第4話 ある親子

 魔族との戦いの最中病状が悪化し、血を吐いて倒れたユリウスは父、ガイウス・スフェンハイムの手によってすぐに人の目に触れない部屋に担ぎ込まれた。


 つまり、父であるガイウスはレティシア以外で唯一、今のユリウスが太古の悪魔であることを知る人物ということになる。


 ガイウスはもともと魔族との戦いに勝利するためならどのような手を使おうが構わないという思想の持ち主だった。


 レティシアが産まれ、家族と過ごす時間を増やしてからは徐々にその思想も軟化していたが、妻であるミレアが亡くなってから何かに憑りつかれたように魔族狩りに勤しみ家を空けることが多くなった。


「父上」


 書斎に入ると、ガイウスは戦装束に身を包み一冊の本を手にしていた。


「来たか」


 レティシアと同じ銀色の頭髪、青い眼。


 深い海の底のような光なき父の瞳に、俺の姿が映りこむ。


(黒い髪、黄金の瞳)


 どこからどうみても俺とガイウスに血の繋がりはなかった。


「また、狩りに出るのですか」


 家の中とはいえ、どこで誰が聞き耳を立てているか分からない。


 故に俺たちはこれまで通りの親子として振る舞い、関係を大きく崩さない。


「ああ、お前が目覚めたのなら私がここに留まる理由もない。 こうしてる間にもこの身は老いていくというのに、我らの敵は一向に滅びる様子がない」


「我らの敵……」


「そうだ、息子よ。 我らの敵、魔族を、この世から一日も早く一掃しなくては」


「……」


「ユリウス。 お前に課した責務を覚えているか」


 肉体に刻まれた遠い日の記憶。


― 黄金か、いい眼をしている ―


 それがユリウスを孤児院から引き取り、父となった男の口から聞いた唯一の賞賛。


「はい」


 なかなか子宝に恵まれなかったガイウスは、ユリウスと名付けたその孤児に魔族を屠るための術を教え騎士としての己が業を継承した。


 そして、聖女としての素質を持つ娘、レティシアが産まれるとユリウスは彼女の騎士としてその力を振るえと教えられた。


「我が身は彼女の剣、我が身は彼女の盾」


「……そうだ。 その誓いを忘れぬ限り、お前は私の息子だ」


 ガイウスは手にした本をぱたりと閉じると、そのまま俺に差し出した。


「これは? 」


「我が先祖が記したお前悪魔に関する文献だ。 読むといい」


 色褪せた表紙の古びた本。


 題名もなく、軽くページを捲ると一見白紙に見えるような高度な隠蔽術が施されている。


「用件は済んだ。 あとは好きにしろ」

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せっかく異世界に転生したんだから強くなって断罪予定の義妹を救っちゃってもいいよね! 猫鍋まるい @AcronTear

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