第4話

 魔術学のお勉強が始まったのはいいのだが(スパルタを除けば)、実はさらにつらいのが待っていた。淑女教育である。

 魔術学は好きだからいいんだ。我慢できる。だけど淑女教育はそうじゃないから本当に厳しい。


 裁縫に刺繍、音楽、舞踊などの芸事、様々な場におけるマナー、礼儀作法、立ち振る舞い、表の顔としてのノブレス・オブリージュの考え方とその裏で蠢く社交界の常識や対処方法などなど。中には十八禁的な内容もあって、さすがに赤面してしまった。


 まだ年齢一桁なんですけど……はぁ。この世界の成人は一六歳らしいけどさ。各学校の初等部が五年制なので、おおむね一年後に成人を迎える感じだね。

 社交界デビューは成人後なので、初等部で何か不手際があっても大目に見られるのが普通なのだけれども、侯爵家のご令嬢ともなると何が命取りになるか分からないので、徹底的にやるらしい。

 何度も目のハイライトが失われていたのは涙なしには語れない話だ。


 ちなみに七歳ぐらいからは武術や乗馬などもお勉強的な枠に追加されてきた。意外なことに貴族令嬢でもこのあたりは必須らしい。将来的には趣味的なレベルでも続けるとのこと。

 なんでもお茶会とかお茶会とかお茶会が原因らしく、日常的に運動をしないと、あっという間にお育ちになってしまうらしい。


 武術は基本的には剣術ともう一つを選ぶ形式となっていた。俺は一番下のケアリー兄様と同じステゴロ、もとい拳闘術けんとうじゅつを選んだ。ケアリー兄様にいちばんなついていたのもあるし、何より前世で合気道的なやつを習っていたことがあるからだ。今世では悲しいことに、拳闘術は一番不人気で選ぶ人はあまりいないらしいけど。

 

 八歳ぐらいからは武術などもある程度形になってきて、このことから他の兄様達との交流も増え始めた。

 例えば二番目のデリック兄様は剣術バカなので、よく遊び兼鍛錬で剣を合わせている。もちろん監督できる大人がいるところでだけど。


「デリック兄様強すぎ~。つぎは拳闘術やろうよ、拳闘術!」

「やだよ、おまえ四歳も年上のケアリーとほぼ互角に打ち合うだろ?アイツ結構強いはずだぜ。」

「えーっ、じゃあ兄様は剣のままでもいいからさ。それにケアリー兄様は私に超絶優しいからだよ」

「いやでもさすがに怖いって。傷つけない自信ねぇよ。」

「そう言うと思って秘密兵器があります。じゃっじゃじゃーん!」

 言うなり持ってきていた袋から籠手こてを取り出す。武具のゴツイ籠手というよりは厚い皮の手袋状のようなものに固い素材が散りばめられた感じだ。


「なにそれ?」

「お祖父様にもらった」

「何でできてんの?」

「火竜の皮とうろことアダマンタイト?が少々だって」

「国宝級じゃねぇか!」

「使える人が誰もいないこともあって昔に下賜かしされたんだってさ」

「あー、宝物庫の肥やしを分け与える感じのヤツか」

「そそ。ケアリー兄様は何かうまく使えなかったらしくて私の所に回ってきたの」

「まぁそれならさすがに木剣くらいは受けてもケガしないかなぁ」

「うんうん。やろやろ」


 すでに薄手の籠手下手袋こてしたてぶくろを装着し始めていた私は籠手も着けて準備オーケーを伝えた。

「じゃあまずは小手調べから」

 デリック兄様が上段からのフェイントも織り交ぜながら、腕へと切りかかってきた。誰が上手いこと言えと。もちろん俺は見切っていて、次の攻撃準備を兼ねた体捌きをしながら、相手の体制を崩すべく、剣に対して籠手で角度を付けて強めに弾く。


ベキン!とデリック兄様が振るった木剣が半ばから折れた。

「「え?」」

 いやいやいやいや、いくら木剣っていっても超固いやつですから!鉄剣で弾いたとしても一撃で折れたり割れたりしないはずですよ!

「うん……」

「なんかとりあえず」

「報告だな」

「だね」

 兄様に当てる前でよかった。本当に。

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