19 応援しています
薄暗い部屋で一人でいると、自然と
いつも寝る前に思い出す、優しい笑顔。
目が合うだけで、心臓が跳ねてどこかに飛んでいきそうになる。
ああ、在本君が助けに来てくれたらどんなにいいだろう――。
そこまで考えて、ミライはその自分本位な考えにぞっとした。
どうして在本君がここに助けにきてくれる? 私は、自分の秘密が知られて嫌われたくないがために大阪までやってきて、そのせいで捕まったのに。
在本君の優しい顔が軽蔑の表情に変わっていく。
ミライちゃんって、そんな人だったんだ。もっと他人に気配りできて思いやりのある人だと思ってたけど、結局自分の事しか考えてなかったんだね。僕と仲良くしてたのも下心からだったんだ。悪いけど恋愛する気ないから、とっとと消えてくれる?
在本君がそんなことを言うはずないとわかっていながらも、悪い想像は膨らんでいく。
ミライはうずくまったまま絶望に打ちひしがれていた。
どれくらいそうしていただろう。
ふいに、光が差した。キイ、という音がして扉が開いた。
ああ、もう出発の時間なのか。私はこれから遠い国へと連れていかれるのか。
ミライはそう思いながら、入ってきた人物の顔を見た。
「……あなたは」
そこには、警備員ではなく、見知らぬ女性が立っていた。
黒白のスーツの女性。どこかの国の人のようで、どこの国の人でも無いような顔立ちをしている。ミライは思わず見とれてしまった。
たなびく銀色の長い髪を見て、ミライはピンときた。
「もしかしてあなたは、加古川さんの……」
女性はこくりと頷いた。
「私はサキといいます。ミライさん、大変な事に巻き込んでしまってごめんなさい」
ミライはふるふると首を横に振った。
「いえ、いいんです。私は自分の目的があってここまで来たんですから。それより、助けに来てくれてありがとうございます」
「感謝するのはこちらの方です。あなたのおかげで私は無事なのだから。どうもありがとう」
「そういえば、監視の人たちは?」
「上司が呼んでいると言ったらどこかに行きました。最初は疑われましたが、上司の名前を出したら血相を変えて飛んでいきました」
サキはミライに手を差し出した。
「さあ、行きましょうか。時間がありません」
外に出ると、空はもう暗くなり始めていた。
ミライがここから会場までどうやって戻ろうかと考えていると、突如轟音が上空から聞こえてきた。
ミライがパッと見上げると、ヘリコプターがこちらに降りてくる。
着陸すると、そこからアスヤが降りてきた。
「アスヤ君!」
「すまんミライ、助けられなくて。ここの位置情報が送られてきて急いで来たんだが……脱出したんだな。その女性は?」
「この方はサキさん。私を助けてくれたの」
「サキです。あなたはアスヤさんですね。話は伺っています」
その一言にアスヤもピンと来たようだった。
「ああ、あんた、加古川の言ってた……」
サキは頷く。
アスヤはサキのことをまじまじと見つめていたが、ハッと我に返ってミライに言った。
「ミライ、時間がないぞ。ヘリに乗ってくれ。……あんたはどうするんだ?」
サキは首を横に振った。
「私は大丈夫です、ありがとうございます」
そしてミライに向き直り、
「ミライさん、あなたのことを応援しています。私には隠し事をするという文化が無いのでよく分からないのですが……。ミライさんと在本さんが上手くいくよう、願っています」
「ありがとう、サキさん」
ミライはサキに手を振りながらヘリに乗り込んだ。
ヘリはぐんぐん上昇し、さっきまでサキといた場所はみるみるうちに小さくなっていった。
「さあ、会場まで飛ばしてくれ」
「くそっ、なぜ俺がこんなことを」
アスヤの指示に、操縦席の高瀬が小さい声で文句を言う。
「うだうだ言うなら俺の漫画の続き読ませてやんねーぞ」
「……チッ、仕方ねーな」
「よろしくお願いします、高瀬さん」
ヘリはとてつもない速度で空中を飛んでいく。
「そう言えば、加古川さんは?」
「ああ、加古川さんにミライの動向を電話で教えてもらったんだが、その後『僕は単独で会場に侵入してみる。アスヤ君はミライさんの救助を頼む』って。それから連絡がない。警備は更に強化されてるはずだから、捕まったのかもしれないな」
「なるほど……。加古川さん、私のためにごめんなさい!」
ミライは想像上の加古川に謝った。
「それはお互い様だろ。それより、在本君の番より前に到着できるかどうかだな。今のところかなり微妙だ」
「間に合ったとして、もう一度会場に侵入してレコードに細工できるかは怪しいがな。まあ、まずは時間内に着かないと話にならない」
高瀬がそう付け加える。
外を見るともう太陽はほぼ沈んで、夜が空の大部分を覆っている。
ミライは強く祈った。
頼む、間に合ってくれ……!
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