8 かなり変だと思います


 ブイーーンという轟音が心臓まで響き、その音でミライは目を覚ました。そして、目の前の光景を見て、これを夢だと認識してもう一度眠ろうと目を瞑った。しかし、音は止まず、ミライは目を開けてまたその光景を見た。


 目の前に、チェーンソーを構えて微笑んだアレアさんが立っている。これが現実なわけがない。


「あら、目が覚めましたか。おはようございます、ミライさん」


 今日会ったばかりのアレアさんがもう夢に登場するのは不思議だ。それに、やけに質感がリアルだなあ。チェーンソーに付いている血も、凄く本物っぽい。


 ミライがまどろんでいると、横から大きな声が聞こえてきた。

「おい、ミライさん、寝ぼけてる場合じゃないぞ‼ 僕たちこのままだと殺される‼」


 加古川の切迫した声を聞いてミライは正気を取り戻した。身動きを取ろうとしたが、全身が柱に縄で括りつけられている。身体から汗が噴き出した。これは夢じゃない。


 アレアの顔がミライの顔にぬっと近づいた。

「最近多いんですよねえ、私が会場を知っているという情報を嗅ぎ付けてこの家に来る奴が。だから私は会場を教えてあげるんですけど、最終的にはこの地下室で殺しちゃうんです。だって生かしてしまったら、私のせっかくの計画が邪魔されちゃうかもしれないですもの」


「計画……?」


 ミライの呟きに、アレアが反応する。


「ええ、計画です。大量殺人のね。私はずうぅーっと人を大量に殺してみたかったんです。だけど、ちっぽけな私にそんなことができる力は無かった。でも、アカシックレコード様が私に力をくれたんです。まさに天のお導きです。

 私が計画したのは、第二回検索大会でテロを起こして当選者たちを皆殺しにするプランです。自分の人生がバラ色に変わると思って浮足立っている当選者たちを殺せたら、どんなに良いでしょう。希望から絶望に変わるその瞬間、彼らはどんな表情をするんでしょうね」


 アレアの笑顔がどんどん悪魔のような笑みに変わっていく。二人は背筋を凍らせた。


 アレアは背後にある大きな布を取り去った。すると、そこには黒光りした大きな球体が現れた。


「爆弾……?」


「そうです、超火力の爆弾です。私は、第一にこの爆弾の作り方を調べ、第二にこれを安全に運搬できる方法を調べ、最後に会場の場所を調べたんです」


「ヤバいぞミライさん。こんな奴を野放しにしたら当日大惨事になる」

 加古川が汗を流しながら言う。


 確かにヤバすぎる。計画が実行されれば当選者たちは皆死んでしまう。その中にはもちろん在本君もいる。絶対にどうにかしないと。


 ミライは必死に動こうとするが、縄の縛りが固くて少しも動けない。


「今から自分が死ぬのによく他人の心配ができますね」


 アレアがチェーンソーをふかした。ブウーンと大きな音が響く。


「ちなみに会場は日本の大阪府の大阪市民ホールです」


「日本なのかよ……!」

 加古川が明らかにがっかりしている。ミライも、ここまで世界を飛び回って結局日本なのか、と少しがっかりした。


「ごめんなさいね、何の罪もないあなたたちを殺すことになってしまって。ミライさん、あなたがさっき、私は変じゃないと言ってくれたこと、とても嬉しかったです」


「ごめんなさい、やっぱりかなり変だと思います……!」


「あらそう、残念」


 アレアがチェーンソーを振り上げた。


「うわあー‼ やめてくれー‼」


 加古川が泣きながら叫ぶ。


 ミライは、ここまでか、と諦めた。



 その時だった。


光輪突破斬こうりんとっぱざん!!」


 けたたましい声が上の方から響くと、天井がズバッと十字型に開き、一人の制服姿の青年がその隙間から降ってきて、綺麗に着地した。


「な、なんだお前は⁉」


 アレアがその侵入者めがけてチェーンソーを振りかざす。


 しかし青年は颯爽とそれを避け、手に持った二本の刀で構えを取った。


烈風十束斬れっぷうとつかざん!!」


 眼にも留まらぬ速さでアレアは斬られていた。一瞬の静けさの後、アレアは「ぐああああ!」と叫び、血を吹き出しながら倒れた。

 ミライと加古川はそれをただ呆然と見ていた。


「おいっ、大丈夫かあんたら! 怪我はないか?」






「助けてくれてありがとうございます。あなたは一体……?」

 青年に縄をほどかれて自由の身になった後、ミライは彼に尋ねた。


 青年はにこやかに答えた。

「俺は渋木しぶき高校二年の未好みよしアスヤだ。実は第二回アカシックレコード検索大会の会場を知っている人物をずっと探していたんだ。悪い奴を斬りながら情報を集めていたら、ここにたどり着いたんだけど……。あんたたちはなんでここに?」


 ミライが答える。

「私たちはそれぞれの秘密を隠蔽するために会場の場所を調べてたんです。あなたも会場場所を調べてたという事は、何か事情があるんですね」



 その言葉にアスヤは真剣な面持ちで頷いた。

「ああ。俺はある一人の男を追っているんだ」



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