結べなくなったネクタイ
今日も眠いなぁ。
目を開けてると随分疲れるようになった。おばあちゃんはどこだ?
「おばあちゃーーーん。どこにいるのーーー??」
「はーい!ここにいますよ!おじいさんどうしたんですか?」
「んん??ああ、後ろかぁ。」
おばあちゃんは今日もせかせかしているなぁ。ぼくも動かないといけないが、身体が動かない。
でも、毎日やらないといけないことは全部やれているんだ。トイレにはいけるし、ご飯も食べられるし、夜ベッドをきれいに整えるのもぼくだから、まだまだしっかりしてるんだ。
「おじいさん、おじいさん、マサシ(仮名)さんが亡くなったんだって!」
「んん??なにぃ??」
「だーかーら!マサシさんが亡くなったの!ユキコちゃんの旦那さん!」
「マサシさん!マサシさんがどうしたんだい?」
「だから、亡くなったの!」
「えぇ!!?そうかそうか。それはお悔やみ申し上げるね。」
「ホントだよね。お葬式があるんだけどおじいさんは難しいだろうから、私が行ってきますね」
「ああ!お葬式!いつなんだい?」
「ううん、遠い場所でおじいさんが行くのは大変だろうから、私が行ってきますよ」
「なんて??」
「遠い場所だから!私が行ってくる!」
「そんな!ぼくにも行かせてくれよ」
「もぅ、、、」
どうもおばあちゃんはぼくがお葬式にいけないと思ってるみたいだ。たしかに最近は疲れるし、動きもゆっくりになってきたけど、お葬式に出られないほどぼくは弱っちゃいない。
「おばあちゃーーん!!喪服を着せておくれ!」
「なんでよもう、、」
おばあちゃんがスーツを取り出してくれた。覚えてないくらい昔に買ったのに、随分きれいに残ってるなぁ。昔のぼくはたくさん働いていたんだ。たくさん働いて博物館の館長だってやっていた。今は着ることがなくなったけど、スーツくらいまだまだ着こなせるはずだ。
ほら、おばあちゃんに手伝ってもらってるけど、背広は通せた。ズボンだって履けた。ゆっくり動けばまだまだなんでもできるんだ。なにしろスーツにはお金もかけたからね、着れないことなんてないんだ。
「あとはネクタイだけだね。おばあちゃん、手伝ってよ」
「出来ないわよ。ネクタイなんて着けたことないんだから」
あれ?出来ないな。昔は毎日つけていたのに。
ここを通してーーーあれ?またできない。
目が上手く開かないから見えづらいな。
腕が震えていうこときかないな。
あれ?ネクタイが落ちてしまった。
「おばあちゃん!手を貸してくれよ!」
「手を貸してって言われても、難しいわよ」
いくら試行錯誤してもうまくいかない。おばあちゃんも難しいみたいだ。ああ、だめだ。できない。
「ネクタイないと失礼だからね、お葬式に行くのは諦めるよ」
「ーーそうね。私が行ってくる間、施設の人にお世話になって」
「うん、そうするよ」
僕はネクタイも結べなくなったみたいだ。
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