第9話

 十歳も近くなり、いよいよ入学試験も明日となった。

 容姿もしっかり女の子になり、髪の色は少し赤みがかった茶髪を肩の辺りまで伸ばしている。個人的には邪魔だからショートが良かったのだが、結い上げて髪飾りを付けられるようにしておくのが、リーゼ侯爵家の淑女の最低ラインとのことで強制的にこうなった。

 普段は結んだりせずストレートで流している。目の色は変わらず翠色だ。


 またこの頃には淑女教育もとりあえずの完了となり、何処に出しても恥ずかしくないリーゼ侯爵家のご令嬢様となっていた。

 代わりに俺の精神の男の部分はもう残すところ二割ぐらいに削れたけどな。

 心の中の一人称ももう「わたし」の方がしっくりくるのだが、まだ「俺」を使っているのは最後の抵抗だと思ってくれ。


 こんな感じで結婚とかも受け入れられるようになるのかなぁ。他の同年代の子女の皆様と違って最終的に何をやるのか分かっているだけに、ちょっと冗談も大概にして欲しいという気分ではあるのだが。

 あと出産の痛みに耐えられる気がしないというのもあるかなぁ。あ、でも魔法とかある世界だから逆に大丈夫か。子供は欲しいしなぁ。


 ちなみに言い忘れてましたが、三年前に弟が生まれております!母様頑張った!ってかホント仲良いよな父様母様。まあさすがにもう打ち止めだろうとは思うのだけど。

 っていうか弟がもう可愛いったらないんだ。目に入れても痛くないほど。まさに天使!このこともあって子供は絶対欲しい気にはなっているのよね。

 この子の癒しがあったおかげで地獄のサバイバル淑女教育を乗り切れたといっても過言ではないだろう。


 さて入学試験の話だけれども、受験先は当然王立魔術学院だ。やっぱりと言うか、なんというか第三王子も魔術学院らしい。こちらはとりあえず失礼にならない程度の距離を保っていれば良いだろう。

 試験内容は筆記試験と魔法実技試験の二つ。


 筆記試験は全く問題ない。というかもう三年先ぐらいまで予習済みである。この辺りは侯爵家の威信にも関わるので、不正さえしなければ、正直もう何でもアリなのだ。

 魔法実技だがこちらも問題ない。研究科の院生と実戦形式である程度まとも打ち合えるのだし、試験形式自体も難しいものではなく、ちょっと離れた的に魔法を当てるだけといった物だ。


 ちなみに合否結果は張り出されるが、点数は公表されない。ただ主席の挨拶はあるので、誰がトップかは分かる。

 まぁ採点基準が公表されてない以上、十中八九、王子様に決まっているのだろうけど。本人自身も六属性持ちだし格としては問題ない。出来レース、出来レース。


 点数を公表しないのにはいい面もある。魔術学院は貴族が多いので、威信をかけて無茶な勉強をさせられる子供が出てくるかもしれないのだ。

 また身の丈に合わない点数を取らないようにだとか、その辺りのくだらない忖度が発生する可能性もある。ウチは関係なく全力疾走だったけどね。


 ただおそらくクラス分けは成績順になる。あと担任の先生にもよるが、席順も考慮される可能性があるとのこと。まぁそれは理に適っているので問題はないと思うけど。

 あーでもそうすると王子様と同じクラスかぁ。めんどくさいなぁ。


 特にもう復習することもないのだけど、夕食の席では家族に名前は書けとか、広域破壊魔法を使うなとか、試験が終わったらすぐに帰ってこいとか、とにかく何かをやらかさないよう注意を受けた。


 ちぇ。もうちょっと優しい方向で心配してくれてもいいのに。

 寝る前に廊下で会ったケアリー兄様が「落ち着いてやれば大丈夫だからね」と声を掛けてくれたのが、とても嬉しかった。兄様マジイケメン。


 とりあえず部屋に戻ったら、明日持っていくものを鞄に詰め、朝の準備が最小限になるようにしておく。やっぱり多少は緊張していたらしく、三回もチェックしてしまった。最悪書くものと体一つあればいいんだけどさ。もう精神もだいぶ若返ったなぁ。


 あとは夜更かししないように早く寝よう。

 おやすみなさい……。

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