3 闇の記者団


 「よし、じゃあ親御さんに挨拶をさせてもらおう。当分ミライさんを預からせてもらうからね」


「えっ、そんなに長期間どこかに行くんですか?」


「そうだね、GWの期間は各地を飛び回ることになる。ひとまずミライさんの家へ向かおうか」


 ミライは急いで帰りの支度をして、加古川に付いていった。


「この先に僕の車を停めてる。それに乗って……ッッ‼」

 突然、加古川の表情が固まった。ミライが加古川の視線につられて前を見ると、スーツ姿の男たちの集団が目の前にいた。


「チッ、尾けられてたか」


「こ、この人たちは一体……?」


「こいつらは……闇の記者団だ」


「闇の騎士団!?  そんな悪そうな組織になぜ加古川さんが追われて……」


「あ、ああ違うよ。騎士じゃなくて記者。あいつらは、闇の記者団だ」


「ええと、つまり?」


「週刊誌の記者たちだ」


「始めからそう言ってくださいよ、紛らわしい」


 男たちが道を開けて、一人のうさんくさい中年男性が集団の先頭に出た。

「久しぶりだな、加古川。元気そうでなにより」


「ふん、いつも下っ端を使って僕を監視しているくせに。石原、もう僕に付きまとうのはやめろ。これ以上やっても何も出ないぞ」

 加古川が鋭い口調でそう言うが、石原と呼ばれた男は薄ら笑いを浮かべたままだ。


「何のことだかわからんなぁ。監視なんてしてないから好きにやればいいじゃないか。またあの美女に会いに行きたくて仕方がないはずだ」


「あの美女……?」


 ミライの呟きを聞いた石原が、下卑た笑みを向ける。


「ああ、お嬢ちゃんに良いことを教えよう。この加古川ショウはな、同じく芸能人の妻、昔谷せきたにクルミがいるにも関わらず、他の女性と密会をしていたのだ! あの銀髪美女とどういう関係なのか、彼女がどういう身分なのかを調べるために張り付いているんだが、中々ボロを出さないな、お前は。まあ、どうせ不倫だろうが」


 ミライはそれを聞いて少なからずショックを受けた。あの愛妻家で知られている加古川ショウが不倫? そんなことが公になったら、世間は大騒ぎになるだろう。


「おい、あまり大きい声で虚偽を言うなよ。不倫じゃないと言ってるだろう」

 加古川は余裕がなく、焦っているように見えた。


「ふん、口ではなんとでも言える。だが隠しても無駄だぞ。お前がしらを切ろうと、俺は真実を知ることができるのだ」

 そう言って石原はスマホの画面を突き出した。


 ミライはそれを見て驚いた。

 その画面には、アカシックレコード抽選の当選メールが映し出されていた。


 加古川はギリ、と歯を食いしばった。

「噂には聞いていたが、やっぱり本当だったか。全く、とんでもない奴が当選したものだな。考え得る限り最悪の事態だ。何としてでもお前が調べるのを阻止してやる」


「ふん、無駄無駄。お前は俺を止められないよ。レコードで得た真実を世間にばらまいてやる。あの超人気俳優のスキャンダルだ。これは凄いことになるぞ。では、また会おう。次に会う時は記事が出た後だろうがねえ」


「くそっ、こいつ!」

 加古川が息巻いて石原に飛びかかろうとするも、大勢の記者が行く手を阻む。加古川は怒りに震える手を引っ込めた。


「お、どうした? かかってこないのか? 私としては新しいスキャンダル記事が書けて助かるのだがなあ。まあ、流石に暴力沙汰は起こさないのが賢明だろう」


 石原は高笑いをしながら、記者団を引き連れて二人の前から消えて行った。



「取り乱してすまないね、ミライさん。あいつは闇の記者団、もとい『週刊幻聴』の編集長、石原だ。聞いてたかもしれないけど、あいつの部下に、その……女性と密会しているのを目撃されてしまったんだ」


 ミライは加古川の顔を見た。

「聞いてました。つまり、不倫ってことですよね」


「いやいや、決して不倫では……」


 訂正しようとする加古川に、ミライは訳知り顔で言った。


「隠さなくていいんですよ、加古川さん。つまり、加古川さんは不倫したことをバラされたくないんですよね。そりゃ誰だって知られたら困ることはあります。それをむやみにバラそうとする人は許せない。加古川さん、絶対にあいつらを止めましょうね」


 張り切るミライに、加古川はこれ以上弁明しても無駄なようだ、と肩をすくめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る