第3話 ユリウス(偽の偽

 拝啓、愛する我が妹美波里へ。


 俺は今クロスクロムガーデンの世界でユリウスの偽物の偽物になっています。


 なんて……。


 自分でも未だになにがなんだか、訳が分からない状況だ。


(幸運だったのは中身が俺に挿げ替わっても問題なく太古の悪魔としての力を使えること)


 あれから一人になるタイミングを見計らって色々とゲーム内に登場した能力を試してみたが、どれも再現することが出来た。


(使ったらすぐにバレそうな派手な力は試していないが、この様子ならそれも問題なく発動できそうだ)


 太古の悪魔が行使する力は魔族が扱う魔法と違い、異能に酷似しているため一目見ただけで俺が人外の者だと気付かれるようなことはない。


 そもそもスフェンハイム家のような悪魔との因縁がある家の出でもなければ、悪魔について詳しい人物のほうが稀な存在だ。


(だからこそ、俺がユリウスに成りすましてクロスクロムに在学できるわけだが)


 ユリウスは持病のこともあり、初年度は殆どクロスクロムに登校できていなかった。


 それ故に本物のユリウスが死んだあと、悪魔がユリウスに成り代わって復学しても学友から違和感をもたれずに済んだわけだ。


(ただ、幼少の頃からユリウスと関りがあったメンバーは今から警戒しておく必要がある)


 ルーク・オーディスティン。


 レオ・ライオネル。


 ダン・グレイウォール。


 この三人はスフェンハイム家と同じ魔族狩りの名家の出であり、クロスクロムガーデンにおける攻略対象、つまりメインキャラクターだ。


 この地に根付いてからの歴史が長く、魔族との聖戦において幾度も肩を並べ共に戦ってきたこの四家は昔から繋がりが強く。


 自然と子供のころからルーク、レオ、ダンの三人とは交流する機会があった。


(太古の悪魔は肉体からユリウスの記憶を読み取り、三人に違和感を持たれないようユリウスを演じていたが……)


 この肉体に転生したおかげか、悪魔と同じようにユリウスの記憶を読み取ることはできるが、例え知識として過去を知ったところで俳優でもない俺が完璧にユリウスを演じられるとは思えない。


(だとしても、だ)


 レティシアのためにも、俺がユリウスではないと気付かれるわけにはいかない。


 原作におけるレティシアの破滅は、禁術に手を染め太古の悪魔を喚び出したところからはじまっている。


 レティシアが外法に縋り、ユリウスを人ならざる者に変えたと知られればその時点で彼女が助かる未来はない。


 困難な道のり。


 だが、やるしかない。


 コツコツと、ドアをノックする音が聞こえてくる。


「ユリウス様。 旦那様がお呼びです」


「……ああ、分かった」


 生前のユリウスは家の中でも口数が少ない所謂、無口キャラだった。


(俺がやるとなんだか、ただ冷たい奴のようになってしまうが―― )


 それでも、下手に喋ってボロを出すよりはマシだ。

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