4 目には目を、アカシックレコードには……
「そういえば、検索大会の会場の場所って非公開なんですよね?」
ミライはジュースを片手に加古川に尋ねる。窓の外には、雲海がどこまでも広がっている。
ゴールデンウィーク一日目。ミライたちは遥か上空にいた。加古川のプライベートジェットに乗って移動している最中なのである。
「ああ、会場を知られたら色々と騒ぎが起きるからね。どこで行われるかは完全に秘匿される」
「じゃあ私たちはどうにかして会場の情報を手に入れないといけないんですね。
んー。……あ、当選した人を尾行すれば会場まで行けるんじゃないですか?」
「いや、尾行はできないように対策されているんだ。まず、当選者たちはアメリカの国際空港に集められる。そこから飛行機に搭乗して会場に移動するんだけど、どの飛行機が会場に飛ぶのかを特定されないように、同じタイミングでダミーの飛行機が複数飛ばされるんだ」
「なるほど……。あ、じゃあ当選者にGPSを付けるっていうのは……」
「それも無理だね。搭乗前の身体検査は徹底的に行われる。怪しい物は処分されるだろうね」
「うーん。……じゃあ、飛行機に潜伏するっていうのはどうですか?」
「それも難しい。厳戒体制の中潜入するのはかなり無茶だし、そもそもどの飛行機が会場に行くのか分からないからね。飛行機を使ったアプローチは無理だと思う」
「じゃあ一体どうすれば……!」
「僕に一つ案があるんだ」
頭を抱えるミライに、加古川は笑みを見せた。
「目には目を、アカシックレコードには……ってね」
アメリカ合衆国、コロラド州、とある物理学研究所。アルバート・モロウは、量子ゆらぎの研究に没頭していた。
彼は一年前まで物理学研究者の端くれだったが、ある時期を境に量子力学の権威となり、世界にその名を轟かせた。彼に起こった一つの出来事が、彼の立場を一変させた。そう、第一回アカシックレコード検索大会への当選である。
彼はアカシックレコードで調べた量子力学に関する三つの定理を世界に発表し、それによって得た莫大な資産を世界中の物理学研究所に研究費として配り、更に学問を発展させようとしていた。彼自身もまた、その資産の一部を使って今日も研究に没頭しているのだった。
「モロウさん、お客が来ていますよ」
助手が研究室のドアを開けてそう呼びかけた。
モロウは顔を上げ、助手の方を見た。
「どなただろう。今日は面会の約束は無いはずだが」
すると、助手は困ったような顔をした。
「ええ、それが……。どうやら研究者の方ではないようで。日本の著名な俳優を名乗る男性と、女子中学生の二人が、モロウさんに会いたいと言っていて……」
研究所に入ったミライと加古川は、困惑した表情のモロウに、客室に案内された。
「あなた方は一体……? 私に何の用ですか?」
彼の質問に、加古川が答える。
「突然すみません。あなたにお聞きしたいことがありまして。実は、僕たち、第二回アカシックレコード検索大会の会場がどこかを調べておりまして。もしかしたら前回の大会で、今回の会場がどこなのかをレコードで調べた人がいるかもしれないと思い、こうして第一回大会に当選した人に聞いてまわっているんです」
モロウは加古川の顔を訝しげに見つめた。
「ほう……。わざわざ訪問してくださったあなた方に協力したいのはやまやまですが、残念ながら私は三つとも科学に関することを調べたので、お役には立てません」
加古川とミライはそれを聞いて悔しそうな表情を作った。
そして、加古川がすぐに表情を切り替えて言った。
「そうですか、ありがとうございます。もう一つだけお伺いしたいのですが、他の当選者でそれに類することを調べていた人に心当たりはないでしょうか。当選したこと自体を公表している人が少なく、どうにも情報不足で……」
「うーん。そう言われましても、自分の調べたことを公表する人なんて、私のような科学者くらいしか……。ん、待てよ。そう言えば一人、私に妙な話を持ちかけてきた奴がいましたね」
加古川とミライは顔を見合わせた。
「妙な話……?」
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