第19話 夢に生きた少女
カノンは、とある名家に生まれたお嬢様である。
黄昏国の
そんな淑女たるカノンが魅入られたもの、それが『西部劇』である。
互いの相棒に命を預け、生死を賭けた一戦。
毎日が退屈な彼女にとって、それはとても刺激的な事だったのである。
ある時、彼女は家の拳銃を持ち出し中庭で遊んでいた。
弾は抜かれ、彼女は何度も引き金を引いて遊んでいる。
やがて時間は過ぎ、空には雲が広がっていた。
遠くでは雷の音が鳴り、屋敷のメイドは戻るようカノンを呼び寄せる。
言うことを素直に聞いたカノンが屋敷に戻る途中、悲劇が起こった。
銃を高く構えたカノンに、雷が落ちたのです。
電気が銃をを通り抜け、体を上から下まで貫通し、地面へと流れていく。
カノンの意識はそこでプッツリと消え、次に目を覚ました時はベッドの上だった。
辺りを見渡すと、両親が涙を流し喜んでいる。
娘に抱き着こうと母親が近付いた瞬間、母親は
感電と言っても強いものでは無く、稲妻がカノンと母親の間に走ったのである。
カノン達が困惑している間に、医者が部屋へと入ってきた。
そして、カノンが
その言葉を聞いた父親は目を
その理由は単純、異能者達は等しく黄昏国へと
両親の説得も虚しく、カノンは世界の意思によって黄昏国へと旅立つことになった。
これまで箱入り娘だったカノンが、黄昏国で路頭に迷う事は当然であった。
雨降る通りを避けるように、彼女は暗い路地を歩くようになる。
そこで出会ったある男、垣根。
この日、武心会の垣根と箱入り娘のカノンが初めて出会ったのであった。
銃弾が倉庫の内部で何発も飛び交い、二人は走って柱の陰へと身を隠している。
カノンはシリンダーから薬莢を排出し、新たな弾丸をセットした。
銃声がなりやみ、夜の静寂が倉庫を包む。
「ねぇロバートさん。私、今すごく楽しいわ」
カノンは上機嫌な声で、ロバートに話しかける。
弾倉内の残弾を確認していたロバートは、その声に反応しなかった。
自身の命運を分ける相棒から、目を離せなかったのである。
「殺し合いが楽しいのですか?」
「えぇ、楽しいわ!」
その声と同時に、カノンの方角から二発の弾丸が飛来してくる。
柱に当たり、甲高い金属音が響く。
「カノンさん。我々も手伝った方が、直ぐに片付きます」
「
カノンは部下を睨み、一喝する。
「私としては……全員でかかって来てくれると、直ぐに終わって楽なんですがね」
ロバートはそう呟き、拳銃を四回発射させる。
弾はカノンへと向かわず、地面や壁に何回も体当たりしていた。
そして、その反射した弾は複数人の部下へと命中する。
「うぐっ」
ロバートの攻撃を受けた部下達は
その光景を見たカノンは、またもや上機嫌になる。
「跳弾! しかもこの精度、素晴らしいわ!」
カノンは残り四発もある弾丸を捨て、新たな弾丸を装填した。
シリンダーを回転させ、柱から顔を出す。
「面白いものを見せてくれたお礼に、私からもプレゼント。人生最後に見る、最凶の攻撃よ」
カノンはロバートが隠れる柱へと、真っ直ぐに銃を構え発砲した。
その直後、嫌な予感かしたロバートは転がるように柱から脱出する。
カノンの銃から発射された弾丸は電気を発し、稲妻を纏いながら柱へと向かっていった。
柱に当たった弾丸は勢いを殺さず、鉄の柱を貫通する。
その先の壁まで達し、倉庫の壁すらも容易に貫通していった。
「運が悪いわね。あそこに居れば、即死できたの」
カノンはヘラヘラと笑い、再び銃口をロバートを向ける。
「遅いですよ、お嬢さん」
カノンが撃つよりも早く、ロバートはカノンに向けて発砲した。
倉庫内という短い距離で、カノンが弾丸よりも早く反応する事など不可能である。
弾丸はカノンの銃へと直撃し、手元から遠くへと弾き飛ばしたのであった。
「つぅ……!」
手を抑え、カノンはロバートを睨む。
「勝負ありましたね」
ロバートがそう言うと、カノンの後ろに控えていた部下が一斉にロバートへと射撃を行った。
回避の出来ないロバートはその身に一斉射撃を受け、声も出せず絶命する。
その光景を見たカノンは絶句し、近くにいた部下の顔面を思いっきり殴りつけた。
「誰が手を出せと言った!」
「一体一なんて、誰が望みました! こうしていれば、早かったんです!」
カノンと部下は言い争いになり、
「この……!」
男性と女性では力で
しかしその吹き飛んだ先で、カノンは吹き飛ばされた銃を見つけてしまった。
先程まで使用していた特殊弾は
弾は胴体を貫通し、傷口は黒く焦げている。
全身に電流が流れたのか部下は
カノンは銃口を倒れた部下に向け、肩で息をする。
他の部下達は倒れた仲間を見て決心したのか、次々とカノンに対して銃口を向けた。
「……これはどういうつもりかしら?」
「黙れ裏切り者!」
一人の部下が、カノンに対し
カノンに向けた拳銃は震え、命を賭けた決死の抵抗であった。
「アンタの勝手な行動はもう懲り懲りだ! どこかに消えたかと思えば、平然と敵と接触するし。今だって、俺たちの仲間を殺しただろ!」
カノン達が言い争いをしている中、ロバートはミガワリ符の効果により蘇る。
蘇った先で、敵同士が争っているのを見たロバートは困惑した。
(一体これは、どういう状況なんですかねぇ)
ロバートは蘇った事を気付かれないように、そっと息を殺して行く末を見守ることにした。
「お前たちも、私に逆らうのね!」
カノンが吼える部下に銃を向けた途端、囲んでいた部下が一斉に発砲した。
「なっ!」
ロバートの眼前で突如撃たれ、大量の血を流しながら地面に倒れ込んでしまった。
ロバートは落とした拳銃を拾い、カノンの行く末を見守る。
「……これは俺たちだけの意思じゃない。ボスもアンタの行動を怪しんでいた」
「そ……そんなこと、は……ない、はず」
口から血を吐き出し、部下の言葉を否定する。
部下はポケットから録音機を取り出し、一つの記録を再生し始めた。
『最近カノンの行動が目立つ。我々の計画に支障をきたすようなら、お前達で始末しろ』
その記録を聴いたカノンは絶望し、涙を流す。
「ボス……私は、貴方の為に……」
カノンは仰向けに倒れたまま、後悔していた。
自身の行った行動が、返って組織の計画を邪魔していた事を。
今なお血はカノンの体内から
部下達が再びカノンに銃を向け、トドメを誘うとする。
「くそっ……!」
ロバートは拳銃を部下に撃ち、その頭を吹き飛ばした。
突如意識しない方角から攻撃され、部下一同は驚いている。
カノンは意識がハッキリしないまま、ただただロバートに蹂躙されていく部下を見ていることしか出来ない。
ロバートと部下達では射撃の腕に勝てるはずもなく、カノンを除く者たちは皆撃ち殺されていった。
部下達を片付けたロバートはカノンへと駆け寄り、その血に
焦点の定まらないカノンは、ロバートの方へと顔を向ける。
「なんで……撃ったの」
カノンの問いに、ロバートは答えることが出来なかった。
自分でも何故動いたのかは分からず、気休めの言葉をかけることが出来なかったからである。
「私、組織を裏切るつもりなんて……なかったのに。どうして、こうなったんだろう」
ロバートは無言で、カノンの言葉を聞く。
カノンは時々咳き込み、
誰が見ても致命傷のカノンは、振り絞るようにロバートへと話続けた。
「ねぇ、ロバート。私の銃を、使って欲しいの。貴方は私の……憧れだから」
ロバートはカノンの手を、ギュッと握りしめる。
「貴方の銃は、私が継がせていただきます。カノンさん」
そう言葉を返されたカノンは喜び、笑顔になる。
「昔見た西部劇……ロバートが映っていた。憧れの人と決闘……楽しかった、なぁ」
カノンはロバートの手を離し、目を閉じ最後の力を振り絞った。
「ボス、ごめんなさい。あの時の恩は……忘れておりません。いつか、また……」
そう言い残し、カノンの意識は完全に途絶えてしまった。
ロバートは亡くなったカノンを見下ろし、その体をそっと地面に下ろす。
カノンの近くに落ちていた銃を拾い、ポケットへと入れる。
「さよなら、夢に生きたお嬢さん」
ロバートはそう言い残し、その場を後にした。
様々な遺体が捨てられた倉庫。
床は誰のものかも判別がつかない程混ざった血溜まり。
天井にに開けた穴からは月明かりが差し、カノンの遺体を照らす。
血の池に浮かぶカノンは、他の遺体と比べて明るく映し出されている。
闇の世界で生きた少女カノンは、憧れの男に看取られ、その人生に幕を閉じたのであった。
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