18 操作が完了しました


 ミライはホール内に誰もいないことを確認し、扉の鍵を閉め、座席の間を走って、ステージに上がった。


 目の前にはあのアカシックレコードがある。近くで見るとすごい圧迫感だ。

 電力などは使われておらず、謎のエネルギーで動く黒く巨大なモノリス。その不気味さに、ミライは思わず後ずさった。しかしすぐに頭を横に振り、一歩踏み出して物体の下部にあるモニターへと触れた。


 ブウン、と音がして、モニターが強い光を放った。ミライが目を細めながらそれを見ると、白い画面の中央に細長い検索ウィンドウがあるのがわかった。モニターの下、ちょうどミライの顔の高さには黒いキーボードがある。


 ミライはそれで「アカシックレコードと全ての検索エンジンの接続を切る方法」と打ち込んだ。「エンター」らしきひと際大きなキーを押す。


「1件がヒットしました」


 かかとを浮かせて、モニターに出てきたリンクを人差し指で押すと、画面いっぱいに文字が映った。「このコードを打ち込んでください」という文言と、暗号のようなものがでかでかと表示されている。


 ミライはそれに従って、指定された文字列を、キーボードを使って打ち込んでいく。一分もかからないうちに書き終わり、ミライはエンターをタンッ、と押した。


「操作が完了しました」


 その表示を見た後、ミライはスマホでもう一度「今村ミライ 秘密」と調べてみた。表示されたのは、先ほどとは違って何の変哲もない検索結果だった。


 良かった、接続は切れたんだ。


 ミライはホッとして、レコードから離れようとした。しかし、すぐにピタリと止まった。


 待てよ、まだ全然良くない。全世界に私の秘密は公開されないけど、このままだと在本君には調べられてしまう。もう一度侵入しようにも警備は厳しくなってるはずだ。私の情報を非公開にするなら今しかない。


 ミライは急いでキーボードに戻り、「今村ミライ 非公開」と検索した。


 出てきた一つのリンクを押して指定された文字列をまた打ち込む。なんとか書き終わり、エンターを押す。


 しかし、ブーッという低い音が鳴り、「番号が違います」と表示された。焦って打ち間違えてしまったのだ。


 文字列がリセットされた。


 仕方ない、もう一度だ。

 ミライがめげずにまた打ち込もうとしたその時だった。


 パッと照明がついて、ホール全体が光に包まれた。


 まずい、電源が復活したんだ。逃げなければ――。


 ガシャン!! と背後で大きな音がした。振り返ると、施錠した扉を破壊して、機動隊のような人たちがこちらに向かってくる。


「捕えろ! あいつが侵入者だ!」


 ミライが逃げようとした時にはすでに遅く、複数人に囲まれ、あえなく捕まってしまった。


「今からお前をアカシックレコード不正利用の罪で連行する!」

「連行って、どこに」

「アメリカだ。レコードに関する犯罪はあちらで裁くことが決まっている」

「そ、そんな……」


 今からアメリカになんて連れていかれてしまったら、釈放されたとしても在本君の番までに戻ってこられない。


 ミライは抵抗したが、屈強な男たちはものともせず、ミライを護送車へと連れて行った。





 窓のない車で二時間ほど揺られた後、ある場所で止まった。警備隊の一人に「ここで降りろ」と言われ、渋々従う。


 降りると、顔に風が強く吹き付けてきた。目の前には海と、それを二分する大きな滑走路が広がっていた。


「ここは、当選者たちをアメリカから連れてくる際に使った廃空港だ。飛行機を出す準備が整うまで、しばらくここに居てもらう」


 警備員の一人はそう言って、廃れた空港へとミライを連れて行った。


 室内へと連れられ、そのまま薄暗い一室に入れられた。ガチャ、と鍵の閉める音が聞こえた。

 ミライは暗くて何もない部屋に、一人うずくまった。


 ミライは絶望した。

 もう、終わりだ。



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