第4話 魔法強盗、コンビニを選ぶな

深夜コンビニバイト四日目。


俺はもう、ある意味で悟っていた。

いや、もう悟りすぎて軽く仏陀。


もはや新人バイトではない。


現代魔術社会深夜勤労戦士である。


(今日は何が来る?

呪物? 異世界人? 喋る食品?

それとも電波トースターの反乱?)


どんなものが来ても驚かない自信があった。


……いや、正確には“驚いてもツッコむ余裕”はできた。


深夜二時半。

静まり返った店内。

蛍光灯がジジッと鳴り、コーヒーマシンの蒸気がふっと消える。


嫌な気配。


(あーー来るやつだコレ)


俺の脳が警報を鳴らした瞬間――

ウィーン。

自動ドアが開いた。


同時に、バチィィィッ!!

店の防護結界が一瞬、青白く光を放ち、空気が震えた。



「……はい来た」


もう諦めにも似た声が出た。

入ってきたのは、黒いローブをまとった男。

顔は深くフードをかぶって見えない。


だが、魔力の圧が露骨にヤバい。

空気が重くなる。


冷蔵庫のドリンクがカタカタ揺れた。

コンビニに来る圧じゃない。



来店者オーラ、マイナス三千。


「いらっしゃいませー……」


俺の声は引きつっている。

営業スマイルとは。もはや儀式。


男はレジ前へノロノロ歩み寄り、

低くざらついた声で言った。


「……動くな」


(来た。強盗。ほんとに来た。しかも魔術系)


俺の心の中のツッコミが深夜テンションで暴走。

(いや待て待て待て。コンビニ狙うなよ!

銀行行け! もしくは金属加工所行け!!)


男の足元に、紫色の魔法陣が展開された。

空間拘束系。


逃げ道を塞ぐつもりらしい。

しかも発動速度が速い。上級者の動き。


「抵抗するな。この店の魔導金庫を開けろ」


「……あの」


「黙れ」


「いや、その前に」


一瞬、沈黙。


沈黙の圧が強い。が、俺も慣れている。


「ここ、コンビニです」


「だから何だ」


「置いてある金、そんなにないです」


一瞬の沈黙。


そして、重苦しい声。


「……嘘をつくな」


「本当です。だいたいレジ金合わせて、二万いかないです」


「魔導金庫があるだろう!」


「ないです」


「ふざけるな!!」


男が吠えた。


その瞬間、魔力がドンッと膨れ上がる。

店内のポスターがビリビリと震え、棚がガタガタ揺れる。


ペットボトル「グリーンチャージ」とか派手に転がってる。


(あーもう。これ今日も確定パターンじゃん)


(呪物よりマシか……いやマシじゃない!)


男の詠唱が始まった。


「《空間圧縮――》」


見たことある。

大学の講義で扱った“やっちゃダメな危険例”。


(はいはい写呪案件ですね)


俺は魔力を整えて、同じ魔法を一段階だけ弱く、

かつ逆向きに組み上げる。

逆圧縮=拡張。


方向を間違えれば大事故だが、もう慣れた。


「なっ――!?」


男の魔法がねじれて、

まるでゴムが跳ね返るように“自身を締め付け始めた”。


「ぐっ……!? な、なんだこれ……!」


「お客様、店内での空間歪曲は禁止です。

あと、棚がずれるのでやめてください」


冷静にアナウンスしてみた。


防犯モードの自動音声より冷静。


「何者だ……お前……!」


「ただのバイトです」


事実である。多分。

男は必死に魔力を解放しようとしたが――


ビィィィィィン!!

天井の防犯結界が完全起動。


青い光の檻がドーム状に降りて、男をすっぽり囲った。


「な、何だこれは!?」


「防犯システムです」


「コンビニに!?」


「はい」


心の中で“ドヤ顔”を決めた。

この世界のコンビニを舐めるな。


魔力犯罪対策・最前線、それが“C‐MART”だ。

結界内でじたばたする強盗。

完全監禁状態。


「くそぉぉぉ……!」


彼は魔力出力を上げようとするも、

結界内で自爆しそうになって青ざめた。


「……あの、床が焦げるんでやめてもらえます?」



「ぐ……! この私が……こんな……!」

「次は輸送陣呼びますねー」


俺は店の端末を操作し、通報ボタンをタップ。

ピロン♪ と軽快な音。


「数分で来ますんで、反省タイムでもしててください」


「小癪なバイトめ……」


「ありがとうございます。シフト四日目です」


数分後。

魔法犯罪対策課の職員が到着。


制服の人たちがテキパキと拘束術式を展開し、黒ローブの男は連行されていった。

去る間際、男は俺に向かって叫んだ。


「覚えておけぇぇぇぇぇ!!」


「はい、お客様アンケートはご遠慮ください」


自動ドアが閉まり、静寂が戻った。


「……コンビニを選ぶな」


俺はレジに突っ伏して、心の底からつぶやいた。

本当に頼む。ターゲットの選別をしてくれ。


店長がバックヤードからひょっこり顔を出す。



「いやー、今日も大変だったねぇ」


「……店長」

「ん?」


「これ、バイトの業務範囲ですよね?」

店長は、一瞬だけ黙って目を泳がせた。



その目の動きが、すでに答えだった。


「……慣れれば楽だから」


「誰だよぉ!!!」



俺の叫びが、深夜のコンビニに虚しく響いた。

その叫びさえ、監視カメラにしっかり記録されているだろう。

翌日。


街の裏通りでは、ある噂がひっそりと広がっていた。

『あのコンビニはやめとけ。

魔術が弾き返される。

レジの兄ちゃん、何者だ』

俺はそんなこと全く知らずに次の夜勤に向かう。



時給は――


まだ上がっていない。


(どこまでが“慣れ”で、どこからが“修羅場”なんだ俺……)

深夜の街にため息が溶ける。

そしてまた、自動ドアが“ウィーン”と鳴いた。







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コンビニ魔術師は深夜シフトに生きる〜酔っ払い魔術師やら異世界迷子やら魔法犯罪者まで来るんだけど。時給アップしませんか?〜 さまたな @SAMATANA

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