5 とんでもない悪者ですよ


 モロウはこくりと頷いて続ける。


「閲覧大会の数日後に、電話が掛かってきたんです。そいつ自身がレコードの当選者で、一回分の検索を使って大会の当選者のリストを調べたのだと言ってきました。そして、私が当選した事をバラされたくなければ金を払えと脅迫してきたんです。確かに自分が当選者だとバレると様々なリスクがあります。まあ、宝くじのような物ですね。当選したと言いたくない人も一定数いて、そんな人たちを狙った脅迫です。私は元々公表しようとしていたので問題はなかったんですがね。そいつなら、何か情報を持っているかもしれません」


 なるほど、と加古川は思った。

「その電話の履歴は残ってますか?」


「ええ、残ってると思います。ちょっと待ってくださいね……」

 モロウはスマホを操作した。


「ああ、ありました。これです」


 加古川はその画面に映る電話番号をメモした。

「ありがとうございます。お忙しい中どうもすみませんでした」


 ミライも続いて「ありがとうございます」とお辞儀をした。





 二人はモロウに別れを告げ、研究所から出た。

「よし、やっと足掛かりになりそうな情報を得られた。ここまで長かったね」

「いろんなとこに飛び回って、移動が大変でしたね」

 既にGWが始まって二日が経っていた。


「そういえば、常時翻訳システムが開発されてから初めて海外の人と話しました。ずっと話してみたかったから嬉しいです」


 常時翻訳システムとは、スマホが会話をリアルタイムで翻訳し、指向性音波でその内容を自分の耳元まで届けてくれる機能である。とある日本人女性が第一回検索大会で開発方法を調べ、実現したものだ。


「この機能は最高だよね。ゆくゆくは海外進出を目指してる僕にとっても必須の機能だ」


「おっ、加古川さんをハリウッドで見れるのもそう遠くないですね。応援してます!」


「ありがとう。何にせよこれで、次のステージに行ける」



 加古川は先ほどスマホにメモした番号を打ち込んだ。電話を掛けると、すぐに相手が出た。


「もしもし。はじめまして、と言うべきだろうね。俺の番号を手に入れるとは、いったい何者だ?」

 低い男の声だった。


「もしもし。僕は日本の著名な俳優の加古川ショウだ。あなたに聞きたいことがあるんだ。会って話をさせてくれないか?」


 男はそれを聞いて少しの間黙っていたが、後にこう答えた。


「いいだろう。二日後、カナダのオンタリオ州グラントの〇〇に来てくれ。歓迎しよう」


 そうして電話は切れてしまった。


 ミライは硬い表情をして加古川に言った。


「本当に会いに行くんですか? 脅迫するような奴なんて、とんでもない悪者ですよ、きっと。やめといた方が……」


 加古川は冷静な声で言った。

「まあ、確かに危険は伴う。今回はミライさんには留守番してもらおう。僕一人で行ってくるよ」


 ミライはそれに頷きそうになったが、少し考えて首を横に振った。


「いや、私も行きます。力になれるかどうかは分からないけど、全て加古川さんにやらせるわけにはいかない。私もアカシックレコード隠蔽工作班の一員ですからね」


 加古川は覚悟を決めたミライの顔を見て、頷いた。

「分かった。絶対に君には危険が及ばないようにするよ」





 ゴールデンウィーク五日目。

 二人は男に言われた通りの住所に来た。そこは、片田舎の何もない荒れ地だった。


「本当にここなんですか……?」

「ここの筈なんだけどなぁ」


 二人が困惑していると、どこからか黒塗りの高級車が現れて、二人の前に停車した。


「どうぞお乗りください」

 運転席に乗っているスーツ姿でサングラスをかけた男が二人に向かって言う。


 二人は言われた通りに後部座席に乗った。

「どこに連れて行かれるんですかね」

「さぁ……。わざわざ車を経由するあたり、あまり知られたくない場所なのは間違いないな」



 車は約二時間を掛けて、道ともつかないような道を走り続けた。そして、ついに目的地に到着した。


 ミライと加古川が車から降りて、それを目にした時、驚きのあまり二人とも絶句してしまった。


 そこには縦にも横にも見果てない、巨大な漆黒の建物がそびえ立っていたのである。


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