第10話

 いよいよ試験当日。

 家の前から家族総出で馬車をお見送りされる。

 弟はよく分かってない筈だが「ねぇね、がんらって!」と言ってくれたのには泣いた。もう落ちてもいい。いや駄目だが。

 

 ちなみに各学校の方針として身分差は考慮しないことになっている。「ことになっている」ので多少の忖度は存在する。

 ただそれを教師がやることはないし、生徒間で平民の生徒が貴族の生徒にはちょっと近寄りがたい雰囲気がある程度だ。

 あと貴族の階級差で話しかけやすさが違うとか。もちろん貴族の生徒が横暴をすれば当然に処罰の対象となる。


 なので受験受付順も来た順なのだが、王子様だけは例外だ。

 いやもちろん来た順なのだが、開門待ちの王家の馬車の前に並ぶ、度胸のある貴族や平民はさすがにいなかったようだ。チッつまんねぇな。


 とかいうウチは開門時刻ちょうどぐらいに着く感じで到着したのですけどね。

「ほほ、ウチは余裕ありましてよ下民ども」アピールだ。嘘です。私が寝坊しました。ホントなら暗黙の了解で王家の馬車の次ぐらいに並んでる予定でした。すんません!

なんで起こしてくれないかなぁ!ウチの家族!

 俺は「いい薬だ」とか父様が言っていたのを忘れない。今度母様に詰められても助けてやんないんだからね!ぷん!


 まず午前は筆記試験となる。この辺りはもう楽勝で見直しも各教科で三回ぐらいした。正直途中退席システムを希望したかった。お尻痛い。


 次に午後試験。事前に聞いていた通り的当てで、何らかの方法で的に攻撃が加われば破壊できずとも合格らしい。もちろん綺麗に破壊できれば高得点らしいが。


 そして試験は基本受付番号順に振り分けられる。つまり中くらいから最後の方だ……。

 またこの待ち時間で属性鑑定も行われるので、あちこちで「おおー!」とか声が上がる。現在プライバシーさんは裸足で逃げ出しているらしい。


 最初の方のどよめきはもちろん王子様だろうが、同じくらいの声も何回か上がった。同じ六属性持ちとかレア属性持ちとかいたのかな?まぁ争うわけでもなし、他人の属性なんて関係ないけどね。


 私の時もちょっと騒ぎになったけど、事前に王子様の六属性があったので、それほど大騒ぎにはならず、さすがはリーゼ侯爵家!ぐらいの感触で済んだみたいだ。

 たまには役に立つではないか第三王子、褒めて遣わす。などと脳内冗談を繰り出しつつ時間を待つ。……寂しくないもん。


 自分の番になるまで思ったより時間があったので、他の人の試験を見ていたが、的に届かない者、工夫して魔法で土を飛ばしたりして当てる者、しっかり届かせて破壊する者、中には的を破壊するだけでなく、背後にある防魔土嚢ぼうまどのうに届いている者もいるなど千差万別だった。


 この防魔土嚢というのは魔法抵抗力を持たせた土嚢で多少の魔法の程度ならビクともしない便利アイテムらしい。作るのに手間と費用が結構掛かるらしいけど。

 さて、残りの人数も少なくなって、いよいよ順番が近づいてきた。


 どうしよっかなー、説明で言ってたのは基本的にコントロールと威力のことなんだよね。「綺麗に」って言ってたから見た目も重視されるのかなぁ?

 ヴァルター兄様みたいに初級魔法を多数展開して一斉掃射で破壊すると派手で綺麗かもしれないけど、後ろに防魔土嚢があるなら、もう少し威力寄りでもいいのかも。

 なによりヴァルター兄様から着想を得たってのが、ちょっと気に食わない。すごいどや顔されそう。

 よし、決めた!


 前の子が終わり、お手伝いの人が的を置き直した。そして試験官から始めてよしの合図が出される。俺は魔力を収束させ、いつもより長めに集中して魔法を放つ。

「フレアランス!」


 ボヒュッ、ゴス!細く圧縮された炎の槍が赤い軌跡を残して、見事に的の真ん中を射抜いた。

あれ……?なんか周りの皆が固まってる。なんか変なことした?

 ど真ん中を綺麗に消失させただけなんだけど。


 はっとした担当の試験官が慌てて防魔土嚢の後ろを確認しに行った。

 あ、やべ、もしかして貫通してる?

 試験官はすぐ戻ってきて両手で丸のマークを作り、他の試験官に問題が無いことを伝えた。みんなホッとした表情で試験に戻る。


 試験官は私の番が終了したことを告げて、離れるように促す。

 あー良かった。さすがにこれはやらかしには入らないでしょ。ギリ危なかった気がするけど。 


 そして試験官の指示通り私が離れようとしたとき、かっ!と辺りが閃光に包まれた。そして、轟音と共に遠くで防魔土嚢が吹き飛んでいるのが見えた。

 

 あーびっくりした。どっかの馬鹿が上級魔法を思いっきりぶっ放しやがったな。せめて俺みたいに中級を収束して撃てっての。馬鹿だなぁ。

 そんな俺は「知らぬは本人ばかりなり」ということを後で知ることになるのだった。

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