9 カミガミ☆アドベンチャー
「なるほど、大体わかった。ミライはその在本君に秘密を知られたくなくて、加古川さんは不倫がバレるのを防ぐために動いてるんだな」
アスヤが頷きながら言った。
「だから不倫じゃなくて密会だって」と加古川がすかさず訂正する。
「まあとにかく、二人とも秘密を隠蔽したいってことはわかった」
「そういえばアスヤ君は、ある男を追っていると言っていたね」
加古川の言葉に、アスヤは神妙な顔で頷いた。
「ああ。そいつは卑劣極まる大悪党なんだ。そいつは世界の闇と通じていて、ブラックマーケットでアカシックレコードの検索権を買ったんだ。そしてそれを使ってとんでもないことを企んでいる。絶対に食い止めなければいけない」
ミライは驚いた。
「ネットで検索権が取引されているの?」
「ああ。誰の目も届かないインターネットの深層でひっそりとな」
それを聞いて、加古川が言った。
「とんでもない悪党なんだな。そいつとは、やはり剣関連の因縁なのかい?」
その発言に、アスヤは不思議そうな顔をした。
「剣って、どういうことだ?」
予想外のアスヤの反応に、加古川も不思議そうな顔をした。
「君は剣士じゃないのか? さっきもあんなに凄い剣技で僕たちを助けてくれたじゃないか」
すると、アスヤは少し照れ臭そうにした。
「ああ、あれは違うよ。あの技は、ある漫画のキャラの真似をしてるだけだ」
「漫画?」
加古川はポカンとしたが、ミライがすぐに興味津々になった。
「えっ、漫画ってもしかして『カミガミ☆アドベンチャー』? さっきの技の名前、どこかで聞いたことあると思ってたけど、カミアドの主人公、アマテラス佐野の技だよね!」
アスヤはパッと顔を明るくした。
「そうそう、わかる!? 俺、アマテラス佐野に憧れすぎてずっと真似してたら、できるようになったんだよね、佐野の技。結構再現できてただろ?」
「うんうん、ソックリだった。
ミライとアスヤが盛り上がるのを、加古川は静かに見ていた。
「カミガミ☆アドベンチャーか。結局読んだことないな」
「えっ、加古川さんカミアド読んでないんですか? あんなに中二病みたいな単語使うのに」
「ああ。面白いとはよく聞くんだけど、なんせ何百巻もあるから、手が出せなくて」
「うわー、それは人生損してますよ。最新は二七七巻だけど、読み始めたら一瞬ですよ!」
熱のこもったミライの説得に、アスヤも乗っかる。
「本当にこの漫画は凄いぞ。巨匠・いとリバー先生が描き出す緻密な物語は、全世界を虜にしてる。加古川さんも今のうちに読んでおくべきだ」
「うーん、また今度読んでみるよ。それにしても二人共本当にカミアドが好きなんだな」
「ああ、俺なんか最近は技を模倣するだけじゃ満足できなくなって、もう自分で漫画を描き始めちゃったくらいだ」
「むしろそっちの方が自然だと思うけどね」
「えー、アスヤ君漫画描いてるんだ! その漫画読んでみたい!」
目を輝かせるミライに、アスヤは首を振った。
「嫌だ、恥ずかしい! まだ趣味の段階だし。そりゃカミアドと同じ『少年ブレス』でいつかは連載したいけどさ。まあ、ミライが自分の秘密を教えてくれるっていうんだったら見せてもいいけど」
「じゃ、じゃあやめときます」
ミライはしょんぼりした。
「じゃあその日本刀は追ってる男には関係ないんだね。一体どういう男なんだ?」
加古川が言うと、アスヤは一転して憎しみに溢れた目を見せた。
「ああ、そいつは」
その時。上空からババババと大きな音が鳴り、三人の耳をつんざいた。
「……噂をすれば来たようだ」
上空を見ると、一機のヘリが飛んでいる。そのヘリから一つの人影が飛び降りたのが、ミライにも見えた。
影は、ミライたちの前に着地した。
近くで見ると、その青年は、アスヤよりもいくらか年上のようだった。
青年はアスヤの姿を認め、ニヤリと笑った。
「よう、アスヤじゃないか。こんな所で会うとはな。お前、俺が検索権を手に入れたことを嗅ぎつけたみたいだな。コソコソ動き回ってるらしいじゃないか」
アスヤは怒り心頭といった様子だ。青年を睨みつけて歯を食いしばった。
「
「この人が、アスヤが追ってる大悪党……!」
悪どい笑みを見せる高瀬を見て、ミライは唾をごくりと飲んだ。
「ああ、そうだ。こいつが、海賊版漫画サイト『ハッピーマンガライフ』運営者の高瀬だ」
「海賊版漫画サイト運営者!?」
ミライと加古川は声を上げた。
「こんなに若い人が運営してたなんて……!」
ミライが驚嘆の感情を露わにする。
「有名なサイトだな。このサイトによる被害総額はとんでもない額だと聞いたことがある」
加古川が言う。
アスヤは高瀬を見ながら、続ける。
「最悪の犯罪者だ。コイツは違法で漫画を公開するだけでなく、流通先と繋がり、雑誌の発売前に公開してやがる。つまり、早バレだ。特に被害が顕著なのがカミアドで、多くの人が早バレの被害に遭っている」
「ゆ、許せない……!」
「コイツはアカシックレコードで何を企んでいるんだ」
「ああ、コイツは……」
アスヤは高瀬を睨んで言った。
「コイツは、アカシックレコードでカミアドの最終話を調べ、全世界にばら撒こうとしている」
高瀬はより一層不敵な笑みを見せた。
「その通り。俺の野望はカミアドの最終回を手に入れ、史上最悪の早バレを行うことだ。皆どんな顔をするだろうな。きっと喜んでくれるぞ」
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