちゃん……」
駿也は、少しだけ肩の力が抜けていくのを感じた。
夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていく。
「ねぇ、駿也さん」
「うん?」
「時々でいいので――また、ここで会ってくれませんか?」
あの日と同じお願い。
だが今のメイの声には、確かな強さが混じっていた。
「もちろん。僕も、この公園には時々来るから」
「ふふ。“また会う約束”、ですね」
「ああ」
駿也は、夕空を見上げながら心の中でそっと願う。
(メイちゃん。たとえ君がどんな道を通ってきたとしても――君は君だ。それでいい。その“違うままの君”を、これからも守れる自分でありたい)
「――おかえり、メイちゃん」
気づけば、その言葉が口から零れていた。
メイは驚いたように目を瞬かせたあと、少し涙ぐんで笑う。
「ただいま、駿也さん」
~ディボーチ帝国のとある部屋~
マリオネットが吊られた静かな一室で、エヌは机に置かれた黒い指揮棒と、ほどけかけた黒糸の束を見下ろしていた。
コントーロから回収された、最後の「遺品」だ。
一本の糸をつまみ、指先で震えを確かめる。
「“みんな同じ方向を向いていれば楽になる”……だったね。ディボーチ帝国の兵士にしては、ずいぶん優しい発想じゃない」
皮肉めいた言い方とは裏腹に、声は穏やかだ。
壁から外した、指揮者を模したマリオネットの糸を指にかけ、軽く踊らせてみる。
「全部そろえれば安心できる、って考え方……嫌いじゃないよ。この世界、“バラバラのまま”だと痛いから」
けれど、すぐに糸を外し、人形をぶら下がったままに戻す。
机の引き出しを開けると、既にいくつかの小さなケースが並んでいた。宝石、欠けた仮面、砕けた武器の破片――彼女の部下だった者たちの名が刻まれている。
空いていた一つのケースに、黒糸を丸めて収め、隣に指揮棒をそっと置く。蓋に「コントーロ」と名前を刻んだ。
「お疲れさま。お前の糸は切られちゃったけど、データも解析も、“人間の癖”も全部残ってる。お前の死は……無駄じゃない」
立ち上がり、出入り口の前で一度だけ振り返る。
吊るされたマリオネットの列。
その中で、コントーロが作った指揮者人形だけが、他と揃わない小さなリズムで揺れていた。
「お前の“支配の愛”は終わったけど――ディボーチ帝国の戦いは、まだまだ続く。ゆっくりおやすみ、コントーロ」
扉が静かに閉まり、薄暗い部屋には、糸に揺れる人形たちの影だけが残った。
愛力戦隊!ラブレンジャー 蟒蛇シロウ @Arcadia5454
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