第2話 深夜コンビニに、喋るおにぎりが現れた

第一夜をなんとか乗り切った俺は、


「まあ初日がたまたまヤバかっただけだろ」

という、人類が歴史の中で何億回と繰り返してきた致命的な勘違いを、見事にやらかしていた。


深夜コンビニは楽。


そう信じたい。

いやもう、信じさせてくれ。お願いだから。


昨日は火花と幽霊と重力崩壊だった。

あれはきっと、“魔力の流れがちょっと悪かった日”なんだ。


人間で言えば、占いで「凶」が出た日。

つまり今日は、大吉のはず。たぶん。きっと。

午前一時。

いつも通り、静寂。


「……うん、平和」


客はいない。

レジは暇。

コーヒーマシンの蒸気が唯一のBGM。

魔法暴走も、幽霊来店もなし。


「昨日のは例外だ。あれはレアケース」


昨日の俺が見たものなんて、いわば“開幕の試練”だ。

ゲームで言えばチュートリアルボス。

あとはぬるい夜勤ライフが待ってるはず。

――そう自分に言い聞かせた、その瞬間。


「……おい」


「?」


今、声しなかったか?

店内を見回す。


誰もいない。


「……気のせいか」

ああそうだ、きっと気のせい。


さっき魔力コーヒーも飲んでないし、寝不足で幻聴が――


「おいって言ってんだろ!!!」


「!?」


声の発生源は――

おにぎり棚だった。


正確に言うと――



「ツナマヨおにぎり」



……だった。


「……え?」


ちょっと待て。

落ち着け俺。

おにぎりが喋る?

そんな馬鹿な。


俺の脳が疲労で幻覚を見てるだけだ。

魔術的自律錯覚現象(※今考えた)。


「無視すんなよ! 寒いんだよここ!」


喋った!!


いや普通に喋った!!!


「……お、お前、誰だよ」


「誰でもいいだろ! それより早く売れ!」


「売れるか!!!」


俺は本気で頭を抱えた。


(落ち着け……これはきっと魔術的現象……そうだ、魔術の暴走による物質間転写……)


いや、そんな難しいことどうでもいい。


事実として、「ツナマヨ」が文句を言っているのだ。


おにぎりなのに。

いや、ツナマヨなのに。

棚をよく見ると、おにぎりの周囲に微妙に歪んだ魔力の膜が漂っている。


まるで小さな熱気のように空気が揺らいでいる。


「呪物化……? ってことは……」


考え込む俺に、ツナマヨがさらにキレる。


「おい! 人の話聞け! いやおにぎりの話か!? どっちでもいいけど寒いんだよ!」


「おにぎりが“寒い”って言うな!」


ツナマヨ、怒声。


俺、精神崩壊寸前。

そんな中――

自動ドアが、ウィーンと開いた。


「いらっしゃ――」


「これ、返品できます?」


やってきた客は、三十代くらいの男。

見た目は普通。スーツ姿、寝不足気味。

だがその手に持つ“黒い小箱”が……やばい。


いや、視界に入れた瞬間わかる。

あれ、“呪い系”だ。


絵面がホラー映画クライマックス。


「……何、それ」


「呪物です」


軽っ!!

まるで“ポテチ買いましたけど味違いました”的なノリで言うな!!


「いや、ここコンビニなんですけど」


「知ってますよ。買ったのもここですし」


知らねぇよ!!


誰がそんなヤバいもん仕入れたんだよ!!

箱から漏れる魔力が、空気を歪ませる。


しかも――おにぎり棚の前。

おにぎりがピクッと揺れる。

嫌な予感しかしない。


「……おい!! そいつヤバいぞ!!」


ツナマヨが絶叫した。


「おにぎりは黙ってて!!」


もうどっちが正しいか分からん。俺はとりあえず深呼吸した。


(写呪……昨日見た呪縛緩和の術式……いける、はず)


目を凝らすと、黒い小箱には簡単な封印陣が刻まれている。

けど、構造が甘い。雑すぎる。


素人がネットで拾った“なんちゃって呪術”だ。

俺は流れをコピーして、劣化版ながらも“魔力を緩める”術式を発動させた。


空気が一瞬、ピンと張り――

次の瞬間、ボフゥッと音を立てて、箱の魔力が抜けた。


「……あ、静かになった」


箱を見つめる男、平然。


「返品できます?」


「できません!!!!」


呪物は返品不可です!!コンビニに返品制度はありません!!返品したら地獄に行くわ!!


「そ、そうですか……」


男はなぜか納得して帰っていった。

静寂。


っつーかツッコミどころが多すぎて頭の整理が追いつかん。


おにぎり棚に視線を戻すと、ツナマヨはぴくりとも動かない。



というか――普通のおにぎりに戻っていた。


「……あれ?」


俺が戸惑っていると、店のスピーカーからBGMが流れ始めた。



♪コンビニ限定・魔法の夜セール~ 呪物も半額~♪


「やめろその広告ぅぅぅぅ!!!」


レジカウンターに頭をぶつけながら、俺は深くため息をついた。

天井を見上げながら呟く。


「……昨日より悪化してない?」


いや、確実に悪化してる。

昨日はまだ“人が”問題を起こしてたけど、今日は食品が喋った。


次は何だ? サンドイッチが踊るか?

深夜コンビニは楽。

誰だ、そんなこと言ったやつ。

真壁か? あの野郎か?


「――本当に誰だよ!!!!」


俺の深夜シフトは、平和の方向へ行く気配など一切なかった。








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