第20話 三度目の正直 前編

 ロバートがカノンと決着をつける数分前。

 諏訪を殺した武心会のメンバー二人と、その本人が対峙していた。


「さぁ……来いよ諏訪ァ! いい加減決着付けようぜェ!」


 諏訪に対して叫んだスケアは、狙撃銃を向ける。

 銃口を向けられた諏訪は、異能を発動し一気に加速した。


「はやッ!」


 スケアは必死に標準を合わせようとするが、諏訪に動きについていけずにいた。

 懐まで辿り着き、スケアを殴ろうとしたその時。


「やらせないよ」


 隣で控えていたオリバーが、諏訪に対して発砲しようとする。

 しかし、オリバーの体は動きが鈍くなっており思うように動かない。

 諏訪はオリバーを一瞥し、彼に対して異能を発動させていたのである。


 (体の自由が……いや、動きが遅くなっている?)


 満足に援護をされなかったスケアは、諏訪の強烈な一撃をくらってしまう。

 どんなに狙撃銃が強力でも、これ程接近されてはその効果を容易に発揮できない。

 愛銃を封じられたスケアは、ひたすら諏訪に殴られている。


「この……いい加減にしやがれェ!」


 ナイフを取り出したスケアが、諏訪に斬り掛かる。

 しかし、その攻撃に反応した諏訪は軽くいなしてしまう。

 そのまま流れる様にカウンターをお見舞いし、スケアの意識は段々と遠のいていく。


 (まずい、このままじャ……意識が!)


 諏訪がトドメの一撃をくらわせようとしたその時、目の前から瞬時にスケアの体が消えてしまう。

 辺りを見渡すと、少し離れた場所です二人が諏訪を睨み立っていた。

 スケアは血が滴る鼻を抑え、オリバーはスケアに触れた諏訪を睨んでいる。


「よ、よくアイツと離してくれたなァ。オリバー」


 オリバーを褒めるスケアの足はガクガクと震え、諏訪の攻撃によって相当ダメージを負ったと理解できた。


「……お前らどっちかの異能だな」

「だとして、お前に勝ち目はあるのか?」


 諏訪は拳を叩き、自信満々に答える。


「当然だ」


 第二ラウンドが始まろうとした直後、近くで大きな衝撃音が聞こえてくる。

 諏訪は感覚的に、隣の倉庫からする音だと判断した。


「カノンの奴、を使ったなァ。仲間は死んだかァ?」


 スケアはニタニタと笑い、諏訪を挑発する。

 隣の状況が気になる諏訪だったが、目の前の二人から逃げる事を許さなかった。

 目の前にいる怨敵。

 諏訪は仲間を信じ、目の前の二人に集中することにしたのだった。


「生憎、俺の仲間は強いんでね。お前らみたいな雑魚には負けねぇよ」


 それを聞いたスケアの顔に青筋が立つ。

 今までの解析するに、スケアは挑発に弱く怒りで自我を見失いやすいと。

 対してオリバーは常に冷静であり、スケアを宥める司令塔と機能している。


「よし諏訪。今から地獄見せてやるよォ」


 スケアがそう言うと、服の下からを取り出した。

 外見は鉄で出来ており、目立った装飾は施されていない。

 スケアが取り出した首輪を見たオリバーは、目を見開いて驚いた。


「スケア、その首輪はまだだ。使用するな」


 オリバーの警告を鼻で笑い、スケアは首輪を取り付け始めた。


「散々亜人で試したんだろォ? 俺達に持たせるって事は、ボス直々に『使え』って司令なんだよォ!」


 首輪を取り付けた途端、スケアの心臓が大きく鼓動した。

 心臓の動きが徐々に早くなり、身体中に血液が素早く巡る。


「がァ……これは、効くなァ!」


 スケアの両腕には赤い線が浮き上がり、先程までの様相とは全く異なっていく。

 諏訪が最大限警戒し異能を発動させようとした瞬間、視界からスケアが消え去った。


「!?」


 諏訪が驚いていると、急に目の前にスケアが現れた。

 時間にしておよそ一秒弱。

 諏訪の左頬に強烈な痛みと衝撃が襲った。

 あまりにも強烈な一撃に、諏訪はたまらず吹き飛んでしまう。


「いー感じだァ。この力があれば……何だって出来るぜェ!」


 自身の強化された身体能力を実感し、スケアは甲高い笑い声を上げる。

 吹き飛んだ諏訪は唇から血を流し、痛む体に鞭を入れ何とか立ち上がった。

 スケアは指で向かってくるよう挑発し、諏訪を嘲笑あざわらう。


「スケア、正気を保てる時間は五分だ。その間にケリを付けるぞ」


 オリバーは銃を構え、スケアにそう指示する。

 スケアも構えを取り、諏訪に向き合う。


「五分かァ……今の俺には充分すぎるなァ!」


 その言葉を皮切りに、またしてもスケアの姿が消える。

 スケアを視界に捉えようと諏訪が辺りを見渡すが、オリバーがそれを許さない。

 一瞬隙が出来た合間を狙い、オリバーは諏訪へと発砲を繰り返す。

 そうして回避行動を取った諏訪に対し、スケアは強烈な一撃を与えていった。


 (厳しいぜ……息の合ったコンビネーション。こっちが不利すぎる)


 既に相当ダメージを負った諏訪は顔を腫らし、立っているのもやっとだった。


「そろそろ終わらせようか」

「だなァ」


 オリバーがトドメを刺そうと引き金に指をかける。

 自らが殺される瞬間を、諏訪は受け入れるしかなかった。

 三度目の敗北。

「復讐は成し遂げられないのか」と悔やむ中、無慈悲にも大きな発砲音が倉庫を反響する。

 

 諏訪が目を逸らし着弾する瞬間を待っているが、一向に痛みが来ない。

 そっと目を開け自身の体を見るも、出血していなかった。


「誰だ!」


 オリバーがそう声を上げる。

 諏訪が前を向くと、片手を抑えたオリバーが倉庫の入口へと向いていた。

 手に銃は持っておらず、抑えている手の隙間からは血が流れている。

 諏訪も入口へと視界を向けると、そこには一人の男が硝煙を立ち上げながら立っていた。


「助太刀に来ましたよ。……間に合いましたかな?」


 拳銃を構えたロバートが、月明かりを背景に登場したのであった。

 銃口をオリバーに向けたまま、ゆっくりと倉庫の中へと入ってくる。


「ロバート」


 諏訪の声に、ロバートは片手で軽く返事をした。

 突如乱入した男に、スケア達は警戒を深める。

 先程までの会話から見て、ロバートと諏訪が協力関係であると察知したからであった。


「……第二ラウンド開始ってかァ?」


 スケアはナイフを取り出し構える。

 オリバーはスケアから銃を受け取り、ロバートを睨む。

 一つの倉庫に四人が集まり、決戦が今始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る