第2話
「甘い約束」
【朝・教室】
ざわざわとした声。窓から差し込む朝の光。 黒板には「期末テストまであと3日」の文字。
千紗はノートを開きながら、ちらりと前の席を見つめる。 そこには、高瀬が友達と笑いながら話している。
千紗(心の声)
「昨日のこと……夢じゃなかったよね。 たい焼き、二人で食べて……“また一緒に”って……。」
高瀬がふと振り返り、目が合う。 その瞬間、千紗の肩がびくっと跳ねる。
高瀬 「おはよ、千紗ちゃん。」
千紗(慌てて) 「お、おはようございますっ!」
高瀬が笑って、軽く手を振る。 その笑顔を見た千紗の頬がほんのり赤くなる。
千紗(心の声)
「……“おはよう”って言われただけなのに…… どうしてこんなに、心臓が騒がしいんだろう。」
【昼休み・教室】
男子の笑い声が響く。 高瀬の周りには数人の友達。 そのうちの一人が冷やかすように言う。
友達A 「なあ高瀬、昨日、商店街で女の子と歩いてただろ〜?」
高瀬(きょとんと) 「え、ああ。たい焼き屋の帰り?」
友達B 「やっぱり! デートじゃんそれ!」
高瀬(笑って) 「違うって。たまたまぶつかってさ、たい焼き落としたんだよ。」
友達A 「へぇ〜、わざとぶつかったんじゃね? あの子かわいかったし!」
高瀬(少し照れたように) 「……わざとじゃないよ。でも、いい子だったな。」
その言葉に、教室の隅でお弁当を食べていた千紗の手が止まる。
千紗(心の声)
「……いい子、だったって…… わたしのこと、覚えててくれたんだ……。」
【放課後・図書室】
窓際の席。 千紗は静かに教科書を開き、ノートを取っている。 ページをめくる音だけが響く静寂。
そこに、ドアの音。
カラン──
入ってきたのは、高瀬だった。 片手にノート、もう片手に教科書。
千紗(驚いて立ち上がる) 「あっ……!」
高瀬(軽く手を上げて) 「やっぱりいた。図書室、好きなんだね。」
千紗(恥ずかしそうに) 「……静かで、落ち着くから。」
高瀬が彼女の隣の席に腰を下ろす。 二人の距離、机一つ分。 窓から差し込む光が、ほんのりオレンジ色。
【しばらくの沈黙】
ページをめくる音だけが響く。 高瀬が問題集にペンを走らせる。 千紗はちらりと横顔を見て、そっと目をそらす。
千紗(心の声)
「真剣な顔……かっこいいな。 いつも笑ってるのに、こんな表情もするんだ……。」
高瀬がペンを止め、こちらを向く。
高瀬 「なあ、英語のこれ、わかる?」
千紗 「えっ!? あ、う、うん……多分……」
千紗は彼のノートを覗き込み、少し説明する。 指先が近づく。 二人の距離がゆっくりと縮まっていく。
高瀬(頷いて) 「なるほど……ありがと。」
千紗(小さく) 「い、いえ……」
【静かな間】
夕陽が沈み、部屋が金色から群青色に変わる。 外ではカラスの鳴き声が響く。
高瀬が、ふと立ち上がる。
高瀬 「……そうだ。」 (ニッと笑って) 「明日、またたい焼き食べに行かない?」
千紗(驚いて) 「えっ!? また……!?」
高瀬 「前言っただろ、“たい焼きって誰かと食べた方がうまい”って。」
千紗(心の声)
「そんなの……覚えてたんだ……。」
千紗(照れながら) 「……じゃあ、行く。」
高瀬 「よし、決まり!」
笑顔で手を振り、図書室を出ていく高瀬。 残された千紗は、胸の前で手をぎゅっと握る。
千紗(心の声)
「また、一緒にたい焼き……。 こんな小さな約束なのに、なんでこんなに嬉しいんだろう。」
【夕方・外・校門前】
夕暮れの風が吹く。 校門の影が長く伸びる中、 千紗は空を見上げて呟く。
千紗 「……明日は、どんな味のたい焼き、食べようかな。」
彼女の頬に、やさしい笑み。 遠くの空では、一番星が光り始めていた。
——次回「すれ違う想い」につづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます