第18話 望まぬ再会
互いに望まぬ再会を果たし、二人の脳内にこれまでの出会いが蘇る。
あの日教会で出会った二人、今度は暗い倉庫で出会うことになってしまった。
「白……」
「来ちゃダメ!」
近付くクレアを白は声で制止させる。
その表情は喜びではなく「この場から逃げて欲しい」と懇願する、そんな表情であった。
隙間から照らす月明かりが白の顔を映し出し、頬がうっすらと輝いて見えた。
「クレア……逃げて」
その言葉を聞き、才華は剣を正面へと構える。
白に拒否されたクレアは、内心傷付くも諦めなかった。
一本ずつ、すり足で白に近付く。
音が近寄る度に、白は後方へと逃げていった。
「そこまでにして頂きたい。ミガワリ屋店主、クレアさん」
突如響いた声に、クレア達は驚き顔を上げる。
倉庫二階の壁側まで光は届いておらず、闇が広がっていた。
しかし、僅かにそこに何かがいるとクレア達は気付く。
それは正体を表すように、ゆっくりと光の方へと進んで行った。
光は足元から徐々に胴体、顔へと照らし出していく。
「ソレから離れてください、一刻も早くね」
白いシャツに黒いズボンを履いた男が正体を表す。
男は白を指さし、クレア達に離れるよう命令する。
才華は剣先を男に向け、戦闘態勢に入った。
「誰だお前は」
男はネクタイを締め直し、才華を見下ろしている。
「武心会のボス、
垣根は何処からともなくナイフを取り出し、クレアに向かって投擲した。
咄嗟の出来事にクレアは身動きが取れず、飛んでくるナイフをじっと見つめていた。
「クレア!」
白が叫び、近付こうとするも動けない。
首輪が白の首を締め付け、呼吸を遮られる。
そんな事は露知らず、才華はクレアの前に飛び出しナイフを防いだ。
才華はより一層
「何のつもりだ」
才華の問いに、垣根は「やれやれ」と呆れた。
手すりを乗り越え、地上へと着地する。
またもやナイフを取り出し、その切っ先をクレア達に向け話し始めた。
「そこの亜人に近付かないで頂きたいと、先程も言ったんですけどね」
垣根はゆっくりと前身し、白の真横に辿り着く。
「我々組織の計画に邪魔なんです。この亜人は実験体ですからね、極力外部と接触させたくないですから」
そう言った垣根は、白に鋭い蹴りを放った。
横っ腹を蹴られた白は仰け反り、蹴られた箇所を抑えてうずくまっていしまう。
「垣根!」
その光景を見たクレアは叫び、駆け寄ろうとする。
しかし、その行動を才華は片手で引き止めた。
クレアは歯を食いしばり、恐ろしい形相で垣根を睨む。
「そう怖い顔をしないでください、亜人一匹に何故そこまで
垣根は表情一つ変えず、淡々と話し続ける。
その行動で、彼が亜人に対し差別的であると誰でも理解できた。
「この……ひとでなし! 亜人は実験動物じゃない!」
「……その『亜人』って言葉も差別的なのは理解していますか? 亜人とは書いて文字通り、人類の亜種ですよ。つまり我々とは違う人類なんです」
興奮するクレアとは反対に、垣根は冷静に場を見ている。
この倉庫にクレアと才華以外いないのを確認すると、ポケットから一つのリモコンを取り出した。
垣根がリモコンの先を白に向けると、白は今まで以上に怯えてしまう。
体は小刻みに震え、顔は真っ青になっている。
「や……やめてください。それだけは……!」
「黙れ。俺はお前に
「やだ……嫌だ!」
白の懇願も虚しく、垣根は非情にそのボタンを押す。
垣根がボタンを押すと、先程まで喚いていた白は静かになり、両腕を垂らしている。
「白……?」
クレアが声を掛けるも、反応は無い。
目は虚ろになり、脱力した姿はさながら人形の様である。
「もう全ては無意味だ。……よし、アイツらを
垣根がそう命令すると、先程まで無気力だった白の体が反応する。
体を一度震わせた後、白はその場で立ち上がった。
虚ろな目でクレアを見つめ、呆然と立ち尽くす。
垣根が白にナイフを投げ渡した。
「……クレア、私の後ろに」
才華は
クレアが白を見つめていると、突如視界から白が消えた。
直後、物凄い金属音が近く鳴り響く。
クレアが顔を上げると、目の前では才華と白が斬りあっていた。
亜人の身体能力を利用し、一気に跳躍した白。
クレアの目には消えた様に映り、それを捉えた才華が受け止めたのであった。
「
垣根は薄ら笑いを浮かべ、白の状態に喜んでいた。
二人の戦闘で呆気に取られていたクレアは、その声を聞き垣根の方へと視線を戻した。
垣根は口角を上げ、静かにクレアを見つめている。
「『洗脳装置』だと? なんだそれは」
海堂と戦闘中の四星は、そう呟く
四星の周りには複数人の部下が地面に伏しており、四星は海堂と向かい合っていた。
海堂は額に汗を流しながら、四星の攻撃をいなしている。
「アンタ達、あの亜人を助けに来たんでしょ。でも無駄なんだよね」
海堂は四星から距離を取り、息を整え始める。
一方四星は余裕な態度を見せ、海堂の息が整うのを待っていた。
「あの子の首に付いている首輪、あれが洗脳装置。ボスが持ってるリモコンで装置が作動すると、自分の意識は消えてボスの命令しか効かなくなる」
四星が襲ってこないと分かると、海堂はその場で大胆に深呼吸を始めた。
「身体能力は強化され、組織にとって都合のいい道具に成り下がるんだよ」
「それは……随分とタチが悪いな」
四星は構えを取り、海堂に向き合う。
対する海堂はナイフを取り出し、四星に立ち向かった。
素人がナイフ片手に突っ込むような行為はせず、軽く斬る様に海堂はナイフを振る。
四星は海堂の攻撃を避け、流し、受け止めては攻撃を回避していく。
海堂がいくら攻撃を仕掛けても、四星にはその攻撃は届かなかった。
「元自警団だと言ったな、なぜ辞めた?」
四星の質問に海堂は止まり、四星と正面から向き合った。
「別に……上と意見の食い違い。よくある話でしょ、人が組織を抜ける理由なんて」
攻撃ばかり仕掛けていた海堂は汗をかき、またもや息が上がっている。
肩を上下に動かし、海堂は自分の不甲斐なさに呆れていた。
(て言うか、やっぱりコイツつぇー……さっきから攻撃がかすりもしない)
納得しない様子の四星は拳を下ろし、腕を組み始めた。
その行動の意味が理解できない海堂は、より一層警戒を強める。
「お前、この仕事向いてないよ」
四星の言葉に、海堂はモノも言えなかった。
突然の言葉に反応できず、口を開けて
「き、急に何。仕事に向いてない? 馬鹿言うなよ」
海堂はナイフを四星に向け威嚇するが、四星は気にもしない。
依然腕は組んだままだが、顔だけが海堂にしっかりと向いている。
「お前、前に姫を襲撃した時も
「そうだったかな。全然覚えてないけどね」
四星はため息を吐く。
そんな態度の四星を見た海堂は、段々と腹が立っていった。
「人も殺せない奴が、この業界で生きていけるわけない。他に何か理由が……」
四星がそこまで言うと、突如眼前にナイフが迫ってきた。
四星は顔を反らし、余裕の表情で避けてみせる。
海堂に目をやると、怒りの表情で四星を見つめナイフを手放していた。
「知った様な口を聞くな! お前に何が分かる!」
海堂は鼻息を荒くし、彼女の怒りは蒸気が立ち上る幻覚すら見えるようであった。
「図星か」
四星は構え、海堂に再び向き合う。
海堂は怒りを全身で表しながらも、再び取った構えに隙は見当たらなかった。
(さて、他の二人は大丈夫かな)
四星が諏訪とロバートの心配をしている間にも、海堂はじっくりと着実に近付いてきている。
二人が拳の間合いまで近付くと、ほぼ同時にその拳を振りかぶった。
二人の拳が顔面を直撃し、大きな衝撃音が鳴る。
パァン!
ロバートと対峙するカノンが、天井に銃を向けて一発撃ちあげる。
まるで二人の再会を祝福する花火のように、天井にぶつかった弾丸は小さな火花を散らして消えていった。
「実を言うと、貴方に会えて嬉しかったの」
カノンは銃を腰のホルスターへと戻し、二人の中心にとある物を放り投げた。
その物体は導火線に火が付けられ、小さな筒が幾つも繋がっているのが分かる。
「貴方とはサシで勝負したいの、ロバートさん」
カノンが手を上げると、周囲の部下はカノンの後ろへと下がっていった。
状況が飲み込めないロバートは、相手に主導権を握らせたままである。
「この爆竹が爆発した時、これが勝負の合図。貴方の得意分野じゃなかったかしら?」
「……なるほど、そういう事ですか」
ロバートも銃を戻すと、お互い爆竹を真ん中に正面へと立つ。
さながら西部劇の様に、二人は合図が鳴るまでその神経に全集中した。
導火線の燃える音が、倉庫の内部で僅かに音を響かせる。
ジジジッと音を立て、遂にその時はやってきた。
一つ目の筒が爆発した瞬間、ほぼ同時に銃を抜く。
二つ目の筒が爆発するより早く、二人は発砲した。
煙を切り裂き、二人の弾丸はなんと互いにぶつかってしまう。
衝撃により割れた弾丸は周囲に飛び散る。
そして、それは二人の決闘の続きを知らせる音でもあった。
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